ガーベラ:前進
数日後の朝、ニコライは布団から起きて部屋を出た。
リビングに向かうと、そこには朝食を用意しているレギーナ。
ニコライは黙って椅子に座ると、正面に座っていたパーヴェルはニコライに気づく。
「おはよ。」
パーヴェルは新聞紙を読みながら言うと、ニコライは言った。
「おはよ!」
「だいぶ言葉を覚えたわね、コイツ。」
レギーナが言うと、パーヴェルは自慢気に微笑む。
「兄様がニコライと関わってからなんだよなーこれが。流石お兄様!」
レギーナはパーヴェルの相変わらずさに溜息をつくと、準備を終えて三人で食卓を囲んだ。
ニコライはスプーンを持つと言う。
「いーたーだーきーまーすぅ!」
そう言って朝食を食べるので、二人も朝食を始めた。
『いただきます。』
朝食が終わり、パーヴェルが仕事に出かける時間になると、パーヴェルはふとニコライの元にやってくる。
ニコライは部屋で楽器で遊んでいると、パーヴェルに気づいた。
「あくま!」
ニコライはパーヴェルにそう言うと、パーヴェルは顔を引き攣って不機嫌な顔をする。
「誰が悪魔だって?あん?」
そう言いつつも、パーヴェルは溜息をついた。
それからパーヴェルはポケットから何かを取り出す。
取り出した物は眼帯で、いつもニコライが外で付けている物とは別だった。
黒い眼帯で、革で作られた物。
それをニコライに投げるように渡すとパーヴェルは言う。
「お前今日、兄様とガリーナと誕生日会するんだろ。
いつもの眼帯じゃ見窄らしいからよ、これやる。」
ニコライはその眼帯を見ると、気に入ったのか喜んだ。
「おーー!」
「絶対に壊すんじゃねえぞ。お前が出てったら代わりは作ってやれねえからな。」
パーヴェルは念を押すように言うと、ニコライは眼帯を付けるのに手間取る。
パーヴェルはそれを見ると、悪態をつきながらも付けてやった。
「こうやって付けるんだよ。お前、付けるの下手だな。」
ニコライはパーヴェルを見つめている。
眼帯を付け終えたパーヴェルはニコライと目が合うと、再び不機嫌な顔を見せた。
「なんだよ。」
するとニコライは、パーヴェルの頬に口を付ける。
パーヴェルは顔を引き攣ると、反射的に離れてしまった。
「なんだよ急にっ!」
「あーー!そとー!」
ニコライはそう言って、そのまま外に出ていってしまう。
パーヴェルは立ち上がると、それを見ていたレギーナは言った。
「手作りなの?あの眼帯。」
「うん。兄様への誕生日プレゼントを作るついでなんだけどな!」
パーヴェルはそう言うと、そそくさと仕事に向かってしまう。
レギーナは目を丸くすると、今の猛暑を考えて思った。
(あの牧師、誕生日は真冬なんだけど。)
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ニコライは外を走っていると、先日の妊婦だった女性を発見。
女性は赤ちゃんを抱えている。
ニコライは興味を持って走ってくると、女性は笑顔を向けた。
「あ、ニコライくんおはよう。新しい眼帯貰ったのね、良かったわね。」
ニコライは相手が眼帯を見ている事を知ると、自慢気に笑ってみせる。
女性は笑ってしまうと、しゃがんでからニコライに赤ちゃんを見せた。
「ほら、生まれたのよ赤ちゃんが。元気な男の子!」
「あかちゃん」
ニコライが赤ちゃんを見て言うと、女性は頷く。
「お腹から出てきたのよ。」
ニコライはお腹がしぼんでしまった女性のお腹を見ると、目を丸くした。
ニコライは女性のお腹を触ってから、次に赤ちゃんを触る。
「あかちゃん」
「うん。あなたのママのお腹にも、いるのよ?」
「マーマ」
ニコライは呟くと、赤ちゃんに手を伸ばす。
赤ちゃんは眠っているようで、ニコライが手を伸ばすと指を掴んだ。
「おー!」
ニコライは歓喜すると、次に赤ちゃんの手を包むようにして掴んだ。
赤ちゃんの手は温かく、赤ちゃんは手を小さく動かす。
ニコライはそれに驚くと、何か思い出したかのような顔をして言った。
「て!マーマ!」
すると、そこにパーヴェルはやってきた。
女性はパーヴェルを見ると微笑む。
「おはようございます牧師様。
あの、産まれたんですよ赤ちゃんが。」
パーヴェルは赤ちゃんを見ると目を輝かせ、笑顔で駆け寄った。
「おお!元気な赤ちゃんですね。お名前はなんと言うんですか?」
「イリヤっていうの。」
「イリヤですか。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
ニコライはそんな二人の会話を見上げていると、女性はニコライを見てから言う。
「ニコライくんにもやっと兄弟ができますね、牧師様。」
それを聞いたパーヴェルは苦笑。
「そうですね。
あ、では私は仕事があるのでこれで。」
するとパーヴェルはニコライに言う。
「ニコライ、こっちですよ。」
パーヴェルはそう言って歩き出すと、ニコライは追いかけた。
暫く二人は一緒に歩いていると、近くの森の付近でガリーナを発見。
「マーマ!」
ニコライはそう言って駆け寄ると、パーヴェルも笑顔を見せる。
「ガリーナ、おはよう!」
「おはようニコライ、パーヴェルくん。」
ガリーナは微笑むと、パーヴェルもガリーナに駆け寄る。
それから周囲をキョロキョロとした。
「ワレリー兄様は?」
「え?」
ガリーナがそう言うと、木陰からワレリーは顔を出す。
パーヴェルはそれを見て笑ってしまうと、ニコライも歓喜。
「パーパ!」
ニコライはワレリーに駆け寄ると、ワレリーはニコライの眼帯に気づいた。
「おや、新しい眼帯。誰に貰ったんですか?」
「あ!ホントだ!カッコイイ~」
ガリーナもそう言ってニッコリ笑ってニコライの頬をつついた。
ワレリーも微笑むと、ニコライは嬉しそうに跳ねる。
それからパーヴェルを見た。
「あくま!」
ワレリーとガリーナはその言葉に苦笑してしまうと、パーヴェルは無愛想な顔を見せる。
「悪魔じゃないっての!ったく。」
ワレリーは笑ってしまうと、パーヴェルに聞いた。
「パーヴェルが作ったのですか?」
そう言われると、パーヴェルは頬をピンクにして照れる。
「はい。たまには父親らしい事でもと…」
するとワレリーはパーヴェルの頭を撫でるので、パーヴェルはデレデレ。
「たまにはいい事するじゃないですか。よしよし。」
「うふふふ!あ!ワレリー兄様!」
パーヴェルはそう言ってポケットから小さな箱を取り出した。
ワレリーは目を丸くすると、その箱を渡す。
「これ、以前言ってたピアスです。ちゃんと作ってきましたよ!」
「おや、話だと私の誕生日に送ると…」
ワレリーが言うと、パーヴェルは眉を困らせた。
「兄様、海外に行かないんですか?行くと思って、早めに送ろうと思ったんだけどな。」
ワレリーはそれに反応すると、パーヴェルは微笑む。
ワレリーはその箱をゆっくり開くと、赤いピアスが煌めいた。
「おや、パーヴェルのピアスに少し似ていますね。」
「勿論!俺達兄弟でしょ?」
パーヴェルはニコニコとしてそう言うと、ワレリーは微笑んだ。
「そうですね。素敵なピアス、ありがとうございます。大切に使いますね。」
「そーしてください!」
パーヴェルはそう言うと、ワレリーに不敵な笑顔を見せる。
「あのさ兄様!村の事は俺に任せてくださいよ!
俺は兄様の代わりを、しっかり果たすつもりですから!」
「え…」
ワレリーはそう呟くと、パーヴェルは続けた。
「俺の決心です。
ワレリー兄様、兄様はどうしたいんですか?」
パーヴェルの質問に、ワレリーは俯いて悩む。
パーヴェルはそんなワレリーを心配そうに見つめると、ワレリーは顔を上げた。
ワレリーはパーヴェルの表情を見ると微笑む。
「おや、何を心配しているのですか?心配しなくとも、行くつもりではあります。」
「兄様…」
パーヴェルは目を丸くすると、ワレリーは笑顔になって続けた。
「嬉しいのですよ私は。パーヴェルが、ここまで変わるとは思わなかったのです。」
「変わる…?俺が…」
パーヴェルはそう言うと、ワレリーは頷く。
そしてワレリーはパーヴェルをそっと抱きしめると言った。
「私は、私が必要とされる場所を探しに行きます。
パーヴェル、あなたはこの村を守るのですね?」
「うん!」
パーヴェルは真面目な顔をして返事をすると、ワレリーはパーヴェルから離れる。
二人は対面して目を合わせると、ワレリーは言った。
「次、私がここに帰ってきた時、この村が、あなたがどうなっているか楽しみです。」
それを聞くと、パーヴェルは顔を赤くしたが笑った。
「もう!まだ別れの日じゃないですよ!」
パーヴェルの言葉にワレリーも笑ってしまう。
「そうですね。」
「もう!」
パーヴェルはそう言ってからワレリーを再び見つめた。
「楽しみにしててくださいよ。」
ワレリーはそれを、深く目を閉じて聞いていた。
小さく頷き、表情は穏やかだった。
パーヴェルはそれに微笑むと、すぐに切り替えて二人に背を向ける。
「さあって仕事だー!兄様、ガリーナ!いってきまーす!」
パーヴェルの笑顔に、ワレリーもガリーナも微笑んでしまった。
「いってらっしゃいー!」
ガリーナはそう言うと、ワレリーも言う。
「行ってらっしゃい。」
仕事に向かう途中、パーヴェルは自信のある顔で拳を手のひらに打った。
パーヴェルは広い青空を見上げ、何もない空に笑ってみせた。




