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第九話 人々

9

 夜明け前から、人間の息遣いの音が聞こえた。多くの村人達が活動を開始したらしい。

 数日ぶりに蒲団で眠った二人は熟睡し、魔物である秋冷(しゅうれい)も戸惑いながらも眠っていた。

 格子から光が差し込む頃には、部屋の周りが騒がしい事に気が付いた。


 (つかさ)が起き上がると(ふすま)から、子供の顔が覗いている。

 無邪気な視線は気にもならず、手招きすると、子供達は部屋に数名入って来た。


「どうした? 」


 司が一人の頭を撫でると、嬉しそうにしていた。司の顔を見上げてから、隣で丸まっている秋冷を見た。


「どちらが主様?貴方様? 」


「いや。私ではないよ。」


 と云うと、興味は隣で眠っている秋冷に向かい、恐る恐る見ているだであった。


 流石にその視線に気付いたのか、秋冷は瞳を行き成り開けて、飛び起きた。


 驚いて子供達は慌てふためき、司の後ろに隠れた者や、逃げ遅れて腰を抜かしている者や、事態を飲み込めていない子もいた。


「何だ。これ? 」


 秋冷は、逃げ遅れた子供を持ち上げると、顔の前まで持って来て、マジマジと見た。

 余りの事に子供は泣出さんかと心配したが、秋冷の顔を間近かで確認して自信を付けたのか、大きな声で「主様! 」と云った。


 それを聞いた子供達は、至る所から出て来て、我も我もと顔を見に来て、見飽きると秋冷の足に絡み付いた。


 初めての人間の歓迎に、秋冷はシドロモドロしながら、子供の多さにも驚いて、タジロイデしまった。


「あぁ……。すいません……。主様がいる事は内緒だったのですが……。何時の間にか、村のみんなが知ってましてね。顔を見たいと云った子供達や、村の者が来るかもしれませんが、お気を悪くなさらないでくさださい。」


 昨日の老人は、農作業の作業着を(まとい)ながら、二人に挨拶した。そして、「朝飯が出来たから来て下さい。」と云って、部屋に案内した。

 納戸の側にある客用の茣蓙(ござ)が敷いてある。だが、其処は人だかりで、引き戸や格子(こうし)の付いた窓から人の視線で(あふ)れていた。


「あの……。あの人は? 」


 老人に小声で、司が尋ねた。


「あぁ。村のみんなでね。この人達も主様が一目見たいと云ってね……。そろそろ、畑仕事を始めないといけないから……。直にでも居なくなるでしょう。」


 老人は悪びれる様子もなく、膳に飯を盛り、二人の横に座った。


「爺さん。そんな粗末な物じゃ。主様が怒るよ。これも召し上がれな。」


 小太りの婆さんが、盆に飯の添え物や漬物やらを持って、敷居を跨いでいた。

 秋冷や司の前に来ると、面白い笑い声を上げながら、膳に置いて行く。そして、後ろ向きになったと同時に、「主様ったら、あんな色男でどうするのよ。」と話して、旦那に怒られていた。


 和やかな空気が其処に出来た。

 彼等にとって、主様は隣人に近い存在。そして、恐れる物ではない。


 箸を握って、食を進めようとした。

 大勢いる一人の女が、「そろそろ。行かないと、今日の作業が終らないよ。」と人を急かしたら、大人はいなくなり、それに引き(ずら)られて子供も家に帰って行った。


「貴方も農作業がお有りで? 」


「いいや。老人のくらしなんて質素な物で十分だよ。だから、足りなくなったら作るで、用は足りる。」


 黙々と手を進めている秋冷。

 人間の食べ物に興味深々。

 固形の旅食も初めは警戒はしたが、味になれると何でも食べた。彼は山の物以外食べた事もなく。今(まで)、司は倒れていたため、秋冷に抱えられていた。

 それで山道を登ったり、下ったり疲労は凄まじい物だろう。流石に魔物だけあり、彼の体は強靭(きょうじん)だった。


「人間世界を見るのも良い事だ。お前が恐れられていないのなら、村の周りを見ておいで……。」


 司は時間とともに具合が良くなると分かったので、秋冷は小さく頷いた。


 小さな山里では人間も多くはなかったし、此処は根づいた文化がある。秋冷としては外の世界に興味もあった。


「不慣れな点もあるので、この人に付いてってもらえ。」


 二人の会話を聞いている老人に、観光をさせて貰う事にした。司は体がまだ使えないため家で留守番。


 司の体力は食事を取れば取るほど回復し、秋冷も睡眠時間の多い司が構ってくれないので、寂しかった。


 秋冷は喜んだ顔を作り、急いで目前の飯を平らげ、膳の片付を手伝うと、いそいそと司を部屋に寝かせた。


 最初に通された客間が、何時の間にか二人の寝室になっていた。


 司は秋冷とその老人とが家を出たのを確認した。そして、独り言を呟いた。


「案の定、此処が余市村だとは……。少し早すぎたな……。まぁ、良い。結果的に、秋冷を此処(ここ)に誘き寄せたのだから……。」


 溜息を吐きながら天井を眺めると、蒲団に石が当たって痛い。うつ伏せに寝返って、左肩を見た。


「段々酷くなっているな……。」


 独り言を呟き、着物の上から出っ張っている石に触れる。体の一部が碧い石になっていると、秋冷が気付いたのは、大きな誤算だった。もっとキチンと隠すべきだったと思った。

 また大きな溜息を吐く。


読んで頂き有難うございます。

のんびり続きますのでよろしくお願いします。

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