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ホラー少女

 ホラー少女。


 俺の通う高校で、この言葉を知らない生徒はいない。

 2年3組の教室の、窓際後方の席。そこに座る女子生徒こそが、俗に言うホラー少女だった。


 市松人形を連想させる黒髪は、長い前髪で目の下まで隠してしまっている。色白の肌は、さながら丑三つ時に現れる幽霊のようだ。

 そして何より「黒川花子(くろかわはなこ)」という彼女の名前は、ホラー少女というあだ名にぴったりだった。


 黒川に関する怪談()は、いくつも存在する。

 例えば友達のいない彼女は、休み時間はいつもトイレの個室にこもっているらしい。まさしく「トイレの花子さん」だ。

 

 あとは放課後の理科室で人体模型と会話していたりとか、家庭科室で呪いのスープを作っていたりとか。身の毛もよだつような噂話は、あとを絶たない。


 そんなホラー少女と、好き好んで関わる必要はない。積極的に避けたり嫌ったりするつもりは毛頭ないけれど、基本は不干渉を貫くとしよう。

 そう思っていたんだけど……


桧山琥太郎(ひやまこたろう)くんへ

 あなたをずっと見ている。放課後、屋上に来られたし。もし来なかったら、私は……』


 どんな恨みを買ったのか、俺は黒川から呪いの手紙を受け取ってしまった。


 何だよ、この文面? 普通に怖えよ。もし俺が屋上に行かなかったら、どうするつもりなんだよ?


 恐怖を感じさせるのは、文面だけじゃない。無駄に上手い毛筆が、手紙に更なるおぞましさを付加させている。


 ……俺、黒川に何かしたっけ?

 

 隣の席だから、そりゃあ人より彼女と接する機会は多い気はするけど、特段怒らせるようなことはしていない筈だ。


 わからない。どうして呼び出されたのか、皆目見当もつかない。


 しかしながら、わからないからと言って放置出来る件でもない。だって黒川の呼び出しを無視したら、間違いなく呪われるし。


「……仕方ない。屋上に行くとするか」

 

 席を立つ前に、俺は日頃鞄の奥底で眠っている御守りを引っ張り出す。

 交通安全の御守りだけど、ないよりはマシだろう。


 そして俺は満を持して、屋上へ向かうのだった。





 屋上に到着すると、既に黒川が俺を待っていた。


 俺は黒川に声を掛ける前に、彼女を凝視する。

 夕陽を背景に、屋上から校庭を見下ろす女子生徒。はたから見たらそんなシチュエーションなのに、その対象が黒川だと全然青春ラブコメ感が出ない。


「ホラー」×「屋上」といえば、自殺が付きものだ。

「え? これから自殺するつもりじゃないよね?」と、別の意味でドキドキしてしまう。


 ……って、いかんいかん。いくらホラー少女といえど、確証のない妙な妄想をするのは失礼だ。

 

「黒川」


 俺が名前を呼ぶと、彼女は振り返った。


「……ゴニョゴニョゴニョゴニョ」

「え? 何だって?」


 声が小さすぎて、黒川が何を言っているのか聞き取れない。

 その後黒川は若干声量を大きくしたものの、依然として俺の耳には入ってこなかった。


 黒川の声が大きくならないのなら、俺が近付くしかない。一歩、二歩と、俺は彼女の声が聞こえる位置まで接近する。


「〜っ!」


 俺が距離を詰める度に、黒川は挙動不審になっていった。


「で、さっきから何て言っているんだよ?」

「それは、その……来てくれてありがとうって伝えたくて」


 どうやら黒川はお礼を言いたかったみたいだ。

「ありがとう」くらい、相手に聞こえるようにはっきり言えよ。だけど交友関係のろくにない黒川には、どだい無理な話か。


 会話に慣れていない者は、挨拶を交わすだけでも緊張してしまう。現に黒川のやつ、顔が真っ赤になってるし。


「ありがとうって言われてもな。呪いの手紙なんて受け取ったら、そりゃあ来ないわけにはいかないだろ。だって俺、呪われたくないもん」

「そうですよね。……って、え?」


 黒川が、驚いたような声を上げる。俺、何か変なこと言ったか?

 

 目が隠れてしまっているので、表情から黒川の思考を読み取ることが出来ない。

 俺は彼女の次のセリフを待った。


「呪いの手紙って……それのことですか?」


 黒川は俺の持っている手紙を指差した。その手紙は、勿論彼女が書いたものだ。


「そうだけど……違うのか?」

「それは呪いの手紙じゃなくて……ラブレターなんですけど」


 ……はい?

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