表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

第十話 橋

 10

 場所は変わり、秋冷達は田舎の土手道を歩いていた。


「人の姿が見えないけど……。」


「ここいら一体の田圃は稲を刈るまで、後少しだ。見張りの者が居れば問題無い。だから、あそこの裏山に段段畑がある。働ける者はすべてそっちに行ってとるのよ。」


 お天道様は高らかに空にあり、働けない老人が縁側で赤子の面倒をしているのがチラホラ見えた。


「そっか……。人を見に来たのに……。何処か名所みたいな所は? 」


 人を見られないとなると、人間が作った建物でも見る気になる秋冷。

 家は藁葺(からぶ)き屋根の農村で何処に行っても見栄えは同じであるが、此処には文明の臭いがする。


「そうですな。朱の橋は? 」


「じゃぁ。其処で良い。連れてってくれ。」


 即答すると秋冷と老人は其の方へ向った。そして、()の侭、秋冷は言葉を続けた。


「この山中に橋なんて必要か?大きな川もないだろうに……。」


「いいぇ。橋を建てたのは、山神様のお達しでな……。山と村の堺に水のない橋を建てたそうで……。この村では一番大きな建物でね。朱色の外見に、大柱の上に青い化粧用石を置いてある。」


 老人の話では山神様と主様は同一人物の様だった。そして、橋に近付くにつれ寒気が走った。


 嫌な予感がする。だが、老人は異変を気づかない。

 懐かしい体温が秋冷の体を包んだ。

 心が、可笑しくなりそうだった。


 目の前に大きな橋が見え始めると、余計気持ち悪くなる。

 急に秋冷は足を止めた。



 朱色の橋。金具もまだ新しい感じがした。だが、秋冷はその橋が相当古い物だと分かっていた。


 老人が橋の目の前まで行くと、ゆっくりと体を前に進めた。


「この橋には、冷夏、故に飢饉(きが)に陥って、村の半数は死にそうになった時、主様が橋を建てるよう命じたのだそうで……。人々は、苦労を惜しまず働いたのですが、ある条件が乗り越えられず困っていました。その条件とは、村一番の娘を人柱としてこの橋の下に埋める事でしてね……。北村様の長女が犠牲になって今でも埋まっているそうです……。それからは、村は豊作が続いて、繁栄しましたとさ……。昔の言い伝え……、どうしました? 」


「いいぇ……。何でも……。」


「この橋は何があっても壊してはいけないと、聞いています。確か、橋を渡れるのは主様だけで、人間は渡る事を禁止されていると……。」


 確かに橋の入り口には、細いしめ縄で封じてある。その言葉を聞いているのか、否か、封じを無視し、橋の半ばまで進んだ。


「’秋冷’! 」


 悲痛な叫び声を上げて、それを見る事を恐れた彼は、直ぐに踵を返し、その場を後にした。


 秋怜は、司がいる家に走りながら、嫌な気持で一杯だった。一目で人間とは違う格段の速さで、走り抜けた。


 何故この村に来たのか。何故自分はあの橋を見たのか。後悔が請じた。見るべきではなかった。


 記憶があるあの懐かしいまでの波長は、彼女の物。

 彼女以外には考えられない。あの橋の下に埋まっているのは彼女。その実感があった。この場から離れよう……、直ぐにその考えに達した。


読んで頂き有難うございます。

あと少しで第一部が終わります。宜しければ、ブックマーク等を付けて頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ