111 釣浮草ー3
「まあ、ロクサーナ様は伯爵令嬢とはいえ、学年も違いますし私達をお茶会に招待することもないでしょうから、こちらから接触しなければ問題はないと思いますわ」
「確かにそうですね。それでいうと同じ学年になる来年の新入生は大変ですね」
「王太子選抜から外れたとはいえ、王族のジョセフ様とエメリア殿下と同じ学年。しかも伯爵家ですから高位貴族クラスですからね……あのお2人に迷惑が掛からなければいいのですが」
「まさか! 迷惑をかけたらそれこそバスキ伯爵家の危機でしょうから、そんな愚かな真似はしないですよ」
和やかに笑い合う友人達に合わせたようにわたくしも笑ったが、内心ではロクサーナ様がヒロインだったらがっつりと2人と絡んでしまうんじゃないだろうかと思っている。
まあ、ヒロインだったら、というかヒロインなのだろうけど、ゲームの設定とずれがひどすぎてどうしたものかと考えてしまう。
少なくともティオル殿下はダンスをしなかったし、義兄とは接触すらしていない。
これはわたくしが悪役令嬢を免れたという事なのではないだろうか。
そうなると誰が悪役令嬢になるのかという事なのだが、ダンスを踊ったことを考えるとファルク様のルートで悪役令嬢になるアーシェン様の可能性が高い。
このルートに入ると、ファルク様が魔術学院の臨時講師として赴任することになり、ヒロインとの交流を持つようになっていくのだが、果たしてファルク様は臨時講師になるのだろうか?
毎年魔術師団や騎士団から臨時講師になる人はいるのだが、それが師団長という事は滅多にない。
叔父に聞けば誰が来年の臨時講師になるのかわかるだろうが、わたくしからあえて叔父に接触を持ちたいとは思えない。
やはり精霊に探らせるしかないのだろうか?
「王太子選抜と言えば、ティオル殿下はいつになったら王太子に指名されるのでしょうね?」
「今は議会が承認するか話し合っている状態だと聞いていますわ。神殿にも届け出を出して許可を貰わないといけませんし、時間がかかるのは仕方がない事でしてよ」
「そんな形式上のことなど早く済ませてしまえばよろしいのに」
「そうですよ。私達は早く王太子妃になったベアトリーチェ様をお支えしたいのですから」
まったくだと頷く友人達に思わず苦笑してしまう。
「皆様のお気持ちは嬉しいのですが、まずは婚約者として王太子妃教育を受けるところからですわ」
「それはそうですけど、卒業後はすぐにでも結婚式を挙げるのでしょう?」
え、そんなこと聞いていないが!?
「若いお2人がゆっくりと夫婦生活を送れるように、陛下達も譲位は子供が数人出来てからとお考えだとか」
だからそんな話聞いてないんだが!?
「正直、ティオル殿下がベアトリーチェ様以外に手を出さないと宣言した時は安心しました」
「私もです。側妃になってベアトリーチェ様をお支えするのは構いませんが、ベアトリーチェ様とティオル殿下を共有するのは気が引けていましたもの」
「そうですよね。子供を産むのはともかくとして、ベアトリーチェ様の旦那様と肌を重ねるのは抵抗がありました」
そうなのか!? いや、閨を共にしなければそもそも子供なんか作れないんだが、なにその矛盾!
「側妃になりたがっていた方の中には、ティオル殿下の寵愛目当ての方もいましたが、そもそも側妃は王太子と王太子妃に仕える立場だという事を理解していなかったのかもしれませんね」
「歴史上、王妃より先に子供を授かったり、王妃より寵愛された側妃が居たことがありますから、夢を見ていたのかもしれませんよ」
「まあ、そのような方々は先日のティオル殿下の宣言のおかげで愛妾希望の方々と一緒に駆除出来ましたけどね」
あるぇ? わたくしの友人達の発言黒くないか?
これって気のせいじゃないよな?
まあ、このぐらいの黒さがなければ側妃になんてなれないだろうから、全然問題ないのだけれどね。
「側妃に関しては家柄、能力、本人の性格、なによりもベアトリーチェ様との相性が重要視されると聞いています」
「実際、側妃は何人ぐらいを考えているんですか?」
「どうでしょう? 王太子妃教育を受けて公務の内容を考慮して判断することになりそうですわ」
「陛下には5人の側妃様がいらっしゃいますが、そのうち2名は周辺諸国とのバランスを考えて娶られた国外出身の方。王妃様以外とお子を成したのも恋情からではなくパワーバランスを考えての事だと聞いています」
「そうですわね。国内から娶った残り3人の側妃様には子供を成すことを認めず、王妃様の側近として重用するにとどまっていますわ」
「アルバート様とエメリア殿下が隣国に行くことだけでは、諸外国が黙っているとは思えません。必ずや王族に自国の血を流したいと狙うはずです」
「流石に嫁入りするゾフィ殿下の愛人に収まろうとは思わないでしょうが、ゲオルグ殿下とジョセフ様は狙われるのではありませんか?」
「それでいくのなら諦めの悪い国はティオル殿下の側妃を狙うかもしれませんよ」
「この国以外では番の魔術は滅多に行われないから、もしかしたら寵愛をかけてもらってお情けを貰えるかもしれないと考えている国が出るやもしれません」
確かにその可能性はある。
ゲオルグ殿下はどこかの高位貴族の家に婿入りすることになるだろうから、正妻との間に子供を作った後に、愛人を作ってその子供を庶子として引き取り王位継承権を持つ王族として養育する可能性はある。
ジョセフ様の子供は王位継承権はないけれども、限りなく王族に近い血になるのだから、アルセイド公爵家に嫁入りか愛人になって子供を作り、自国を優遇してもらおうとするところは出るかもしれない。
「ルーンセイでは15歳未満で社交界デビューを果たしていない子女の入国は認められていませんが、その条件さえクリアすればこの魔術学院に留学してくることは可能です」
「そうですよ。現状でも王族目当てで留学してきている方々がいますもの」
「こう言ってはなんですが、他国から輿入れなさってきた側妃様はお子を成す以外はほぼお飾り。その分側妃の数が多くとも王妃様や国内出身の側妃様に負担がかかっているのが現実です」
「実務をこなす側妃3人ではギリギリだと判明しているのですから、ベアトリーチェ様はそれ以上の人数を側妃として迎え入れるべきです。もちろん実務をきちんとこなせる人材限定で」
「そうですよ。ティオル殿下にお飾りになるしかない他国出身の側妃は不要と宣言してもらいましょう」
ん? どういう流れでこんな話になったんだ?
いや、確かに他国から嫁いできた側妃様達は基本的に子供を産むか祖国との外交でしか活躍していないが、一応それも立派な公務だぞ?
「ベアトリーチェ様はティオル殿下のお子様を何人もお産みになるのですから、実務に特化した側妃が最低でも5人は必要です」
…………ん? なんでわたくしが何人も子供を産むことが決定事項みたいになっているんだ?
そんな話、今まで一度もしたことはないんだが!?
「ベアトリーチェ様がご懐妊から出産なさって休養している間、側妃になる者がしっかり補佐をいたしますからご安心ください」
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