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「ねぇねぇ、何か、気付きません?」
「ん?どしたん惚莇。チャキッた?」
「そんな万能な言葉で誤魔化さないで!もっと具体的に。」
「んー。」
そう言われても何も違いがわからない。
「胸が大きくなった?」
「え!ほんと!?」
「うん。僅かな違いだったから言いにくかったんだよねー。」
何もわからないから取り敢えず胸が大きくなったことにすればいいや作戦。
「そっかー。まだ成長するのかー。あ、そうそう。実はミンサーをミキサーに変えたんだよ!」
(わかるかボケ!)
「ホラ。」
鉄腕を開いた。
「せんぱーい!生きてくださーい!」
「しゃおーん!」
鉄腕を閉じた。
「今何かいた!今絶対何かいたよ!」
「まさか~。何もいませんって。」
再び鉄腕を開いた。今度は中を覗き込む。
「惜しい人材を失った。」
「他人のことを考えてる場合か!僕達までアジフライにされちまうぞ!」
手足の生えた二匹の鯵が全力疾走していた。
「どうすりゃいいんだ。言われるがままに小麦粉と玉子とパン粉を体に付けちまった。あれが罠だったなんて。」
「おめーが騙されるからこっちまで被害を被ったんだ!おめーのせいだぞラミィ!」
「ハァ?赤ちゃんだからよくわかんねーわ!」
「赤ちゃんだったら何も言わずに囮になれや!」
「邪布たーん!授乳の時間だ!乳出せ乳!」
「うるせぇな!自分の吸ってろ!」
鉄腕を閉じた。
「何かいるな。」
「でしょ!?何飼ってるの!?」
「部屋にゴキブリが出た気分だわ。」
「早くミキサーしよう。ミキろう!」
「いや、掃除が大変じゃん!それよりも一回クリーニングに出して~」
僕は鉄腕を閉じた。
最近何故か鉄腕の中にちっちゃいおばさんが住み着いたらしい。ゴキブリみてーなもんか?
「邪布たーん何処行くのー?」
「ちっちゃいおばさん処分してくるー。」
「ん?...妖精でも見える年頃なのだろうか?」
その日の晩御飯はいつもより贅沢なものだったそうな。