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癒論と鈴鉄は二人で楽しくドライブをしていた。
「鈴鉄先輩。」
「ん~どした?」
「失礼ですけど、運転下手じゃありません?」
鈴鉄の顔に笑みが浮かんだ。
「ま~、今日が初めてだからね~。死ぬ時は一緒だね~。」
「ハハハ!面白い冗談ですね~。」
「冗談だといいね~。」
癒論がドアに手を伸ばすと、ガチッと鍵が掛かる音がした。
「おい!鍵!」
「先輩は鍵じゃありません。」
「クソボケェ!開けろ!」
「お前の命、私に預けてくれないか?」
「初心者ドライバーに預けられるかァ!」
「それに、後ろを見ろ。つけられてる。」
「ん?」
癒論が後方を確認すると、真っ赤な軽四が接近したり離れたりを繰り返していた。
「煽り運転だ。助けて。」
「トロトロ走るからだろ!」
「はァ?だから初心者マーク付けてんだろ!あいつ目が悪いんだ!そうに違いない!くそ食らえ!」
鈴鉄が初心者マークを煽り運転の車に投げ付けると、運転席の窓が開いてドライバーが顔を出した。
「あーあ、先に手を出したね?」
「深流だー!最悪だ終わった!」
叫びながら鈴鉄はありったけの初心者マークを窓からまいた。
「持ちすぎだろ!」
バン!バン!
「ヤバい!発砲してきた!何とかしろ癒論!」
癒論の目がキラリと光った。
「鈴鉄先輩そろそろアレ、やってもいいっすか。」
「アレか。ぶちかませ!」
勿論鈴鉄は『アレ』が何か知らない。
癒論は刻みネギを窓からばらまき、祈祷を始めた。
「これで...。」
一瞬希望を持った鈴鉄だったが、深流は武器をロケットランチャーにランクアップさせた。
「ヤバい!殺す気だ!えーと、こういう時はちゃんと謝って...。」
鈴鉄は一生懸命に謝罪文を書いた。
可愛く見せる為にデコレーションシールを沢山貼った。
「何か、テカテカだねぇ。小学生みたい。」
「うるせぇ!要は気持ちだろ!えい!」
謝罪文を紙飛行機にして飛ばした。
受け取った深流は笑い転げ、車は右へ左へ踊ってスリップして消えていった。
「た、助かった。」
鈴鉄が胸を撫で下ろす。
「ん?何か来た!」
左からバイクに乗った伝電が猛スピードで接近してきた。
「ハ、ハロー。何か用ですか。」
弱々しく尋ねると、伝電の首がぐるりと回って二人を睨み付けた。
「ひぃぃぃ!」
「逃げろ!妖怪だ!」
ガンガンドアを蹴ってくる。
「治安悪いなここ!」
「鈴鉄先輩!」
「今度はどうした!?」
「何だか...車傾いてません?」
「ふぇ?」
ぐらりと車体が揺れた。
「いてこますぞー!」
外から何か聞こえるが、それどころではない。伝電に蹴り上げられる形で助手席側が上に上がっていく。
「やだー!死にたくない!」
「不吉なこと言わないで!は!そうだ!おい癒論!お前急速に太ってデブになれば転倒せずに済むぞ!」
「どういう発想だよ!」
車体の傾きが九十度を超えた。
「わー!」
しかし、車は回転しながら前進を続けた。
「何で?」
「洗濯機みたいだね。」
「出すもん出せやー!」
伝電の蹴りは未だに続いていた。
「おえええ。」
ボンネットが開いて焼きそばが撒き散らされた。
「うわっ!きしょっ!...きしょっ!」
伝電が離れていく。
「助かったよありがとう車さん。」
「ありがとう。」
「どういたしましてー。」
「あ!前見て前!犬だ!ぶつかる!」
癒論が指差した先に、ぺこ太郎がちょこんと座っていた。
「このままじゃ...。」
鈴鉄がブレーキを踏むも、間に合わない。
「駄目だ!ぶつかる!」
その時、横合いから車の前に人影が飛び出した。
そして。
「ふん!」
車を正面から受け止める。
後ろに引き摺られたものの、何とかぺこ太郎の前で車は止まった。
そこへ、友隣が走ってきた。
「茶黄選手ルール違反により失格です!優勝は遮音選手!皆様盛大な拍手を!」
「何やってんだよ!」
鈴鉄がクラクションを鳴らすと、車はうどんを吐き出した。