109 釣浮草ー1
新年祭のあと、社交界ではいくつかの噂話が更新された。
1つはわたくしとティオル殿下の婚約についての噂。
これに関しては大勢の前でティオル殿下があのように発言した事から仕方がないと言える。
それに伴い、わたくしの友人関係は少し変化が現れた。
ティオル殿下の側妃や愛妾狙いでわたくしに近づき、甘い汁をすすろうとしていた令嬢達が、側妃になっても子供を授かるような行為は一切行われず、馬車馬のように王太子妃となるであろうわたくしの手足となって働くことになると思い身を引いたのだ。
愛妾狙いだった令嬢も同様だ。
番の魔術をすれば体の関係を望むことは出来ない。
そこで精神的な癒しとしての立ち位置を狙う気概のある令嬢がいれば話は別だったのだが、多くの令嬢は狙いをティオル殿下から別の子息へと変えていった。
愛妾と言う立場を正確に理解している貴族が、懲りずに娘を愛妾に差し出そうとしている家に、きちんと愛妾の立場を話すことで身を引かせたことも大きい。
ティオル殿下があれほどまでに情熱的に宣言をしたのだから、精神的な癒しになる存在をわたくし以外に求めるのは望みが薄いと話したのだ。
そもそも、娘を愛妾に差し出そうとしている家のほとんどは、寵愛を笠に甘い汁をすすろうとしている家だったので、実際にはそのような事にはならないという現実を知ったのだ。
側妃は持つが閨は行わないと宣言したため、王太子になる事がほぼ決定しているティオル殿下の側妃選びは、まずわたくしとの相性と能力の高さで選ばれることが決定した。
親しくしている婚約者のいない友人の数名は側妃になる事を受け入れているが、側妃になってしまえば女性としての喜びを味わう事も、恋愛をすることも出来ないと釘を刺したのだが、ティオル殿下が側妃になった人が恋愛対象を見つけ、その人物が自分とわたくしのお眼鏡に叶うのであれば離縁して再婚を認めると話したので構わないと言われてしまった。
わたくしの知らないところでいつの間にか側妃になる交渉が進んでいるらしい。
側妃の選抜に関してはわたくしに一任すると言っていたが、やはり議会の承認や本人との契約があるため、ティオル殿下の審査も必要だったようだ。
噂ではティオル殿下が王太子に指名されるのと同時に、わたくしは王太子の婚約者になる事が決定しており、婚約が調った暁には王城に用意された王太子妃の部屋で生活を行う事になるというものまである。
精霊の情報によって、実際に王城にわたくし用の王太子妃の部屋の準備が整えられている事は知っているが、あいにくとティオル殿下からの正式な求婚もまだのため、その部屋を利用するめどはたっていない。
もう1つの噂は、先日当主となったバスキ伯爵とその義妹であるロクサーナ様の関係についてだ。
新年祭で3曲連続で踊ったことから始まり、同じ休憩室から仲良く出てきたこと、人気のないバルコニーで隠れるように抱き合って口づけをしていた事が目撃者から広まっていき、バスキ伯爵は義妹を愛人にするつもりなのだと真しやかな噂が流れている。
それに加え、ロクサーナ様が話したという貴族らしい考えもあり、妊娠中のバスキ伯爵夫人の腹の子供はバスキ伯爵家の血を持つ誰かの子供であり、夫人は複数の男性と関係を持っている、ひどく婚家に忠誠心を持った貴婦人だと嗤われている。
また、既に生まれている子供に関しても愛人が産んだ庶子ではあるが、実際はロクサーナ様が産んだのではないかと言う噂もある。
真実を知っている高位貴族達はその噂を聞いても気分を害したり、面白そうに反応するだけで広める事はないが、真実を知らなかったり中途半端に情報を得ている人々はその噂がさも真実のように話を広げていく。
まあ、実際にそうなのだが、バスキ伯爵達がこうも早く失態を犯すとは思っていなかった。
精霊に見張らせた結果、新年祭でロクサーナ様と接触を持った攻略対象者はダンスを踊ったファルク様、その後に少しだけ話をしたシャルル様、バルコニーで世間話をしたリャンシュ様の3人だ。
もしかしたらダンスは断っているが、ロクサーナ様の中ではティオル殿下とも接触を持った気でいるのかもしれない。
ダンスを踊ったことからファルク様ルートに進んだのかもしれないとも思ったが、ファルク様はバスキ伯爵家の事をある程度把握しているし、噂の事もあってどう動くかはわからない。
シャルル様はティオル様経由でバスキ伯爵家の真相を知っているため、ロクサーナ様に対してはいい印象を持っていないらしい。
リャンシュ様に至っては、ロクサーナ様を完全に面白がっており、自分とは価値観が合いそうにないが、遠くから鑑賞するにはいい相手であり、近づいて接触を持つのは精神が擦り切れそうだと周囲に話している。
しかしながら、ロクサーナ様は正式に社交界デビューを果たした令嬢であり、今はバスキ伯爵家の女主人の代行をしているため、個人的なお茶会の誘いもあるが、家同士の関係からバスキ伯爵家宛に招待が届くお茶会にも顔を出すことになる。
当主が交代した事で本来なら夫人が出席しなければいけないお茶会に、義妹が出席する。
夫人が妊娠中で体調を崩しているというのが表向きの理由だが、招待側は夫人がバスキ伯爵家の人間のせいで心の病に侵されている事を理解している者がほとんどだ。
それを踏まえてバスキ伯爵家に招待状を送っているのだ。
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