表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
開放厳禁〜魔物の秋冷と人間の司〜  作者: 木村空流樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

第十五話 少女の願い

読んで頂き有難うございます。

15

 司は最後まで嘘を付いた。


 彼は真実を話し、秋冷を強く生き残る様にしようと考えていた。だが、それを止めた者がいた。


 橋で絶命した’秋冷’である。彼女は、水が全てを飲み込んだ後の数分に現れた。



 橋の外を空中に浮いていて、魔物の秋冷には見えなかったのか、気づきもせず反対を見ていた女。


「あっ……。」


 司が声を発した。それでも秋怜は何も気づかずに、ただ辺りを警戒していて、魔物の秋怜はうろたえているだけだった。


 体を横にした侭、下の惨劇よりも橋の外を見ていた。

 遠い空を魔物の秋怜は見ていた。


「こんな事に巻き込んでしまって、申し訳なかったわね……。」


 司が首を横に振ると、橋の上で魔物の秋冷が、司の頭を支えながら、「どうした?何処か、痛いのか?」と尋ねて来た。


 その時点で、秋冷があんなにも会いたがっていた彼女が目の前に居るぞと、教えてやりたかったが、彼女は哀しそうな顔をして、


「知らせないでいて上げて……。彼は余計苦しむわ。」と小さい声で伝えて来た。


 声が出せない司と、霊体である’秋冷’とは、意志の疎通が簡単だった。


「どうした?司。」


 秋冷は、少し困り果てて云った。傷口が痛むのかと聞いて来た。だが、彼に申し訳なくて反応出来なかった。

 出来る事なら、彼女の顔を見せて上げたい……。そんな気になった。だが、彼女は姿を露そうとしない。その上、司を口止めした。


『どうして……。今更、出て来る? 』


 心の中で問い掛けた。


 空も地面も紺碧の色だが、彼女は透けて宙に浮いている。後ろの景色が透けて見える。


「私は生まれ変わっても、この村の事だけが気がかりで貴方を呼び寄せてしまった……。貴方なら分かるでしょ。今迄、生きて来ても、心残りがあったのだから……。」


 司は意味が分からず、聞き続ける事にした。それ以外言葉を発する事を諦めた。


「この碧い石が、全てを洗い流せば、門が開くわ……。そうすれば、死んだ者達も迷う事無く進む事が出来る。自分だけ生まれ変っても、死んだ事を直視出来ない者は生まれ変る事すら出来ない。彼等はそうなのよ……。」


 ‘秋冷’は、心の無念さだけで、実態を作っていた。


「彼等は記憶がごっちゃになっていただけ……。数十年前の自分の死を覚えている方が可笑しいのよ。」


 魔物の秋冷は、水が段々退いて来たのを、司に教えた。彼女の周りが薄く為り始めた様な気がした司。


「本当の理由は彼に教えないで……。」


『なっ!この村が全滅したのは、秋冷の所為だろう。君が、魔物を使って助けようとした村人は、秋冷の放った魔物によって滅ぼされたのだろう。』


 声が出ない分、思い切り心で叫んだ。


「私が山を降りた時には、橋が出来ていた。それが、彼が放った魔物だとは思わなかったの……。病を治してやる換わりに、橋を建てろと云われたらしいわ……。でも、何度も私が(たしな)めても、村の人は聞かなかった。狂信的な人は、生け贄が必要だとか言い出して……。」


 言い訳臭い事を言い出したので、怒り奮闘しだした司が、心の中で呶鳴(がな)った。


『秋冷は、魔物は出せても、魔界に返す事が出来ない。魔物を放つだけ放って、人間界では封じてないのだろう。それで、襲われた村や富を得た人間も多い。だから、人間の司がいるのでしょ。魔物の秋冷が出口なら、人間の司は入り口。秋冷が開放なら、私は禁忌。だが、’秋怜’の力が未熟だから、まだ司としてが産まれていなかったから、この村の悲劇は止められなかった。貴方が私を秋冷の元へと向わせた理由ですね。』


 完全に人型になっていない’秋冷’は、ボオッとした光の侭、宙に浮いている。


「えぇ……。それもあるわ。それ以上に、貴方には魔物の秋怜が必要だからよ……。」



 最後にのたまったのは、其れである。



 彼女は消える前まで、自分本位だった様な気がする。我ながら腹がたつと思う。だが、自分が良かれと思った事でも、結果的に人を落し入れる事もある。


 救おうと思った人間を己が放った魔物が殺していたと知ったら、彼女を村に帰してしまった事すら、後悔している魔物の秋冷には耐えられない。


 その後村を壊滅に追い遣ったなどと知ったら、秋怜はどうなるのだろう。


 事実を教えるべきか、嘘を突通すか……。

 今の司なら前者だ。


 だが、死んだ’秋冷’は、後者を選らんで欲しいと云った。彼女の最後の願いを聞いてやらないほど司は薄情でもなかった。


 心が決ると、司は真剣な面持ちで頷いた。




「大丈夫だ。」


 秋冷に言葉を返すと、今更狼狽えていた秋怜の顔が安堵の色に変わった。

 そして、水は、終息の方へと向った。


楽しんで頂けたら幸いです。

宜しければ、ブックマークを付けて頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 秋冷が魅力的。魔物なのにかわいらしいです。金髪も私好みです。 [一言] 最後まで読みましたが、もう一回読みたくなりました。面白かったです。ファンタジーは私が好きなジャンルなので、読んでいて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ