アセビ:犠牲
ガリーナがワレリーに連れられてやってきたのは、とある建物の中。
廊下は広く、幾つか部屋があった。
ガリーナは目隠しされていた為に気付かなかったが、暖かい部屋に入ったところで言う。
「室内に入ったのですか?」
ワレリーは部屋のソファーにガリーナを座らせると言った。
「ニコライをこちらへ。」
ガリーナは素直にニコライを渡すと、ワレリーは別のソファーにニコライを寝かせた。
ワレリーはガリーナの前にやってくると、優しく微笑んで呟く。
「さあ、始めましょうか。」
呟くと、ワレリーはなんと片手に柄の赤いダガーを持っていた。
そのダガーでガリーナの服を裂いてしまうと、ガリーナを裸にしようとする。
ガリーナは異常を感じて目隠しを取ると、ワレリーの片手にあるダガーに驚いた。
「ワレリーさん!どうしたの!?」
ワレリーは温和な口調を若干崩して言う。
「ええ?儀式ですけれど何か?」
「なんで服を破るんですか!?」
その言葉にワレリーはニヤリと笑う。
「神を呼び出す為には、腹に子を宿した女を生贄に捧げなければなりません。
先に説明しておけばよかったでしょうか?」
そう言ってワレリーはガリーナの腕を強く掴むが、ガリーナは恐怖で抵抗できない。
「そんな…!私、パーヴェルくんの妻なのよ…!?」
「妻?これから死ぬ者をどうしようが、私の勝手ですよ。」
さっきまでの穏やかさと裏腹に、狂気に満ちた言葉を発するワレリー。
ガリーナはふと、ワレリーの背後に見えた儀式用の魔方陣らしきものを発見する。
黒い線で逆さの星が描かれ、星の五角に蝋燭が立っていた。
それとナイフを持って狂気の笑みを浮かべるワレリーを見ると、ガリーナは言った。
「あ…悪魔の儀式じゃない…!?」
しかしワレリーは閉じていた目を少しだけ開いて言う。
「悪魔?それでもいいのです…私の疑問が解消できるならば悪魔でも誰でも…
神など…
神など端から存在しないのですからッ!」
そう言って更に服を裂くと、ガリーナの真っ白な肌が露出した。
ダガーで肌を切ってしまったのか、切られた箇所から真っ赤な血が滲む。
「ワレリーさんやめて…!」
ガリーナは恐怖で怯えた顔をすると、ワレリーは瞑っていた目を開く。
ワレリーは怯えているガリーナを見て喜んでいた。
「いい顔をしますねガリーナ…!
私、こういう顔を見るとゾクゾクします!」
ワレリーの怖い四白眼を見ると、ガリーナは恐怖で目に涙を溜める。
「ひぃっ…!」
「泣いても無駄ですよ?この部屋は安全なので、どんな不幸な出来事が起ころうとも…」
その時だ。
館の壁が不自然に開き、なぜか矢がワレリーに向かって猛スピードで飛んでくる。
ワレリーは驚いてそれを避けると言った。
「なっ、館のトラップが作動した…!?
今はスイッチを切っているというのに…!」
どうやらトラップだったようだ。
ガリーナは隙を見て逃げ出すと、ワレリーはガリーナを追いかける。
「待ちなさい!」
ガリーナはニコライを抱くと、ニコライは目を覚ました。
そしてワレリーを見ると言った。
「レモン!」
「ニコライ!今は逃げるの!」
ガリーナはそう言って走ると、外へ続く扉を探す。
するとガリーナは館の不自然さに気づいた。
(この建物…窓が一つもない…?)
そう、換気口はあるものの窓が一つもないのだ。
(というよりこんな広い建物、村にあったかしら…!?)
夢中に走っていると、別の部屋からワレリーが現れる。
「きゃっ!」
ガリーナは驚くと、ワレリーはガリーナの腕を掴んだ。
ニコライはガリーナの身体を伝ってズリズリと下に降りた。
ワレリーはガリーナを捕まえると笑う。
「ふふふ。生贄が逃げてはなりませんよ?」
ワレリーはニコライがしがみつくガリーナの足を見つめて言った。
「逃げないように足でも切り落としますか?」
ガリーナは怖気づいた顔を見せると、ニコライはワレリーの足に噛み付く。
「いっ!」
ワレリーは痛くて声を上げると、ガリーナはニコライを抱いて走り出す。
「逃げるわよニコライ!」
しかし、ニコライはワレリーの足に噛み付いたまま。
その上、ガリーナはニコライを抱いているはずがワレリーの足も掴んでいる。
ガリーナは結果的にワレリーを引きずって走っていた。
超高身長の男性を引きずって気づかないガリーナは余程だ。
「ガリーナ…!」
ワレリーは自分の状況をガリーナに伝えようとそう言ったが、ガリーナは気づかない。
ガリーナは扉を片っ端から開けていると外に続く扉を発見したので、走って外へ逃げ続けた。
輝く月が空の頂点にあった。
ガリーナはふと、満天の星空に気づく。
「わぁ…!」
白い星が空一面にばらまかれていのだ。
ガリーナは奇跡的に森から出ると、村の花畑を走る。
白い花が咲き誇る花畑に、空の白い星。
ワレリーは引きずられながらも一面の星空を見つめていた。
すると、石が頭に当たってワレリーは顔を引き攣る。
花畑は引きずられるワレリーのクッションになっていたが、所々に石が露出しているのだ。
ガリーナは夢中になって暫く走ると、気づけば自分の家の前にいた。
家の前には、急に家から消えたガリーナを心配して、外に出てきたパーヴェルがいる。
パーヴェルはガリーナを見ると驚いた。
「ガリーナ!どうしたのその格好!」
先程ワレリーに服を裂かれた為、ほぼ下着だけの姿であるガリーナ。
ガリーナは急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にすると、パーヴェルは自分が着ていた上着をガリーナに羽織らせる。
「とりあえず、帰ってきて良かったです。」
毎日感じている優しく温かいパーヴェルの腕。
それにガリーナは安心すると、パーヴェルは言う。
「さ、家に…」
するとパーヴェルは、目を回し気絶しているワレリーを見てしまった。
ワレリーの体には、色とりどりの花びらがついている。
「わ…!パーヴェル!?」
ガリーナはふと足元を見ると、引きずられたワレリーを発見。
「あ!」
パーヴェルはとりあえずニコライを剥がそうとして、ニコライを叱る。
「離しなさいニコライ!」
「レモン!」
ニコライは急にそう言うので、口からワレリーの足が離れた。
パーヴェルはワレリーに肩を貸すと、ワレリーの意識を確認。
「息はしてる…!」
パーヴェルは小声で確認すると、次にガリーナに聞く。
「一体何があったのですか…!」
「えっと…」
ガリーナは事情を説明しようとしたが、急に眠気がガリーナを襲った。
無事にパーヴェルの元に帰れた為か、安心しきってしまったようだ。
「眠い…」
ガリーナは足取りが不安定になると、パーヴェルはガリーナも支える。
「…明日聞きますから、今日はお休みなさい。」
こうして、話は次の日に持ち越されるのであった。