100 蒲桃ー13(ロクサーナ視点)
今日からしばらくロクサーナ視点になります!
初めて大勢の人の前に出る事になって、始めは緊張してしまったけれども、ロベルト兄様がエスコートをしてくれて、緊張をほぐすためだって続けてダンスを踊ってくれたおかげで、だんだんと緊張がほぐれていった。
ミシェルとアレックスの出生を偽ったことが原因で、お父様が伯爵家の当主の座をお兄様に譲らなくちゃいけないと聞いた時は驚いたけど、2人から書類上交代するだけで、することは今までとほとんど変わらない。
むしろお父様が領地に行くことがなくなったから、これからはずっと一緒に暮らせると聞いて逆に嬉しくなっちゃった。
でも、その代わりお母様は領地で静養しなくちゃいけなくなってしまって、あたしも一生懸命お見舞いをしてみたり話しかけたりしたけど、心の病はどうしようもないからって言われてしまった。
バスキ伯爵家の跡取りが生まれる事をあんなに楽しみにしていたお母様なのに、結局子供達とぜんぜん交流できないまま領地に行ってしまって、さぞかし残念に思っているに違いないわ。
お父様とお兄様に子供達を連れてお母様のお見舞いに行けないかと聞いてみたけど、領地は子供を連れていくには遠いし、あたし達が行くとお爺様とお婆様がいい顔をしないから行けないって言われてしまった。
あたしが大変な時に進んで助けてくれたお母様に恩返しがしたいのに、今のあたしじゃ何もできないんだって思い知って少ししょんぼりしてしまったけど、お父様にあたしはバスキ伯爵家の女主人として、これからは社交界でも活動する役目があるって言われて気分を切り替えるしかなかった。
本当ならお義姉様がお兄様の妻として社交活動をしなければいけないのに、妊娠してしばらくしてから全くそういうことをしなくなって、今では部屋に引きこもってしまっているのよね。
お見舞いに行っても、子供達を見せても無視をされるか機嫌が悪くて罵倒されたり睨まれたりしてしまう。
お兄様はひがんでいるだけで、あの態度もまた心の病なんだって言うけど、早くお嫁に来た頃の明るくて優しいお義姉様に戻ってくれないかな。
ダリオン兄様は今のお義姉様でも十分だって言ってるけど、やっぱり楽しく会話できた方がいいに決まってる。
あんなにまめに部屋に行っているのに、何時間も部屋で過ごしているのに、楽しい会話が全くないなんて、なんだか味気ないし、きっと心にもよくないと思うのよね。
そのことをお父様とロベルト兄様に伝えたら、今家の敷地内に建てている別邸が完成したら、そこにお義姉様とダリオン兄様を移すから大丈夫って言われちゃった。
お義姉様はそこで女主人として振舞う訓練が少しずつ出来るし、生まれてくる子供も静かな環境で親と一緒に過ごしたほうがいいからなんですって。
騎士団をやめたダリオン兄様は、名目上バスキ伯爵家の執事としてロベルト兄様の補佐をすることで雇っているらしいけど、本当は別邸の管理とお義姉様の面倒を見るために雇ったってお父様が言った時は驚いてしまった。
なんでも学院でずっと一緒に過ごしていた2人だから、気心が知れていて一緒にいたほうがいいからなんだって。
ロベルト兄様と一緒に居なくていいのかって聞いたけど、何もできないのに女主人として過ごさせるのはかわいそうだし、いきなり本邸の女主人なんて出来ないから別邸で出産後は少しずつ勉強をさせるって言われたら頷くしかないわ。
今日の新年祭に出かける前もお見舞いにいったけど、ベッドに横たわったままであたしの言葉には全く反応してくれなかった。
せっかくお義姉様の分までがんばってくるって声をかけたけど、あたしの言葉はお義姉様の心には届かないのかな。
あたし、お義姉様の代わりに色々一生懸命がんばってるんだけど、まだ足りないのかな?
どうしたら前みたいに明るくて優しいお義姉様に戻ってくれるんだろう?
今はとにかく心の病が治るまでそっとしておいた方がいいって言われたけど、お義姉様のお腹の中には赤ちゃんがいるんだし、ふさぎこんでたら赤ちゃんに良くないと思うのよね。
今度こそ無事に生まれて欲しいし、そうしたらお父様もお兄様達も喜ぶに違いないもの。
家族が増えたら、屋敷だって今よりずっと明るくなるし、もしかしたら領地に行ってしまったお母様だって赤ちゃんの話を聞いて元気がでるかもしれないわ。
そうよね、皆の為にもお義姉様には元気で健康な赤ちゃんを無事に産んでもらわなくっちゃ。
ミシェルやアレックスが生まれた時は、皆それはもう喜んだんだもの。
お義姉様が子供を産んだら、あの時よりももっと皆が喜ぶに違いないわ。
「ロクサーナ、ダンスで疲れているかもしれないが、挨拶回りをしなければいけないんだ。付き合ってくれるよね」
「もちろんですロベルト兄様。あたしが今日社交界デビューをしたのはそのためでもあるんですからね」
「頼もしいね。少ししたら王家の皆様にも挨拶に行こう」
「はい。王家の人に挨拶なんて緊張するけど、バスキ伯爵家のために失礼が無いようにします。でも、王家の人って言うとなんだかちょっと憧れちゃうかも」
「憧れてしまう気持ちはわからなくもないけど、一緒にいるわたしの事を忘れてはだめだよ」
「わかってるわお兄様。でも、ダリオン兄様はデビュタントは一生に一度の事だから、たくさん思い出を作ってきなさいって言ってました」
「それは間違っていないけどね。あまりわたしを放っておかれると嫉妬してしまうかもしれないよ」
「えー? そんなこと言われると困っちゃいますけど、うーん、善処しますね?」
「そうしてくれるとありがたいよ」
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