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第七話 司、倒れる

7

 其処はとても暗かった。初めて光を見た時はまだ子供で、人間と変わらない風貌と、心が秋怜には合った。


 だが、自分は人間とは違うと、門の奴等が云った。幼い時から一人で、門を守っていた。人間が自分を殺そうとするから、殺されたくなくて、自分の身を守ろうとした、だが無駄だった。幼い子供の魔物が、大人の人間に敵う筈もなく、口々に男達は、

「何で門番がこんな子供なのだ…。」

 と驚いて、秋冷の判断を困った。下手に残しておく方が危険だと結論に達して、一人の男が斧を振りかざす。


「嫌だ! 」


 秋冷は言葉を大きく発した。目を見開き、空を見た。もう真夜中で月があった。


 辺りを見回そうと、首を縦に振る。


「大丈夫か?どうした? 」


 司が心配そうに顔を覗かせている。どうやら秋怜が見たのは夢だったらしい。


 その水辺の辺で野宿する事になった二人は、各々好きな場所に眠ったが、司が木の上で寝る事を拒否したため、仕方なく秋冷も地べたで眠ったのである。


「嫌……。何でもない。」


 何時もと違うためか、彼は悪夢に(うな)された。


 昔の記憶が蘇る。

(人間と姿は変りなくても、魔物と云うだけで敵意の固まりを人間から投げ付けられた。救ってくれる人はいない。


 魔物も自分を門番としては見るが、門を失ったら誰も助けてはくれないだろう。それ故に、人間からは忌み嫌われる。秋冷は魔物を生産するのと同じ、人間はそれを恐れている。)


「なぁ……。俺が門番だったて知って逃げなかったのは、司ぐらいだ……。」


 秋冷は、仰向けで目を瞑った。その隣に同じ様な状態で、司も寝転ぶ。


「そうなのか……。」


「もし、俺が出口の方の門番でななくて、人間界から魔物を魔界に帰す門番だったら……。こんなにも嫌われなくてすんだのかなぁ。」


 秋冷は、何故こんな事を話すのか分からなかった。司は黙って聞いている。


「何で……。門は一通しかないのだろう。きっと、入り口はみんなから好かれて良いだろうな……。」


 草がクッションになって体が楽になる。だが、心は重い。


 司は自分の声を聞いてくれる。どんなに命乞いをしても、聞く耳を持たなかった大人の人間とは違う。


「同じさ……。入り口でも出口でも、門を守っているのなら……。人間は恐れる……。自分より強い奴を、人間は恐れるのだ。それにな……、私は……。眠ったのか? 」


 秋冷の寝息が聞こえる。熟睡しているのか、お腹が上下に動いている。

 それを見てから司は、目を(つむ)った。魔物なのにこんなにも儚くて、強いのは始めてだと思った。







 二人で森を抜けたのは翌朝、薄暗い中であった。遠く離れた人里でも、何日も歩かなくてはいけない。

 だが、秋冷(しゅうれい)はこの森を熟知していて中々急な谷を下れば、反対側の里へ降りられる事を話した。


 その道程を降りて行くと、流石獣道。

 人間では到底無理な断崖が現れた。それでも、秋冷は此方の方が時間短縮になると話すので、無理を承知で下っていった。


「もう無理……。疲れた。」


 やっと座れる岩場で腰を下ろして、空中に足を投げ出した。


(つかさ)は、だらしないな……。これ位の谷で……。」


「お前なぁ……。あっ、そうだ。この崖から私をおぶって降りられるか? 」


 明らかに嫌そうな顔をした秋冷だったが、主人の命令が聞けないのか……と威圧の混じった睨みにより渋々頷いた。


 体の小さい秋冷に、司が圧し掛かる。


「司、でかいよ。」


「お前が小さ過ぎるんだよ。」と秋冷は頭を叩かれた。


 司を背負った侭、立ち上がると、空中に体を投げ出し、司が悲鳴を上げる暇もなく、数秒空で止まってから、引力に引っ張られて、地上に落ちていった。着地場所は、林の中であったろうか。


 彼方此方(そこかしこ)に枝で引っ掛けた擦り傷が司の体に出来ていた。


 余りの事に脂汗を掻いている司。


「もう着いたぞ。大丈夫か? 」


 声の返答は帰ってこない。放心状態で居る司を、自分の背中から、木陰に変えて凭れさせると、肩が非常に腫れているのが分かった。


「おい!何だよ!これ? 」


 鬼気迫った秋冷に気が付いた司が、襟筋を引っ張っる。確認し様としている秋冷の手元を覆い被さって外した。


「何でもありませんよ。」


 笑みを作り、手を口元に当てた司に、昔の彼女と同じ行動を取っていたのでピント来た秋冷。


 彼女はどうしょもない局地に向かうほど、笑い、手を口元に当てていた。


「もしかして、俺が付けた(きず)()んでいるのか? 」


 首を縦に振ると、また微笑んだ。

 まどろっこしい質問は辞めて、無理矢理着物を剥がした。この前も司に同じ様な事をされたので、遠慮はなかった。


 着物を肘まで下ろし、傷口をマジマジ見た。白い肌に傷が膿を持っていたと思ったら、赤くなっている所為か傷口から熱が出て来ていた。でも触った感じでは折れてはいない。罅が入っているのだろう。


 少しほっとして、反対側の肩を見た。肩甲骨の裏に何か光物を発見した。


 後ろに回って見ると、皮膚から石が生えて来ている様に思えた。

 碧い透き通った石。

 明らかに人間の柔らかい肉に不釣り合いな無機質な物体。無理に引き剥がせば、肉がこそげ落ちるのは感覚的に分かった。


 そのめり込んでいる一寸にも満たない石を、秋冷は、『人間とは変な病気があるのだな』と納得した。


「急いで治療しないと……。」


 熱を持っている傷と石を取り外せば司は体力が戻ると考えた秋怜。


 秋冷は天下無二の妖怪であるため人間に深手を負わされる事はない。よって、応急処置も出来ないのである。


 見様見真似の添え木を巻き、司を抱き抱えてから人里目指して邁進した。


 秋怜は思った。

 彼の異変に気付かなかった。こんなに痛手を負っている。

(今迄苦しかっただろうに……。)


 初対面の人間なら変化に気付かなくても仕方ないと諦めが付く。だが、それでも悔しかった。

 何故司は自分に話してくれないのだろう。何故頼らないのだろう。少し心に風穴が開いた。


 司は終始無言で痛みに堪えている。だが、日に日に衰弱する気配がする。その上、秋冷が付けた傷は、大分落ち着いてきた。

 だが、石の方は日に日に大きくなっている。


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