カエデ:美しい変化
青い空、青い海。
おお、素晴らしき夏の海。
一同は海にやってきた。
「これが潮の匂いね…!」
ガリーナはニコライの手を引きながらそう言った。
ガリーナはパーヴェルの仕事着をブカブカながらに着ており、潮風に吹かれていた。
ニコライも別の服に着替えており、海を見て歓喜。
「おーー!」
するとニコライの隣にレギーナがやってくる。
レギーナは持ってきていた服に着替え、海に入る準備は万全。
三人は一斉に海に向かうと声を上げた。
『わー!』
「つめたーい!」
ガリーナはそう言って海水を浴び、レギーナにかける。
「やったわね!」
レギーナは意地になって海水をかけるので、ガリーナは楽しそうに笑った。
ガリーナの楽しそうな笑顔、レギーナは釣られて楽しそうに笑う。
「馬鹿みたいな顔しやがって!この!」
ニコライはそれを見て、ガリーナに海水をかけ始めた。
「も!ニコライまで~」
ガリーナはそう言い、三人は海を満喫している様子だった。
一方、ワレリーとパーヴェルは…
ワレリーは砂浜の上で、下着一丁で三角座り。
俯いたワレリーの隣に、同じく下着一丁のパーヴェルが座った。
「兄様元気出してくださいよ。俺もパンイチになりましたから。」
パーヴェルは爽やかに言ったが、ワレリーは震えた声で言う。
「そういう問題ではないのです…!」
その言葉を聞くと、パーヴェルはふとワレリーに聞く。
「兄様、どのお洋服の下にもいつも黒い服着ますよね?
どこいったんですか?ガリーナ持ってない様子でしたけど。」
ワレリーは黙って海を指差すと、その先には木の棒が立っていた。
棒の先には、旗の様にはためくワレリーの黒い服。
「道標に使われているのです…」
「あっちゃ~…こんな広い海で迷子になられても困りますものね。」
パーヴェルは無情ながらそう言うと、ワレリーは黙り込んでしまった。
パーヴェルは立ち上がると、三人の様子を見る。
「お!レギーナが泳いでる!って、あれガリーナかな?」
「泳ぎの経験がないのに泳げているのは凄いですね。」
「あ!レギーナも泳いでる!すげえな二人とも。」
「ニコライも真似しないといいのですがね。」
パーヴェルは楽しそうにしていたが、ワレリーは淡々と答えるだけだった。
ちなみにニコライは、ガリーナに手を引かれて浅瀬を泳いでいた。
ニコライの泳ぎは実に不器用で、ただジタバタしているだけ。
体の半分以上が海に沈み、手を離せば溺れるのは間違いない。
パーヴェルはそんな三人を見て、ワレリーに囁く。
「一緒に、行きませんか?」
「女を口説くように囁くのはやめてください。」
ワレリーは即答すると、パーヴェルは大笑い。
パーヴェルは立ち上がると、ワレリーの腕を引っ張った。
「行きましょ兄様!」
するとワレリーは青ざめて言う。
「え、お断りします!私は見てるだけで十分なので…!」
「そんなー!せっかく来たんですから泳ぎの練習くらいしましょ!」
「いいです…!」
あまりにワレリーが怯えた様子だったので、パーヴェルは一度沈黙。
それからワレリーをジーッと見つめると言った。
「まさか、海が怖いんですか?」
ワレリーは図星なのか肩を跳ね上がらせると、パーヴェルはニヤニヤ。
「へー!兄様にも怖いものがあるんだー!ヘッヘー!いい事知っちまったぜ!」
パーヴェルは無理矢理ワレリーを連れると、三人の元へ。
ガリーナは二人に笑顔を向けた。
「あ、やっと来た!楽しいよ二人とも~」
パーヴェルは怖がるワレリーが面白いのか目尻が異様に上がってしまう。
ニヤニヤしたパーヴェルを見ると、レギーナは眉を潜めた。
「どうしたの?面白い玩具でも見つけたみたいな顔して。」
「だってえ、兄様が~」
と言うと、パーヴェルはワレリーに口を塞がれてしまう。
パーヴェルはそんなのお構いなしに、力任せにワレリーを海に放り込んだ。
ワレリーは海に落ちると、水面で溺れる事なく静かに沈んでいった。
それにパーヴェルは愉快そうに笑っていると、ガリーナは焦る。
「ワレリーさん…!」
「まーまー、ワレリー兄様ったら本当に面白いな~」
パーヴェルはそう言ってワレリーが溺れた方へ向かうと、パーヴェルも足を滑らせて海へ真っ逆さま。
しかも、パーヴェルもワレリーと同様静かに沈んでいく。
「パーヴェルくん!?」
ガリーナは涙ながらに言うと、レギーナは言った。
「二人とも泳げないんかい!」
数分後、二人によって救われたワレリーとパーヴェル。
不思議な事に、二人とも目を開いたまま気絶していた。
「死んでないわよね…?」
レギーナはワレリーを突っつく。
微動だにしないが、ガリーナはパーヴェルの息を確かめる。
「大丈夫、二人とも息はしてる…!」
レギーナは溜息をつくと、つまらなそうな顔をして言った。
「て言うか海に遊びに来たのになんで看病しないといけないのよ。」
レギーナは二人を見ると、ワレリーの腕の傷が目に付く。
これはワレリーが儀式の時に付けた傷。
「何これ、酷い傷。」
「あ…」
ガリーナは苦笑。
すると、突然パーヴェルが跳ね起きる。
「うおおおお!!!」
謎の雄叫びを上げながら。
「パーヴェル!大丈夫なの?」
レギーナが聞くと、パーヴェルは体の状態を見てから言った。
「大丈夫!ワレリー兄様は~?」
パーヴェルはそう言って隣で気絶しているワレリーを揺すると、全く動かないので焦る。
「兄様…?兄様!兄様ーッ!」
パーヴェルは涙ながらに叫ぶと、ワレリーは不機嫌な顔をして起き上がった。
「うるさいですよ。静かに眠らせなさい。」
「兄様…!兄様が生き返った~!」
パーヴェルは泣きながらワレリーに抱きつくが、ワレリーの表情はそのまま。
ガリーナは微笑むと言った。
「二人とも無事で良かった。」
ガリーナの髪は海水に濡れ、太陽の光を艶やかに反射していた。
するとパーヴェルはガリーナの笑顔に照れ、ワレリーはさり気なく視線を逸らす。
更にそんなパーヴェルを見て、レギーナは妬けていた。
レギーナは威圧のある声で二人に言う。
「二人とも泳ぐ練習でもしたら?」
しかしワレリーは首を横に振り、頭を抱えると言った。
「私の集落で、たまに泳ぎの練習をさせられます。
しかし私の一族だけは、誰一人と泳ぐ事ができないのです…!」
「え、みんな目を開けて気絶したり、静かに沈んじゃうの…?」
ガリーナはそっちが気になってしまい聞くと、ワレリーは頷く。
レギーナは想像してしまったのか、表情が優れない。
「気持ち悪。」
「そりゃ俺が泳げないのもわかる!」
パーヴェルは笑顔で言うと、レギーナはそんなパーヴェルを見て呆れ顔。
ちなみにニコライは、波が押し寄せる砂浜で楽器を使って遊んでいた。
楽器を押し寄せる海に浮かべ、引き際に戻ってきたら拾う。
それを繰り返していた。
しかし楽器を拾えずに、楽器がそのまま広い海に流されていく。
ニコライは楽器を追いかけて海に走った。
「あーー!」
その声に一同は海に目を向けると、海に入っていくニコライを発見。
それを見て真っ先に反応したのはパーヴェルだった。
「ニコライ!?」
次にワレリーは反射的に、ニコライを助けに走る。
ガリーナは呆然としており、パーヴェルはワレリーを追いかけた。
「兄様危険ですって!」
ニコライは深い海へと足を歩ませると、波に攫われそうになる。
ワレリーは波に攫われる前にニコライをキャッチするが、ワレリーはそのまま海に沈んでいった。
「兄様ーっ!」
パーヴェルも続いて飛び込むが、結果は同じ。
レギーナはやっと足を動かして海へ向かう。
「パーヴェル!…ったく男って世話が焼ける…!」
そう言って海に飛び込むと、パーヴェルとワレリーを助けた。
ワレリーはしっかりニコライを掴んでいた為、ニコライは無事。
ガリーナはニコライを抱いた。
「大丈夫?」
ニコライは口から海水を吐くと、海を見る。
「あーーー!!」
ガリーナはニコライが見る先を見ると、そこには海に浮かぶ楽器が。
ニコライはその楽器を取ろうと暴れだすので、ガリーナはレギーナにニコライを押し付けた。
「ちょっと見といて。」
レギーナは力強く押し付けられたのに違和感を覚えていると、ガリーナは走り出した。
ガリーナの足は早く、そこから海へ飛び込む様も綺麗だ。
一同は呆然と見ていると、ガリーナは真剣な眼差しで楽器を追う。
ニコライは暴れていると、海でガリーナが楽器を掴み、空に向かって掲げるのが見えた。
ガリーナの姿はまるで勇ましい戦士。
一同はその光景に息を飲んでしまった。
ガリーナは帰ってくると、ニコライに楽器を渡した。
ガリーナはまだシリアスな表情を見せていた。
「あー!マーマー!」
ニコライはガリーナに飛びつくと、ガリーナは急に綻んでいつもの笑顔を見せる。
「良かったねニコライ!」
そしてそれを呆然と見つめる一同。
ワレリーは思う。
(ガリーナは度々、凄い力を発揮しますね。普段から出して欲しいくらいです。)
こうして、海の思い出は『ガリーナの勇姿』一色に染まったのであった。




