108 蒲桃ー21(ロクサーナ視点)
ロクサーナ視点はこれでいったん?終了です!
「それで、ロクサーナ嬢であったな」
「は、はい!」
「……そなたの家についてはいくつかの噂を耳にしている。なんともおもしろい家のようだ」
また噂の話し……。
いい加減うんざりしちゃうな。
「噂は全部嘘で誤解です。バスキ伯爵家は仲のいい家族で問題なんて何もありません」
「そうか? 生まれている子供の出生を偽ったのに?」
「子供と母親を守るためでしかたがなかったんです。それに今はちゃんと出生届を訂正しました」
「それでも、愛人の子供を育てる事になった夫人は気の毒な事だ」
「不思議なことを言うんですね。お義姉様はバスキ伯爵家の嫁なんですから、バスキ伯爵家の子供を育てるのは当たり前ですよ」
「だが、死産した自分の子供と同時期に生まれた子供を育てるのは、気の毒であろう?」
「それについてはあたし達も困ってるんです。お兄様の妻なのにちゃんと子供を産めなかったんだから、せめてちゃんと生まれてきた子供の世話をして欲しいのに、なにもしないんですよ。心の病だから仕方がないけど、今はお腹にバスキ伯爵家の子供がいるんだから、もう少ししっかりして欲しいですよね」
困ったように苦笑して肩をすくめると、納得してくれたのかリャンシュ王子は頷いてくれた。
「前当主の奥方は、精霊食いの結界の代償に心身ともに傷ついたというが……、それを強要されたと言う噂もある」
「まさか! 誰も強要なんてしていません。お母様は自ら望んで代償になったんですよ。あたしの魔力が減って苦しんでるから、出来る事はなんでもするって書面に書いてくれました」
「精霊喰いの結界はそなたが発動したのか?」
「そうです。あのまま魔力が少ない状態だったら、あたしは実家の男爵家に戻されたかもしれませんから、それを回避するためには仕方がなかったんです」
「……家族思いの母君なんだな」
「はい! あたしの自慢のお母様です!」
わかってくれたことが嬉しくて満面の笑みを浮かべて頷いた。
「しかし、腑に落ちないのはバスキ伯爵夫人の腹の子の父親が、夫の弟という噂がある。仲のいい愛情深い家族ならそのような事はありえないだろうに」
その言葉に思わず首をかしげてしまった。
「何を言っているんですか? 仲がいい家族だから許されているんじゃないですか」
「どういうことだ?」
「ダリオン兄様は学生時代からお義姉様が好きだったんです。でも次男だから結婚することが出来なくてロベルト兄様との結婚を見守っていました。けれども、子供を亡くして心の病になってしまったお義姉様を見ていられなくて、慰めるために足繁く通っているうちに、そう言う関係になっただけです。お義姉様だって抵抗しなかったんですから、ダリオン兄様の事が好きなんですよ」
「……夫君は何とも思わないのか?」
「ロベルト兄様にはもう子供が2人いますし、ダリオン兄様の気持ちも知っているし、なによりも兄弟仲がいいので出来る限り望みをかなえてあげた結果です」
「…………夫人の気持ちは考えないのか?」
「だから、お義姉様は抵抗しなかったんですよ。それってダリオン兄様を受け入れたってことでしょう? そもそもお義姉様はバスキ伯爵家の嫁なんですから、バスキ伯爵家の子供を産むことに何かおかしいことがありますか?」
「なるほど、そなたはそういう考えなのか」
「はい。だって当然な事ですから」
「そうか」
リャンシュ王子は少し考えるそぶりをしたけれど、小さく息を吐き出してあたしを見てきた。
目があってまた囚われたような錯覚に陥って咄嗟に目をそらしてしまった。
「こんな噂もある。バスキ伯爵家の前当主と新しい当主は、養女にしたご令嬢をだまして肉体関係を持ち、子供まで産ませた。そしてそのご令嬢には女主人の仕事を押し付けている、と」
「なんですかそれ、ひどい誤解です!」
「そうなのか?」
「あたしは騙されて2人と関係を持ったわけじゃありません。あたしが望んでそういう関係になったんです。だって、お兄様が子供がなかなかできないことを悩んでいたから、あたしが産んであげれば問題は解決するでしょう?」
「望んで養父や義兄と関係を持ったというのか?」
「何かおかしいことがありますか? だって、お義姉様にいつまでも子供が出来ないのがいけないんですよ。お兄様がかわいそうだったんです。それに、バスキ伯爵家としても跡取りが居ないなんて、大問題じゃないですか。それをあたしが役に立つことで解消されるんだから、身を差し出すのは当然でしょう?」
「女主人の役目を押し付けられているというのは?」
「それも誤解です。お母様やお義姉様が何もできないからあたしが女主人の仕事をしているだけです。だれも女主人の仕事をしなかったら家に仕える使用人が困っちゃうじゃないですか。だからあたしに出来るならってお父様に言って、許可を貰って女主人の仕事をしてるんですよ」
「前夫人や、今の夫人に申し訳ないという考えは?」
「変なことを言いますね。そもそも2人が何もできないのが悪いんじゃないですか。申し訳ないとか、どうしてあたしが思う必要があるんですか?」
そうはっきり言うとリャンシュ王子は息を吐き出した。
「そういえば聞きたいのだが」
「なんですか?」
「養父や義兄と関係を持って、気持ち悪いとか嫌悪感、罪悪感はないのか?」
その言葉に思わずクスクスと笑いがこみあげてきてしまう。
「そんなものあるわけないじゃないですか。あたしはお父様の事もロベルト兄様の事も男性として好きですよ。好きだから関係を持つことに抵抗があるわけがありません。2人もあたしの事を女性として好きだって言ってくれるし、好き合っている人同士が関係を持つことが悪いことのはずがありませんよ」
「妻がいる相手なんだぞ? しかも養母に義姉だ、本当に罪悪感はないのか?」
「リャンシュ王子って王族の人のくせに面白いことを言いますね。貴族が伴侶以外と関係を持つなんて、普通じゃないですか。それにただの関係じゃなくて、家のために子供を残す大切な事なんですよ? あたしと2人の関係を否定することの方がおかしいですよ」
あたしの言葉にリャンシュ王子が声を上げて笑い出した。
「そうか、否定する方がおかしい、か」
「わかってくれましたか?」
「ああ、よくわかった。バスキ伯爵家はなんとも貴族らしい考えを持っているようだ」
そう言ってリャンシュ王子は出入り口の方に歩いていく。
「あの、どこへ?」
「もう会場に戻る。ここに居る意味はないしな。騒ぎになるのも面倒だ、そなたは最初の約束通り兄が迎えに来るのを待って一緒に戻るといいだろう」
「あ、はい……」
あたしを見ることなくバルコニーから出て行ったリャンシュ王子を呆然と見送った。
噂の事については誤解だってわかってもらえたけど、なんていうか心にもやもやが残る。
しばらくして迎えに来たお兄様にリャンシュ王子と話したことを伝えると、大変だったね、と言われてキスをしてくれた。
誰かに見られるかもしれないって言ったら、バルコニーは暗いから会場の中からは見えないってお兄様は微笑んだ。
それなら、いいかな。
あたしは知らなかった。
ちょうどバルコニーを利用しようとした人にキスしているところを見られてしまっていた事とか、リャンシュ王子があたしと話したことをお友達に面白おかしく話しているってことを……。
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