19
「ぺこ太郎お手。」
ぺこ太郎は右手を深流の手の上に置いた。その瞬間、深流の手が閉じてぺこ太郎の手をがっちりホールドした。
笑顔の深流。
嫌な予感。
その直後、足を軸にしてぺこ太郎をぐるんぐるんと振り回し、外に放り投げた。
「ジャイアントスイングだよ!」
満足げにプロレス漫画を広げ、次の技を品定めする。
暫くして、来客があった。
「こら!またぺこ太郎が外に落ちてたわよ。」
「伝電ちゃんこれは躾なんだよ。」
「ほら見て。ぺこ太郎驚き過ぎて顔が徳川家康みたいになってるわ。」
「キモいな。」
「でも相棒でしょ。大事にしなよ。じゃ、うちはこれで。」
帰ろうとした伝電の前にぺこ太郎が回り込み、足に頭をすりすりした。
「あれ?壊れたのかなぺこ太郎。あ!そうだ!頭をハンマーで叩けば元に戻るよ!」
さっとハンマーを手に取った深流を見て、ぺこ太郎は外に逃げ出した。
「待ちやがれとっとこぺこ太郎!」
それから数日。
未だにぺこ太郎が帰らないので伝電に電話をすることにした。
「ねぇねぇ伝電ちゃん、ぺこ太郎見なかった?」
「ぺこ太郎ならうちに来てるよ。友隣とゲームしてる。よっぽど酷い扱いしてたんじゃないの?」
「夜な夜なプロレスごっこしてただけだよ。」
「色々と、突っ込みに困るな。」
「ぺこ太郎返してよ!」
「一ヶ月もすれば恋しくなって帰るでしょ。今はそっとしてあげたら?」
「わかった。ラミラミとプロレスごっこしてくる!」
「プロレスごっこは止めなさい!」
それから十年の月日が経過した。
「ラミラミプロレスごっこやろー。」
「すいません今バネのオモチャに嵌まってて。階段から落としていくのが楽しいんですよー。」
「何それ?」
「え!最近流行ってますけど知らないんですか!」
「深流はプロレスさえあれば何でもいいんだよ。」
「流行り廃りの外の人!えーと、邪布が待ってるんで、バイナラ!」
「あ!逃げるな!」
一人取り残された深流は何か足りない様な、心の空白を感じていた。
「うーん、何か、いつも私の隣に何かいた様な...。」
そこへ、友隣とぺこ太郎が通りかかった。
「買い物終わったらゲーセン行こうねー。」
その時、眠っていた記憶が甦った。
「そうだ!私には相棒がいた!」
ぺこ太郎の元へと駆け寄る。
そして。
「さ、帰るよ。」
友隣に首輪をはめて、四つん這いにさせた。
「何であたし!」
「帰ろう、ぱこ太郎。」
「名前うろ覚えだし!」