102 蒲桃ー15(ロクサーナ視点)
タイミングを見て王家の人が居るところまでお兄様と行くと、陛下と王妃様は高貴そうな人と話していたから、お兄様はあたしとさして年が変わらない子供達のほうに歩いていく。
「若き王族の皆様にバスキ伯爵家当主がご挨拶申し上げます」
そう声をかけるとそれまで会話をしていた人達がぴたりと話を止めてこちらを見てきた。
うわぁ、綺麗な人達……。
高貴な人ってそれだけですごいのね。なんだかあたしとはレベルが違うわ。
こういうのを選ばれた人達って言うんだろうな。
でも、皆あたし達を見て来るけど何も言ってくれない。
他の貴族は挨拶で声をかけたらすぐに返事をしてくれたんだけど、王族ってやっぱり違うのかしら?
マナーの先生に身分が上の人には話しかけられるまで声を出しちゃダメだって言われてるから、ここは何も言っちゃいけないのよね。
「…………貴殿は、最近代替わりしたのだったな。前バスキ伯爵の体調はどうだ?」
「お気遣いありがとうございます。父は変わりなく屋敷で過ごしています」
やっと殿下? から声をかけられてほっとする。
このまま無視されたらきっとお兄様の評判に関わってくるもの。
ほっとしながらお兄様との会話を聞いていると、ふとお兄様に手を引かれてあたしのことが紹介された。
「ロクサーナ=ジャルジェ=バスキと申します」
マナーで習ったように深々と頭を下げてカーテシーを行う。
練習通りに時間をかけて頭を上げて、印象が良くなるようににっこりと微笑んだ。
お兄様に紹介された家門の上の人にも、ちゃんと出来ていると言われたから大丈夫なはずよ。
えっと、名前はわからないけど殿下に声をかけられたんだし話していいのよね。
「あたしは来年度から魔術学院に通う予定なんです。ジョセフ様やエメリア殿下と同じ学年になりますね」
これできっとジョセフ様とエメリア殿下が誰なのか名乗ってくれるはずだわ。
そう思ったけど、期待してたように名乗ってはくれず、かけられた声はあたしを可愛いっていう誉め言葉だった。
もしかして声をかけてくれた人がエメリア殿下?
でも女の子は3人いて、本当にそうなのかはわからない。
こんなことだったらメイドに殿下達がどんな容姿なのか聞いておけばよかった。
ここで名前を間違えたらきっと怒られるから、こっちから名前を呼ぶことはしちゃだめよね。
あたしに声をかけてくれた女の子は続けてあたしが魔術学院に入ったら注目されるって言うし、これって王族の人に気に入られたってことでいいのよね?
すごい、この調子なら心配だった社交も思ったよりもうまくできるかもしれないわ。
思わず目を輝かせてあたしに話しかけてくれた女の子を見る。
「そんな風に言ってもらえてうれしいです」
仲良くしたいと思ってニコニコと笑みを浮かべて返事をしたけど、何も言ってくれない。
なんか思った反応じゃないな、変なこと言っちゃったのかな?
「挨拶は終わりましたよねバスキ伯爵。他の挨拶に行ってはどうですか」
殿下? がお兄様にそう言うと、お兄様がこの場を離れようとしたから、もっとバスキ伯爵家の印象をよくしようと思ってお兄様を止めるために腕を絡めた。
「ロベルト兄様、せっかくだから皆様と踊ってみたいです」
「いや、ロクサーナそれは……」
「だってせっかくのデビュタントの夜なんですよ? お兄様と3曲踊って少しは自信が付きました。皆様だったらリードもお上手でしょうし、記念になると思うんですけど、だめですか?」
ダンスをしている時は他の邪魔が入らないから、バスキ伯爵家が安泰だって伝えるいいチャンスだわ。
王家の人は優しいから、きっと領地に帰ったお母様の話しや、今日参加できなかったお義姉様の事を話したら親身になってくれるもの。
「バスキ伯爵、もしかして3曲連続で踊ったのか? そうだとしたら噂通り仲がいいようだな」
「そうですよ。あたしのデビュタントだからってお兄様が3曲続けて踊ってくれたんです。その後に疲れただろうからって休憩させてくれて、それからこちらにご挨拶に来たんですよ」
問いかけられたからここぞとばかりにお兄様の優しさを伝える。
神殿の調査とかは王家の人にも伝わってるって言われたし、もしかしたらお兄様が良くない人って誤解されてるかもしれないものね。
「ロクサーナ、王族の皆様はお忙しいんだ。貴重なお時間をわたし達が独占するわけにはいかないよ」
「そうなんですか? でも……せっかくのデビュタントだから、思い出が欲しいです」
ダリオン兄様だって思い出を作ってくるように言っていたし、ついでにバスキ伯爵家は仲のいい家族なんだってアピール出来たら最高だわ。
そう思っているのにロベルト兄様は困ったように笑うだけ。
どうしてかしら?
「ロクサーナ、あまり可愛いことを言わないでくれ。それに皆様と踊っている姿をわたしに見せつける気かい?」
そういった後にお兄様はあたしの耳元に口を近づけて、「そんなことをされたら嫉妬で家に帰ったらそのまま寝かせる事が出来なくなってしまうよ」と言ってきた。
「お兄様ってばそんなことを言われたらお兄様以外の誰とも踊れなくなっちゃいますよ」
「それでいいじゃないか」
「もうっ。意地悪ですねお兄様。でも普通の令嬢はデビュタントではたくさんの人とお話をしたりダンスをしたりして社交を広げていくのでしょう? あたしもバスキ伯爵家のために社交を頑張らなくちゃ。だって、お義姉様は何も出来ないんですから」
家を盛り立てるために、お義姉様に代わってあたしががんばらなくちゃいけないのよね。
社交界ってまだ不安だけど、あたしのがんばりにバスキ伯爵家の将来がかかってるんだわ。
「ロクサーナ、確かにロクサーナはバスキ伯爵家の女主人としてよくやってくれているけど、あまり気負わなくていいんだよ」
「ダメです。あたしはお世話になっているバスキ伯爵家に恩返しがしたいんですから。まだまだ足りないですよ」
「そうか? ではあちらに行って他のかたと挨拶をしながらダンスの相手を探そうか」
訴えてみたけど、お兄様はこの場を離れる気でいるみたい。
せっかく王族の人の近くに来たのにあんまりアピールできなかったな。
もうっ、せっかくのチャンスなんだからお兄様ももっとバスキ伯爵家は仲良しで安泰ですって言えばいいのに。
「…………はい」
お兄様が頭を下げたので合わせて頭を下げるけど、またこんな風にアピールする機会ってあるのかな?
魔術学院に通ったらチャンスが来るかしら?
……あ、結局誰も名乗ってくれなかったわ。どうしよう、このまま何も知らずに魔術学院で会う事になったら失礼よね?
メイドに聞けば特徴を教えてくれるかしら。
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