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アサギリソウ:蘇る思い出

ガリーナとパーヴェルは隣町のカミゴウの別荘にいた。

洋風の広い一室のソファーに二人は座っていた。

パーヴェルはガリーナに言う。


「で、やっぱりニコライと村を出る気なのか?」


ガリーナは真摯な表情で言う。


「パーヴェルくんは、ワレリーさんの代わりを努めたいんでしょ?

私は、ニコライの面倒を最後まで見るって決めているの。」


それを聞いてパーヴェルは考え込むと、困った表情を見せた。


「ガリーナは、自分の為に生きようって思った事ないのか?」


「え…?」


「ニコライニコライって、お前自身はどうしたいんだって話だよ。」


ガリーナはそれを聞いて黙ってしまうと、パーヴェルは続ける。


「俺はさ、それを心配して言ってるんだ。

ガリーナも兄様に似て、なんだかんだ相手に尽くす性格してるからさ。

たまに思うんだ、自分の身を壊してまで無理してないかなって。」


ガリーナは言葉に詰まらせると、再び考えた。

しかしガリーナは考えが変わらない。


(ダメ…やっぱりニコライの為しか考えられない…)


そんなガリーナを見て、パーヴェルは言った。


「別にガリーナも行きたいってなら俺も止めない。

そのくらいわかってやるのが、愛する人への礼儀ってもんだ。

でも、他人の為にガリーナが望むってのは…俺は変だと思う。


それに、今はニコライもガリーナの事を母親だってわからないのに…」


ガリーナは混乱し始めて言葉に困る。


「え…えっと…」


「ガリーナ、なんでそこまでしてニコライを…」


パーヴェルが呟くと、ガリーナは苦し紛れに言った。


「だって…ニコライは自分で道を決められないじゃない…!

私が、自由な場所に連れて行ってあげなきゃいけないじゃない…」


「それってガリーナにしかできない事?」


パーヴェルが聞くので、ガリーナはパーヴェルを見る。

パーヴェルはガリーナに真剣な顔を向けた。


「俺さ、兄様を村から出してやりたい。」


「え?」


ガリーナは目を丸くすると、パーヴェルは続ける。


「兄様、村に見つかったら処刑されちゃうし…リスク背負ってまでここにいて欲しくない。

そうしたらさ、兄様はニコライの面倒を見れるんじゃないか?

だってニコライはさ、兄様を俺と勘違いするんだぜ?」


「ダメよ…!ニコライとワレリーさんは赤の他人なのよ…!?

ワレリーさんに全てを任せられないわ…!」


「別に俺は兄様とニコライだけを連れて行かせるとは言ってない。

ガリーナが心から行きたいってなら、ガリーナを止めない。それだけ。

ただ、兄様がニコライを面倒を見るって形もあるって事だけを言いたい。」


「え…」


ガリーナはそう呟くと、パーヴェルの真摯な表情を暫く見つめていた。

パーヴェルはその顔を一切崩さず、ガリーナを見つめている。


「俺、ガリーナには自分の幸せを一番に考えて欲しい。

ガリーナは俺と兄様、どっちがいいの?」


「何を言ってるのパーヴェルくん…」


ガリーナはショックで呆然とすると、パーヴェルは目を閉じた。


「ガリーナには教えとく。

兄様は…ガリーナの事が好きなんだよ。俺と同じで。」


ガリーナは驚いたのか胸に手を当てる。

パーヴェルは目を開くと、虚しい顔を見せた。


「でも兄様は、俺にガリーナを譲ってくれたんだ…。

俺、どうしても腑に落ちなくてよ。

その上、ガリーナには俺が兄様だって嘘ついちゃってたし…。


だから思うんだ…ガリーナには、もう一度考え直して欲しいって…!

俺と兄様、どっちが好きか考えて欲しいって…!」


「パーヴェルくん…」


ガリーナは呆然としたまま呟くと、パーヴェルは一つ頷く。

それからガリーナに満天の笑顔を見せた。


「俺、ガリーナには幸せになって欲しいから。

本当に幸せになれる道を選んで欲しいんだ。」


その言葉にガリーナは目を見開いた。

それからガリーナは俯くと、パーヴェルに抱きつく。


「ありがと…パーヴェルくん…!私の事…考えてくれて…」


パーヴェルはガリーナを抱きしめると言った。


「当たり前だろう!俺の大事なガリーナなんだから。」


ガリーナは静かに頷くと、パーヴェルはガリーナを抱きしめる力を強める。

パーヴェルは切ないような、真摯のような、そんな表情を浮かべている。


(離したくない…!)


パーヴェルはそう思っていた。


そこに、部屋にマサミが入ってきた。

続いてニコライも入ってくるのだが、ニコライはなんと女の子のドレスを着せられていた。


「”ニカライ!”」


「マサミーー!」


二人は楽しそうに部屋の中でも追いかけっこ。

ガリーナはそれを見ると、嬉しそうに笑う。

パーヴェルはガリーナからゆっくり体を離しながらそれを見ていた。


「その服どうしたのニコライ?貸してもらったの?」


「パーパー!」


ニコライはパーヴェルの前で一回転するので、パーヴェルは反応に困る。


「…お前さ、男なんだろ。」


渾身の感想がこれだった。

ニコライはパーヴェルの反応の薄さを見ると、すぐに切り替えてマサミを追い掛け回した。

ニコライは部屋の片隅にある旅行バッグを見ると、マサミは気づく。


「”ぼくの!”」


マサミの言葉に、ニコライは意味を理解したのか言った。


「マサミの」


完全に無視されてしまったガリーナ。

ガリーナは元気なニコライを見ると、目に涙を溜めた。


「ガリーナ?」


パーヴェルはガリーナを心配すると、ガリーナは涙を我慢して無理に笑う。


「変だよね…!今まで私の事ママって言ってたのに…急に目も合わせてくれなくなるなんて…!」


パーヴェルはそれを聞くと、切ない表情を浮かべた。


「泣くの我慢しちゃってさ…。

ほんと…いい母親だよガリーナは。」


パーヴェルはそう言うと、呆れた顔をしつつもニコライに近づいた。

ニコライは追いかけるのをやめてパーヴェルを見上げると、パーヴェルはニコライを抱き上げる。

そしてパーヴェルはガリーナの元までやってきた。

ガリーナは涙目でニコライを見ていると、ニコライと目が合った。

ニコライはガリーナの涙を見ると、ふとマサミに視線を向ける。

マサミは首を傾げると、ニコライは言った。


「あーー!」


マサミは意味がわかったのか、部屋の椅子の上に置いてあった楽器を取ってくる。

そしてニコライに渡そうと背を伸ばすが、パーヴェルがニコライを抱えている為届かない。

パーヴェルは片腕でニコライを抱えると、その楽器を貰った。


「壊れた玩具…まだ持ってたんだ。」


パーヴェルはそう呟くと、ニコライに渡す。

ニコライはその楽器を貰うと、今度はまじまじとガリーナを見つめた。

ガリーナは何事かと思いつつ、黙ってニコライを見ている。


するとニコライはガリーナの前で楽器を振った。

ニコライは笑顔を見せると、楽器の音を真似る。


「あーー!」


それを見て、ガリーナはふと思い出した。

ニコライが笑顔で、自分やワレリーの前で楽器を振ってくれた日の事を。

二人でニコライを褒め倒した事を。

あの時は幸せで、今までの不幸を忘れるほどに温かかった。


ガリーナは胸に手を当てると、ニコライに笑顔を向ける。


「上手ね、ニコライ。」


ニコライはそれを聞くと、急に楽器を振るのをやめて呆然とした。

パーヴェルは変だと思ってニコライの顔を覗き込むと、ニコライは笑顔になって叫んだ。


「マーマーッ!!」


ニコライはガリーナに手足を伸ばしてバタつく。

パーヴェルは耳元で叫ばれたので顔を離す。

それを聞いたガリーナは驚いたが、やがて喜んだ。


「ニコライ…!私がわかったのね?ニコライ!」


ガリーナはそう言ってニコライに飛びつくと、パーヴェルは急に飛びつかれて驚いた。

パーヴェルは空気を読んでニコライを離してあげると、ガリーナとニコライは抱き合って喜ぶ。


「マーマー!マーマー!」


ニコライは何度もガリーナを呼んだ。

やっと、本物のお母さんを見つけたかのように。


「ニコライ…!ニコライ…!」


ガリーナは涙を我慢しながらも、ニコライの名前を呼ぶ。


マサミはそんな二人を見てニッコリしていた。

パーヴェルは呆れた表情のまま、この状況を喜ぶべきか迷っていた。

しかし、ガリーナの幸せな笑顔を見ると思った。


(好きだな…この笑顔。)


パーヴェルも自然と笑みがこぼれており、暫く二人で眺めていた。






挿絵(By みてみん)

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