エーデルワイス:大切な思い出
ワレリーは暴れ馬に乗って、村外れのナターリヤの家で一度止まる。
馬の動きが止まり、ガリーナはゆっくり上体を起こすとワレリーは言った。
「あなたはおばあ様の家に身を隠しなさい。村の者は私が引きつけます。」
「え、一緒に行くわ!」
ガリーナはそう言ったが、ワレリーは鋭い目を向ける。
「なりません!」
ガリーナは怯むと、ワレリーは続けた。
「あなたはガリーナであり、レギーナではありません。
本当は共に逃げる必要もないのです。
村の者が通り過ぎたら、急いで家に帰りなさい。」
ガリーナは涙をこらえて言う。
「ならワレリーさんだって…!」
しかしワレリーは言い放つ。
「私は悪魔の儀式という禁忌を犯した者なのです。
あなたは早く行きなさい、邪魔です!」
ガリーナは傷ついた顔をすると、静かに馬から降りた。
ワレリーはナターリヤの家を見ると、家からナターリヤが出てくるのを確認して馬を走らせる。
ガリーナは涙をこらえてそれを見ていると、ナターリヤがやってきた。
「ガリーナ、どうしたの?」
ガリーナは声を詰まらせて言う。
「お願い…!匿ってください…!」
異変を感じ、ナターリヤは何も聞かずにガリーナを家に招き入れるのだった。
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ガリーナはナターリヤの家でゆっくりしていた。
おやつにミルクとパンを貰い、ガリーナはポツンとリビングの椅子に座っていた。
そこにナターリヤは、服を数着持ってくる。
「これ、昔ワレリーやパーヴェルが着てた服。
その服装じゃ帰る時に見つかったら大変でしょう?これを着て帰りなさい。」
「ありがとうございます…」
ガリーナは気分が落ち込んでいるのか、小さな声でお礼を言った。
ナターリヤはガリーナの様子を見て困った顔をすると、隣に座る。
ガリーナはナターリヤを見ると、ナターリヤは穏やかに言った。
「本当に綺麗だねぇ、ガリーナは。」
「そんな…」
ガリーナはそう呟くと、ナターリヤは深く頷くと言う。
「ワレリーとパーヴェルはねぇ、幼い頃は毎日あなたの話をしていたよ?
懐かしいねぇ…」
「え…?」
ガリーナは顔を上げると、ナターリヤは微笑んだ。
「天使がいるんだーって、二人は言っていたわ。
パーヴェルは悪戯っ子だったんだけど、あなたに好かれたくて悪戯を我慢したんだって。
ワレリーは、あなたから希望をもらったんですって。
二人とも、あなたの話をするととっても元気になるの。」
ガリーナは驚いたのか目を見開く。
「パーヴェルくんだけじゃなかったんだ。」
「ええ。二人ともあなたの事が大好きだったのよ。
心が綺麗なあなたにねぇ。」
「そう…だったんだ…」
ガリーナは呟くと、ナターリヤは深く頷いた。
「ワレリーは私に引き取られた当初はあまり元気がなくてね…。
表へ出ずに部屋に篭っている様な子だったのよ。
パーヴェルは色んな事に興味を示したけど、ワレリーだけは新しい環境に馴染めなかったの。」
「え…意外な過去…」
そう言いながら、ガリーナは目を丸くする。
「でも、あなたに会ってからは変わったわ。
村に通う様になって、徐々に元気を取り戻していったの。」
(私に会ってから…?)
ガリーナはふと、ワレリーと始めて出会った時の事を思い出す。
――ガリーナは十歳の誕生日を迎える少し前、一人花畑でしくしくと泣いていた。
(酷いレギーナ…!また意地悪された…!)
涙を流していると、ガリーナはふと近くにいる男の子に気づく。
まだ幼く、ガリーナと同じで花畑の真ん中でしゃがんだまま俯いている男の子。
(迷子かな…?
それともあの子も、悲しい事があったのかな?)
ガリーナは涙を拭いて、その男の子に近づいた。
「どうしたの?」
男の子は赤い刃物を持っており、ガリーナに向けそうになるが止まる。
それからゆっくりガリーナを見ると、男の子は怯えた目を見せていた。
「大丈夫?見かけない子だから、迷子かな?」
ガリーナはそう言って微笑むと、男の子は喋ってくれない。
ガリーナは花を一つ摘むと、男の子に渡した。
「綺麗でしょ!村の自慢のお花畑なんだ。
ねえ、お母さん探そう?お姉さんも一緒に探すから。」
男の子は花を貰うと、ガリーナは続いて手を伸ばす。
男の子に手を伸ばすガリーナを見ると、男の子は言った。
「なぜ…私は…あなたの仲間じゃないのに…」
ガリーナは首を傾げてしまうと、笑顔を向ける。
「例え他人でも、優しくするのは当たり前だよ!この村の決まりなの!素敵でしょ!」
それを聞いた男の子は呟く。
「村の…決まり…?」
「うん!」
男の子は、ガリーナの笑顔に緊張を解されたのか手を繋いでくれた。――
ガリーナはそんな過去を思い出していた。
(あの後、ナターリヤさんがパーヴェルくんと近くを歩いてたからすぐ見つかったんだよね…。
私、何かしたっけ。)
ガリーナは深く考え込むと、ナターリヤは微笑む。
すると外からノックが聞こえるので、ナターリヤは席を立った。
ガリーナはそれに気づかず考え事を続けていると、ナターリヤの声が玄関から聞こえる。
「レギーナ?そんな子はこちらに来ていません。」
更に、男性の声も聞こえた。
「ここらに逃げたのは確かなんだ!中を見せるくらいいいだろ?」
ガリーナは血の気が引く感覚がする。
(村の人だ…!)
「乙女の家に勝手に入るの!?」
ナターリヤは強く出ると、村人達は弱る。
すると村人達は農具を構えた。
「例えばあさんでも容赦しないぞ!
お前はあのパーヴェルの祖母なんだからな!」
「そうかい。」
ナターリヤはそう呟くと、近くに置いてあった杖を手に取って勇ましく構える。
「だったらこっちも本気で行くよッ!」
ガリーナは危機感を覚えた。
(このままじゃナターリヤさんが…!関係のない人まで巻き込んじゃう…!)
ガリーナはリビングを歩き回り、何か方法はないか考える。
すると、ナターリヤが持ってきた服が目に付いた。
(そうだ…!)
そしてナターリヤの方では、なんと村人の方が圧倒されている。
村人は流石に何の罪も背負っていないナターリヤを襲えないのか、どうやら手を抜いている様子だった。
とうとうナターリヤの気迫に負けて言う。
「わかった。でも家の中は見せて欲しい。
お願いだよナターリヤさん、息子さんの無実晴らしたいだろ…?」
ナターリヤは黙ると、頷く。
「ちょっと待ってなさい。」
そうして中に入るので、村人は少しの間だけ待った。
ナターリヤは小走りでガリーナの元に向かうと、ガリーナはナターリヤに言う。
「ナターリヤさん、ハサミないですか?」
「え?…あるけど。」
ナターリヤは近くの戸棚からハサミを取ると、ガリーナは自分の髪にハサミを入れようとした。
それをナターリヤは止める。
「いくらそんな事しなくても…!私がちゃんと言ってあげるから…!」
「でも、今度はナターリヤさんが怪しまれるわ…!嫌なのそれだけは…!
もう誰かを巻き込んじゃダメなの…!」
ガリーナは目に涙を溜めると、ナターリヤは反論をやめた。
すると、ナターリヤはハサミを持った手を持つ。
「私が切ってあげましょう。どのくらいがいいかしら?」
ガリーナはそれを聞いて優しく微笑むと、ゆっくり目を閉じた。
「できるだけ短く…ワレリーさんより短く切ってください…」
ナターリヤは躊躇った様子を見せるが言う。
「わかったわ。」
家の外にいた村人。
村人の一人は言った。
「なぁ?この間にレギーナが逃がされてるとかじゃないよな?隠すとかさぁ?」
「ん、ナターリヤさんには悪いが、無言で入らせてもらうか?」
「おう!」
村人はそう言って無断で家に乗り込むと、リビングを覗く。
するとリビングには金髪の美少年がいた。
あまりの美しさに一同は息を呑むと、ナターリヤは村人に言う。
「待ってくれって言っただろう?」
美少年は部屋の片付けをしていると、村人は気が引けて言った。
「すいません。ちょっと見たらすぐ出るんで…。」
ナターリヤは村人を軽く睨むので、村人は比較的早く家を出るのであった。




