表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/61

キンモクセイ:初恋

夕方、ガリーナはパーヴェルとニコライと共に夕食。

ニコライはご飯を食べる時だけは大人しく、食材の名前を一つ一つ大きな声で言いながら食べていた。

ガリーナはニコライを見て笑う。


「食べ物の名前は沢山覚えるんだから。」


「ガリーナの料理は最高だな~」


パーヴェルはそう言って副菜を平らげて言った。


「おかわり!」


パーヴェルの無邪気な笑顔に、ガリーナはクスッと笑ってしまう。


「も~、昔と違って大食いさんになったわねワレリーさんは。」


それに冷汗を浮かべるパーヴェル。

パーヴェルは視線を逸らしながら思う。


(ワレリー兄様は全く食べないからな…

例えワレリー兄様の代わりだとしても、俺は流石に我慢ならないぜ…)


その時だ、目の前を昆虫が素通り。

窓を開けて食事をしていた為か、虫が入ってきた様だ。

パーヴェルは虫を見ると顔を真っ青にして驚く。


「むっ虫っ!」


それを見たガリーナは更に笑う。

すると、ニコライはパーヴェルの真似をした。


「むしぃーー!」


「そんな叫んでません!」


パーヴェルはニコライに言うが、ニコライは再び言う。


「むしぃーー!」


賑やかな夕食。

ガリーナはふと、今夜自分が命を絶つ事を思い出して表情を暗くする。

パーヴェルはガリーナの暗い表情を見ると、首を傾げた。


「大丈夫ですか?ガリーナ。」


「え、ええ。」


ガリーナは慌てた様子で答えると、パーヴェルは微笑む。


「疲れているのですか?今夜はゆっくり休みなさい。」


「ええ…。」


ガリーナはそう呟くと、再びパーヴェルを見つめる。

パーヴェルはガリーナに見つめられると頬をピンクにした。

すると、ガリーナは再び視線を落とす。


(ワレリーさん…やっぱり変わったな…。

昔はもっと…私の心を見透かしてきたのに…)


 ================


その日の夜、ガリーナは眠ったままのニコライを抱っこして外に出た。


白い月と星が輝く夜。

冷たい風が吹く為、ガリーナはニコライを起こさないように布団に包む。

夜風が悲しさを煽り、ガリーナは気分が落ち込んだまま道を進んだ。


暫く森を歩くと、謎の人影を発見。

ガリーナは思わず警戒すると、人影は近づいてきた。

迷わず一直線に近づく影、その人影はワレリーだった。


「ぱ、パーヴェルくん…!」


ガリーナは目を丸くすると、ワレリーは微笑む。


「ニコライと共に死ぬつもりですか?」


ワレリーの言葉に、ガリーナはドキッとくる。

当たり前である、教会の神だけに明かした事をワレリーが知っているからだ。


「え、なんで知ってるの…!?

私と神様しか知らないはずなのに…!」


「ふふ、そうですね。

それ以外に知れるとしたら、神の声を聞ける牧師様だけでしょうか。」


「まさか…あなたワレリーさんなの?

さっき家で寝てたはずなんだけど…」


ガリーナはそう言って考え込むと、ワレリーは笑った。


「流石に弟と兄の区別はつかないですよね。

そのお陰で、今まで騙せてきたのですが。」


「え…?」


ワレリーはガリーナと目が合うと言う。


「私がワレリーですよ?

あなたと結婚したのは、ニコライのお父さんは、弟のパーヴェルですが。」


「う、嘘よ!変な嘘つかないでワレリーさん!」


ガリーナは信じられないのかそう言うと、ワレリーは先程ニコライに噛まれた腕の痕を見せた。

こんな惨たらしい噛み痕をつけるのは、狂犬かニコライくらいだ。

ガリーナはビクッと驚いてしまい、後すざりする。

ワレリーはガリーナの表情を見ると続けた。


「私とパーヴェルは入れ替わっていたのです。」


「なんで…?」


ガリーナの問いに、ワレリーは一度黙る。

それから一つ呼吸をすると答えた。


「あなたにはお教えしましょう。

…この村は、神に見放された村なのです。」


その言葉にガリーナは呆然とする。

ワレリーは続けた。


「私は、神を探しだす為にこの村を出る必要があった。

しかし、牧師の仕事を疎かにはできません…。だからと言って、このままにするのもいけません。

私は神を探しに、物流関係の仕事をしているパーヴェルと入れ替わる決意をいたしました。」


「神様を見つけだす…?」


「はい。

…しかし神を呼び戻す為には、可哀想な事に人間の犠牲が必要である事に気づいたのです…。」


ワレリーは困った顔をして言うと、ガリーナは反応した。

ガリーナの反応を見たワレリーは微笑む。


「ガリーナは命を捨てるつもりなのでしょう?

私に、神の為に命を捧げてはくれませんか?」


「え…!私が…!?」


ワレリーは何も言わずに頷くと、ガリーナは考え込んだ。


(聖書では、神のいない村は悪に侵されるって聞いたわ…

このままじゃ村は…村の未来が恐ろしい事に…!)


「あの!私で良ければ…!」


ワレリーは微笑んでいたが、次に悲しそうな顔を見せる。


「ありがとうございます、ガリーナ。」


するとガリーナは抱いていたニコライを見つめた。

ガリーナは眠っているニコライを優しく撫でると、ワレリーに聞く。


「あの…ニコライは…」


ワレリーは真面目な顔を見せた。


「ニコライも殺すのですか?」


「だって…ニコライは沢山の村人を傷つけているわ…

もうすぐ三歳なのに私達の言葉を理解してくれないし…言う事も聞いてくれないし…保育園の行事にも参加できない…!

きっと、私と同じで生涯人に迷惑をかけ続けるわ…!」


ワレリーは表情を保ちながら言う。


「…愚か者。」


ワレリーの冷たい言葉が、ガリーナの心に刺さる。

ワレリーはガリーナに距離を縮めると、ニコライの顔を覗き込んだ。


ニコライは寝る時だけは安らかな表情を浮かべる。

ワレリーはニコライの頬に優しく触れると言った。


「彼の人生は、彼の物のはずです。

ましてや、彼はやっと人生の開始時点に立った子供…

そう易々と、あなたは命を奪えるのですか?」


ガリーナは呆然とワレリーを見つめると、目を潤ます。

ワレリーはガリーナの涙を手で拭ってあげると言った。


「泣いてはなりません。

あなたは今、心に暗雲を抱えているのです。

それが晴れた時、あなたはニコライの命をどう思うでしょうか?

…きっと強く、尊く愛らしいものだと気付くはずです。」


「…わ…ワレリーさん…」


ガリーナはそう言うと、急にワレリーに抱きつく。

ワレリーは驚くと、ガリーナは目を潤ませてワレリーの顔を見た。

ガリーナの表情は悲しみではなく、喜びが混ざっていた。


「ワレリーさんだわ…!私の知ってるワレリーさん!」


ワレリーは眉を潜めると、ガリーナはワレリーから離れる。

それからニコライを愛らしく抱きしめると、暫くしてから言った。


「ありがとう。


…今だから言えるけど私ね、ワレリーさんが初恋の人だったの。

ワレリーさんは、いつもいつも私が泣いていたら慰めてくださった。

心に響く言葉を、必ず私に投げかけてくださるの。

そんな言葉をかけられるワレリーさんが憧れで…!魅力的で。

でも、やっと結ばれたワレリーさんはちょっと想像と違って…

だけど今やっとわかったわ。ワレリーさんは、パーヴェルくんとして生きていたんだって。」


「ではパーヴェルの事は?」


「パーヴェルくんにも沢山魅力があるわよ。

怠惰だけど無邪気で、素直で、私の為に本気になってくれる。」


さっきとは裏腹に、幸せそうに語るガリーナ。

それを見たワレリーは優しく微笑む。


「やはり…あなたが引き受けてくれて良かった。」


ワレリーはガリーナに近づくと、布を用意。


「少し目隠ししてもよろしいですか?」


「え、ええ。」


「秘密の場所にご案内します。」


ワレリーはガリーナに優しく目隠しをすると、ガリーナの背中を押してどこかに案内した。






挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ