ツンベルギア:美しい瞳
ワレリーは役場の近くにやってきていた。
ワレリーはフロルの服を身につけており、ハチマキで前髪を上げていた。
ちなみに口元は手拭いで隠されている。
役場の窓を覗くと、そこには村人に囲まれたガリーナがいる。
ガリーナは腕と足を拘束されていた。
「この期に及んでまだ嘘をつくのか!
仕方ない、ここは浄めの儀式をするしか…!」
「ひ、火炙りですか…!」
村人の会話に、ワレリーは眉を潜めた。
(やはりこうなりますか…。)
村人は続けた。
「君達は外で準備をして来るんだ!
牧師様からは何をしてもいいと許可を頂いている!」
それを聞いたワレリーは頭を抱える。
(パーヴェル…!
彼の事ですし、適当に返事をしたのですね。)
ワレリーは自分の服装を見つめると、先程の出来事を思い出した。
――「よく似てますよ!お母様に!」
フロルと服を取り替えたワレリーは、フロルにそう言われて不機嫌そうな顔を見せる。
「あの、本当によろしいのですか?」
「気にしないでください。
俺もお母様やワレリーお兄様みたいな事してみたいと思っていたので。」
「はい…?」
ワレリーは眉を潜めてしまうと、フロルは言った。
「自分を犠牲にしてでも、仲間を救う所。
でも二人とも無理が過ぎますからね…たまには手伝ってもいいかなと。
…無理は禁物ですよ、お兄様。」――
(馬鹿な弟です…)
ワレリーはそう思ってはいたが、自分の拳を見てゆっくりと握る。
(ありがとうございます。)
役場にいた村人が数人外に出てくると、ワレリーは出て行ったのを見計らって役場に侵入。
狭い建物なので、すぐにガリーナのいる部屋にたどり着いた。
ガリーナの周りには若い男性が三人、この場を仕切る中年の男性が一人いる。
ワレリーはそれを確認すると、その部屋に入った。
「動くなッ!」
ワレリーはそう言い放つと、持っていた銃を村人に向ける。
村人は驚くと、ワレリーは続けた。
「手を上げて、そのまま頭の後ろに持って行きなさい。」
村人はバラバラと言う通りにすると、ガリーナはワレリーを見て驚く。
(フロルくん…!?にしては、髪が長すぎる様な…声も若干高いし…。)
「彼女から離れなさい。」
ワレリーの指令に村人は大人しく言う事を聞くと、ワレリーは銃を構えながらガリーナの元へ来た。
「立ちなさい、早く。」
「え…うん…」
ガリーナは戸惑いつつ立ち上がると、ワレリーはダガーを取り出してガリーナを拘束する紐を解いた。
ガリーナはそのダガーを見ると悟る。
(まさかワレリーさん…!?)
一人の村人はワレリーがダガーを扱っている隙に襲いかかってきた。
更に他の若い村人も襲って来るので、ワレリーは最初に襲ってきた若い村人を取り押さえてダガーを向ける。
「止まりなさい。殺しますよ。」
すると他の村人は足を止めるので、ワレリーはその村人を連れながらガリーナと外に出た。
外に出ると、ワレリーはすぐ近くの馬小屋を通る。
馬小屋を通り過ぎようとした時、ワレリーは村人を思い切り馬小屋へと倒し入れた。
「うわぁっ!」
村人は声を上げると、ワレリーはガリーナの手を掴んで一目散に逃げていく。
ワレリーに手を引かれて逃げるガリーナ。
逃げている途中、ガリーナは言った。
「ワレリーさん…?」
それを聞いたワレリーはガリーナに振り向くと、手拭いを取って微笑んでくれる。
「おや、やはりあなたはガリーナでしたか。
その美しい瞳、この村であなたとニコライしか持っていませんからね。」
ガリーナは恐怖から解放された為か、目に涙を溜めた。
「ありがと…!ワレリーさん…!」
ワレリーはガリーナの涙を見ると焦った。
「おやめなさい、あなたが泣くと何が起きるか…!
逃げ切るまで泣かない事。」
「…はい…」
ガリーナはしょんぼりすると、そのままワレリーと共に村を走っていた。
============================
二人がやってきたのは、教会の裏。
「ここならば…誰も入っては来ないでしょう…。」
ワレリーは走り疲れたのかぜぇぜぇとしていると、ガリーナは膝をついて泣く。
「何…?何が起きたの…?私…レギーナを追いかけてただけなのに…!」
ワレリーは涙を流すガリーナに切ない表情を見せると、涙の不祝儀で館のトラップが発動。
ワレリーは驚きながらもトラップの矢を避けると、ガリーナに言った。
「レギーナがあなたのフリをしています。
きっと…私とパーヴェルの様に入れ替えを行ったのでしょう。」
ガリーナは嗚咽を我慢していると、ワレリーは続ける。
「レギーナに言ってみますか?元に戻るよう。」
「あの子…聞いてくれるかしら…」
ガリーナは呟くと、ワレリーは言った。
「聞きはしないでしょう。強引な手を使わない限り。」
「元に戻ったら、レギーナはどうなるの…?」
ワレリーはそれを聞いて黙り込むと、暫く考える。
「私が責任を持って、彼女の面倒を見ましょう。」
「どうやって?レギーナが村人に見つかったら…」
「髪を切ったり、服装を変えれば多少の目は誤魔化せます。」
ワレリーが言うので、ガリーナは安心したのか安堵の溜息。
それから無理に微笑むと言った。
「じゃ…レギーナを説得しに行こう?」
「ええ。」
ワレリーは頷くと、ふと服装を気にかける。
「私は先にフロルと服を替えにおばあ様の家に行ってきます。」
「あ!フロルくんは大丈夫なの…?村にもう来れなくなっちゃわない…?」
「元から海外に引っ越す予定です。
彼は今日、親の元に向かう為に村を出るのですから。」
ガリーナは目を丸くした。
それから少し淋しいのか、俯く。
「そっか。寂しくなるね。」
「一日しか過ごしていないでしょう。」
ワレリーが即答すると、ガリーナは苦笑。
こうして、ワレリーはフロルの元へ向かうのであった。
ガリーナはワレリーを見送ると、少し館の中を散策。
(以前は教会裏の窓しか見なかったし、もうちょっと見てみようかな。
前回はワレリーさんの意外な一面見れたし、今回も収穫あったらいいなー。)
ガリーナはそう思って部屋を開けていると、
最初にこの館に来た時、服を破られた部屋を発見。
あの日の事を思い出し、ガリーナは顔を引き攣った。
「げ、あの日の…。」
ガリーナは部屋に入ると、ワレリーが儀式に使ったとされる魔方陣を発見した。
魔方陣は黒い線で描かれており、幾つか蝋燭が立っている。
「相変わらず悪魔の儀式みたいよね…
本当に儀式をする気なのかな、ワレリーさん。
私を狙ってる割に全くそういう素振りは見せないし。」
そう呟きながら、近くの机に本を発見。
随分と派手な本で分厚いが、比較的新しい本。
ガリーナはページを一つ捲ると驚いた。
「これは悪魔召喚の儀式…!?
なになに、
…んー、読んでる感じ、この陣で間違いないわね…。
あれ?
『必要な物、蝋燭、陣を描く為の血』…」
ここまで呟くと、ガリーナは顔を真っ青にする。
慌てて陣の黒い線を見つめると、指で触れてみた。
指に着いた硬い粉らしきものは、もう真っ黒であったが血に見えなくもない。
陣は大きく描かれている為、大量の血を使った事は間違いない。
「まさかワレリーさんの…!?」
ガリーナは顔を真っ青にすると、尻餅をついた。
(やっぱり…本気なのかな…
でもなんでそこまでして…)
すると、ガリーナはふと昨日のパーヴェルの言葉を思い出した。
――「ワレリー兄様が悩んでたら、助けてやって欲しいんです。
兄様、人に世話されたくない人なので、昔から無理しやすくって。」
「ガリーナじゃないといけないんです。
弟に弱音なんて吐けないですからね、兄様。」――
(そうだよ。きっとこの隠れ家を知っているのも、私くらい。
ワレリーさんと向き合えるのは、私しかいないのかもしれない。)
ガリーナはそう思うとゆっくりと目を閉じた。
(きっと…ワレリーさんは何か抱えているはず。)




