第一話 神域
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今か昔の時代。
杉の覆い茂る大地の上、小高い丘の藻に纏められた、石造りの鳥居。
人間の住む場所と、魔の住む場所は明確に識別されていた。
山奥の若干の村人達が、そこを恐れ、彼等はそこに近づかず、大祭の時だけ門は開かれた。だが、今では誰もしらない。
髪を棚引かせ秋冷はそこにいた。
人でなく、人でなかざりし者。それでいて、目の或る者を魅了して止まない、容姿。金色に輝く髪は、容姿年齢が16才でありながら妖艶。
「あぁ……。腰痛ぇ。もう歳かも……。」
黙っていれば、容姿端麗。口を開けば、理想幻滅。
その少年の名は、秋冷。
中肉中背。
金糸の刺繍着物に、時代錯誤な編み上げブーツ。
「ここ、数十年。誰も来ないからつまらん!! 」
誰が来ても、五月蝿いと云っては、なぎ倒すのだ。今はそんな事考えない秋冷。
誰もいない……と考えると、人恋しくなる。
秋冷は、此処数十年間、この地から離れていない。
誰からも忘れられ、根本的に誰も来ないのだが……。ただ一人。彼はこの地で生き続けている。何故此処に居るのか、何故此処なのか分からないほど、此処にいる。
「遊び相手が欲しい!! 」
一日に数回独り言を叫ぶのが日課になった。
大きな杉の元、土台となった岩には苔がビッシリと付いている。その上に朱色の祠が建っていた。
秋冷はこれを守っているのだ。彼はこの門を守る門番。この門は人間界と魔界とを繋ぐと云われている。
しかし、秋冷にはお構いなしである。ただ、自分の居る所に、それが有るだけだからだ。
不甲斐ない人間が、魔物を利用しようとする。だが、秋冷はそれらを近づけない。
どんな大男が来ても、どんな霊力をもった者が来ても無駄だった。彼は祠の後ろの門を守り続ける。
真昼なのに太陽光も届かない大地の元、小鳥達が一斉に飛び立った。秋冷に合図をする様に……。
刹那、彼は振り返ると、杉の頂点で狭くなった紺碧の空を見上げた。
「また、人間が来たのか?面白い。からかってやるか……。」
泣いていた赤子が泣き止んだかと思うと、秋冷は身を翻し、蝶が飛び立つ様に木の枝にしがみ付いた。上から覗けば、誰が来たかも分かるし、顔を拝み易い。
秋冷は体勢を立て直すと、枝から枝へ飛び移った。跳躍し、着地する様は梟の様に……。
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