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ミセバヤ:穏やか

ガリーナは朝、目を覚ます。

薄い陽の光が、心に落ち着きを与える。


ふと人の気配を近くに感じ、隣を見た。

ベッドの横では、ワレリーが椅子に座って看病をしてくれていた。

いつもの常に目を閉じた穏やかな表情ではなく、あの恐怖を煽る四白眼を見せながら。

昨夜の事があった為、ガリーナは驚いてしまう。

ワレリーは頭に包帯を巻かれていて、溜息をついた。


「別に襲いませんよ。…パーヴェルもいるというのに…。」


「え」


ガリーナは周囲を見回すと、自分の部屋である事に気づく。

するとガリーナも安堵の溜息をついた。


「帰ってこれたのね…。」


「昨夜は申し訳ありませんでした。

いくら自分の目的を果たす為とは言え、儀式の内容を知らせず襲うのは間違っていたかもしれません。」


「かも じゃなくて間違ってます!」


ガリーナが言うと、ワレリーは反省した様子を見せていない。

そんな様子にガリーナはムスっとしてしまうと、ワレリーは言った。


「昨夜の事は皆には内緒にして欲しいのです。

とは言い、パーヴェルは私に忠実なので言っても無駄でしょうが。」


「じゃあ…私はまたあなたに襲われるんですか…?」


ガリーナが聞くと、ワレリーはガリーナの顔色を伺う。

ガリーナは恐怖で怯えていて、手が震えていた。

するとワレリーは言う。


「そんな顔をすると、また襲うかもしれませんよ?」


「えっ」


ガリーナは嫌なのか顔を引き攣ると、ワレリーは視線を窓の外へやった。


「凛としていなさい。

いつまでもそんな顔をするんじゃありません。」


「え…はい…。」


ガリーナは大人しくなって返事をすると、ワレリーは笑顔を向ける。


「あなたを苦しめて楽しむのも悪くないですがね。」


ワレリーの言葉を聞いて、ガリーナは顔を真っ青にした。


(悪魔かこの人…!)


「…私が儀式を行おうとしているのは本当です。

命を絶つつもりならば…もう一度考えておいてください。では、私はこれで失礼します。」


ワレリーはそう言うと、部屋を立ち去ろうとする。

そこに丁度パーヴェルが入ってきて、立ち歩くワレリーを見て手を伸ばす。

ワレリーは便乗して手を伸ばすと二人は力強い握手、もとい挨拶をした。

挨拶したのにも関わらず、流れる様にワレリーは部屋を出ようとすると、パーヴェルは目を丸くした。


「もう帰るのですか!?と言うか、調子はいかがです?」


ワレリーはその問いに、いつもの微笑みを向けて言う。


「だいぶ良くなりました。俺はもう仕事に戻らなければなりませんので、これで。」


「え、せっかく朝食を作ったというのに…。

…いってらしゃいませ。」


パーヴェルは残念そうな顔をしつつも、無理に笑顔を見せて言った。

ワレリーはパーヴェルに手を振ると、そのまま帰っていく。

パーヴェルはそれを見守ってから、すぐにガリーナの元にやってきた。


「大丈夫ですかガリーナ。昨夜一体何が…」


その言葉に、ガリーナはパーヴェルを見つめる。

パーヴェルは真面目な顔でガリーナを見つめると、ガリーナはふと呼ぶ。


「ワレリー…さん…?」


「なんでしょう。」


パーヴェルがそう言うと、ガリーナは一瞬だけ目を見開いて驚いた。

それから布団に潜ると言う。


「何も覚えていません…。」


パーヴェルは困った様子になると言った。


「そうですか…。覚えていないのなら深く詮索しない方がいいですね。

朝食は食べられそうにないですか?」


「うん…」


「では、気分が良くなったら食べてくださいね。

私は教会に行きますので。」


「うん、ワレリーさん、今日も頑張って…」


「はい!行ってきます、ガリーナ。」


パーヴェルはそう言ってガリーナの頬に優しく口づけをすると、部屋を出る。

パーヴェルはリビングを通り、食事中のニコライに言った。


「大人しくしてろよ。」


「ぱん!」


ニコライはパーヴェルの話も聞かず、パンを手に持ってそう言うだけ。

パーヴェルは呆れた様子になると、そのまま出かけた。


ガリーナは布団の中で考え事をしていた。


(ワレリーさん…怖かった…。

なんで。昨日の昼間まではとっても優しい方だったのに…。

なんであんな恐ろしい事を…。)


ガリーナはそんな事を考えていたが、考えるのをやめる。


(そうだ、ニコライ。)


ガリーナは起きてリビングに向かうと、ニコライはなんとガリーナの分の朝食も完食していた。


「ああ!」


ガリーナはそれを見て声を上げてしまうと、ニコライは椅子から飛び降りてリビングを走り回る。


「ぱーん!」


ニコライは走っている間に壁や物に体をぶつけてはいるものの、平気そうな顔をしていた。

ガリーナはそれを見ると顔を真っ青にする。


「またアザだらけになるわよニコライ…!」


するとニコライはガリーナを見て足を止める。

それから一度大きくジャンプをすると言った。


「そと!」


「ダメよ、昨日怒られたばっかりでしょう?」


しかし、ニコライは叫ぶ。


「そとーっ!」


そう言って玄関へ走ると、ガリーナは捕まえる。


「眼帯も付けずに出たら、村の人に目がバレてしまうわ!」


「そと!マーマ!ああーっ!」


自分の思い通りにいかないのが嫌なのか、ニコライは叫んだ。

ガリーナは困ってしまうと言う。


「わかったわかったわ!外に出すから、大人しくするのよ?」


ガリーナはそう言ってニコライの髪を結び始めた。

それから眼帯をニコライに付けると、ニコライは外に出る事がわかったのか機嫌が良くなる。

ガリーナはニコライには勝てないのか、眉を潜めて溜息をついた。


 ==========================


今日のニコライは大人しかった。

朝食を二人分食べたお陰か、人を見ても然程騒がなかった。

しかし、ガリーナは自分のお腹を摩る。


「もう…ニコライが私の分食べちゃったから~…

ワレリーさんの手料理だったのに~…」


ふと、ガリーナは黙り込んだ。


(そうだ…彼はワレリーさんじゃなくてパーヴェルくんだった…。)


ガリーナは再び複雑な気持ちになると、そこにトラックに乗ったワレリーがやってくる。


「ガリーナ、お散歩ですか?」


急に目の前にトラックがやってくるので、ガリーナは驚く。

ニコライはワレリーを見ると飛び跳ねた。


「レモンー!」


ワレリーは苦笑すると、トラックから降りてきてガリーナの前に来る。

するとガリーナはワレリーを怪しい人を見る目で見つめた。


「あの、ワレリーさんは車の運転、ちゃんと免許取ったんですか?」


ワレリーはニコニコしながら言う。


「見様見真似でできますよ。」


それを聞いたガリーナは目を細めた。


(ワレリーさん、天才だからなぁ…やめて欲しい。)


「お仕事ですか?」


ガリーナが聞くと、ワレリーは頷いてからトラックの積荷を指差す。


「村の食料を調達してまいりました。」


食料と聞いて、ガリーナのお腹が急に鳴る。

それを聞いたワレリーは目を丸くし、ガリーナは顔を真っ赤にしてお腹を押さえた。


「えっと…朝ご飯ニコライに食べられちゃって…!」


それを聞いてワレリーは上品に笑うと、ガリーナに言う。


「家で食べていきますか?」


「え?」


しかしガリーナは昨夜の事を思い出して構えた。


「それとも村の人々にお腹の音を聞かせるつもりですか?」


ガリーナはそれを聞いて、言いづらそうに言う。


「や、やっぱり食べます。」


するとワレリーは、いつもの穏やかな笑みを浮かべて一つ頷いた。


「よろしい。」






挿絵(By みてみん)

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