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「ほえ~。」
友隣が一枚のカードを持ち、眺めていると、
「なになに?何見てるの?」
後ろからバンカラの格好をした夏霧が声を掛けた。
「見て見て。世界に百枚しかない、イラストコンテスト受賞カードだよ。凄いでしょー。」
しかし。
「え?こんな子供の落書きのどこがいいの?」
「絵は下手だけど百枚しかないことに意味があるの!」
「カードってイラストの人気は重要じゃん。同じレアでも金額は全然違うだろ?」
「それは、そうだけど。」
「私だったらプロが描いたイラストの方がいいね。」
「そんな...。」
「まあ、気を落とすなよ。私のこのカードと交換してやるよ。」
「え!可愛い!いいの!?」
「かまへんかまへん。じゃ。」
カードを交換して夏霧は去っていった。
「夏霧さんいい娘だなー。」
「そう思ったあなたは鴨です。」
「わ!」
いつからいたのか、隣に空河内が立っていた。
「馬鹿者!お前のカードは五十万する高価なカードだったんだぞ!奴が置いてったのは三十円のどこにでもあるカードだ!」
「ええっ!」
「夏霧はこの辺じゃ有名なシャーカーだ。価値のわからない子供から高いカードを安く譲ってもらうんだ。」
「酷い...。」
「案ずるな。我にいい考えがあるぞ。」
二人は大きな工場にやってきた。
「ここは?」
「印刷工場だ。」
「印刷工場!で、何をするの?」
「無論、カードを刷る!気を抜くなよ!行くぞ!」
「え?行くって?」
空河内は友隣の手を取って工場の扉をぶち破った。
次の瞬間、大きく口を開けた頭だけの姿になった遮音が見えた。大きい。その口は二メートルはある。
「何!生首!」
「印刷機だ。」
友隣を引っ張って口の中に飛び込んだ。
「うげー!ベタベタ!」
「オフセット印刷は水を使うのが特徴だ。」
「なるほど。」
「これに絵を描け!それをカードにする!」
空河内に薄い板を渡された。
「あたし絵心とかないけど。」
一瞬にして可愛らしい猫が描かれた。
「よし!」
両手で引っ張ってパカッと四つに複製し、印刷機にセットした。
「出てきたカードを持ってトンズラだ!急げ!」
「キラキラに加工したりしないの!?」
「それは別の工場での作業だから...。」
「そうなんだ。」
「出口だ!」
「やった!出口出口!」
「久し振りだな夏霧さん!今日はあたしだけのレアカードを自慢しに来たよ!」
しかし、夏霧は元気なく近付いてきた。
「前は悪かったな。返すよ。」
と、イラストコンテストのカードを返した。
「え?」
「それ、偽物だから。どこで買ったんだ?」
「どこで...。」
「あたしこのカード欲しい!」
「どれどれ?高っ!」
「でも100枚しかないんだよ。いつか欲しいな、いつか。」
「友隣ちゃん...。」
その翌日、ママがくれたカードだ。不自然に手がインクで汚れていたのを覚えている。
(まさか...。)
スタタタ!
友隣は逃げ出した。
「あ!待て!」
「ちゃんと説明しろ!」
追い掛けてくる夏霧と空河内から逃げる為、ドリルになって地面を掘り進んだ。掘って掘って掘り進んで、逃げた。
二年後。
「準備はいいか?」
「はい!茶黄さん!」
「アマゾーンの奥地ではゾーンディフェンスを抜かるなよ!」
「はい!」
「いざ!アマゾンへ!」
あの日、ブラジルに行き着いたあたしは空腹で倒れているところを冒険家の茶黄さんに助けられ、それからは二人で世界中を冒険している。
カードゲーム?忘れちまったね。あたしは大人だから。
ママが作ってくれた贋作カードを入れたペンダントを首にかけ、あたしは冒険に出た。