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トリトマ:あなたを思うと胸が痛む

ワレリーとニコライは食事を終えると、ワレリーは皿洗いをしていた。

ワレリーは具合が悪いのか、顔が青い。


(殆どニコライに食べてもらいましたが…もう食べられない…)


吐きそうなのを抑えつつ、皿洗いを終える。

ニコライは夜中でも元気で、ソファーの上でゴロゴロと遊んでいた。

ワレリーは元気なニコライを見ていた。


「こらこらニコライ、もう寝る時間ですよ。」


「うるさい!ニコライ!」


ニコライの言葉に、ワレリーは呆れつつもニコライを抱っこする。

ニコライは優しく抱っこされると、急に大人しくなって呟いた。


「マーマ。マーマ。」


ワレリーはそれにクスッと笑ってしまう。


「私はパパですよ、パーパ。」


「マーマ!」


耳に響く大声に、ワレリーは眉を潜める。

頑なにそう呼び続けるニコライに笑うと、ワレリーは廊下に出た。

ガリーナは急いで部屋に入った為、ワレリーには見つからなかった。

そしてワレリーはニコライの部屋に入ると、ワレリーはベッドの前にやってくる。


暗い部屋、村の街灯だけが光源だった。

ベッドの上には毛布だけでなく、ベッドに縛り付ける為の縄があった。

ワレリーは縄を手に取るとニコライを見つめる。


そしてニコライの右目の眼帯、それを取ると悪魔の瞳が顔を出した。

吸い込まれるほど綺麗な黄の瞳。

ワレリーはその目を見ると感嘆。


「ああ…これがあなたの悪魔の瞳…。

これのせいで、あなたは弟に愛されないのですね…。」


ワレリーはそう言ってニコライの頬に触れるが、ニコライは意味が分かってないのかキョロキョロ。


「マーマ。」


ニコライの言葉に、ワレリーは切ない表情を浮かべた。


「ガリーナに懐いているのですね。

…あなたからガリーナを奪ったら、誰があなたの希望となるのでしょうか…。」


それからワレリーはニコライをそのまま寝かせると、ニコライはすぐに布団から出た。

そして部屋で走り回るので、ワレリーは困る。


「大人しく寝なさい、ニコライ。」


「ヤダ!」


ニコライは走り回りたいのか、たまに壁に体をぶつけ、家具にもぶつかる。

しかし痛みなど感じていない顔で、そのまま走り続ける。

ワレリーは見ていられないのか、ニコライを捕まえた。


「ヤダー!」


ニコライは叫ぶと、ワレリーはニコライを無理矢理ベッドに寝かせる。

ワレリーはニコライと一緒にベッドに寝転ぶと、ニコライが暴れないように強く抱き寄せる様にして寝た。


「あーーっ!」


ニコライは嫌がってワレリーの胸を殴りながら叫ぶと、ワレリーは真面目な顔を見せて言う。


「あなた、いつもベッドに縛りつけられて寝ているのでしょう?

そうされたいのですか?大人しくなさい。」


それでもニコライは暴れるので、ワレリーは眉を潜めると縄を手に取った。

ワレリーはその縄を見つめる。

すると、ワレリーの脳裏に想像が過る。


毎夜、ニコライがこのベッドに縛り付けられ、叫ぶ姿を。


ワレリーは俯くと、縄を握り締めた。

暫くしてワレリーは、自分の腕で押さえつけているニコライを見る。


「…今も、縛り付けられているのと変わりませんよね。」


そう言ってワレリーは縄を使ってニコライをベッドに縛り付けると、ニコライが叫ぶ姿を見つめていた。

確かに嫌がって叫んでいるのに、嫌な顔も涙も見せないニコライ。

ワレリーはそんなニコライを見て表情を暗くする。


「これが、弟の不始末の結果…ですか…。

…哀れな…」


ワレリーはそう呟くと、部屋を出て行った。


(あの儀式を行えば、ガリーナは死ぬ運命…。

そうなればニコライが…。)


ワレリーはそう思いながらも首を横に振る。


(ニコライがなんですか。

私はガリーナを手にかけなければならないのです…!

悪魔の村に紛れ込んでしまった…一羽の天使を…!)


ワレリーは惜しそうに拳を強く握りしめた。


そして二人の寝室に入ると、ガリーナは大人しくベッドで寝ている。

部屋は真っ暗で、外にある街灯だけが部屋を薄暗く照らしていた。

ワレリーは寝巻きに着替えると、二人のベッドに入った。

ガリーナはワレリーが隣に寝ると話しかける。


「雨、通り過ぎましたね。」


ワレリーはそれを聞いてふと窓を覗くと、空は雲だけになり雷雨は止んでいた。

夜は非常に静かで、僅かにニコライの叫び声が聞こえるだけ。


「そうですね。」


「今日はお疲れ様です。」


「ありがとうございます、ガリーナ。」


二人は簡単な会話を交わすと、ガリーナは背を向けて寝ているワレリーを見つめる。

ガリーナは虚しい表情を浮かべ、ワレリーの背中に寄り添った。

ワレリーは急に背中が温かくなったので呟く。


「ガリーナ…?」


「私…今日も泣いてしまって…そしたら大きな地震が来て…

さっきも、広場で私が泣いたら…今度は雨や雷が降ってきて…

本当に…いつもごめんなさい…」


ワレリーはガリーナに振り向くと、ガリーナは涙を堪えて話していた。

ガリーナは堪えるので精一杯なのか、これ以上声が出ない。

ワレリーはガリーナに手を伸ばしたが、それをやめて言う。


「気にしないのが一番です、悲しみで自分を押し潰してはなりません。」


「でも…私の…せいで…」


ガリーナは悲しみを堪えてそう言うと、ワレリーはガリーナを見つめて黙り込んだ。


そして過去、ガリーナが泣いた時にいつも慰めの言葉をかけた事を思い出す。


(あなたに罪はないと言うのに…

私が何を言ってもあなたは、悲しんでしまうのでしょうね。)


ワレリーはそう思うと、聞こえるか聞こえないほどの声で呟いた。


「…どうすれば、あなたを悲しみから解き放てるでしょうか…」


その言葉にガリーナはワレリーを見つめるが、影になっていて顔を確認できない。

ワレリーはガリーナの頬に触れると優しく言った。


「今日はお休みなさい。」


「…はい…」


ガリーナはそう呟くと、目を閉じる。

ワレリーは窓の方に顔を向けると、夜空の星は雲に隠れた。

煌く星は雲に隠れ、存在こそが霞んでいく。


(花が…雲で霞んでいく…)


ワレリーは眠るまで、雲に覆われた夜空を眺めていた。


 ===========================


――ガリーナは夢を見ていた。

それは自分が十四歳の頃。


ガリーナは村の広場にて、妹のレギーナと遊びに来ていた。

ガリーナは広場の黄色い花を一つ摘んでレギーナに見せる。

ひだまりの様に温かい色をした黄色、小さく可愛らしい花。


「ほら、レギーナが好きな黄色をした花。

レギーナも摘みましょ?」


しかし、レギーナは無表情で黙ったまま。


「レギーナ…?」


ガリーナが呼ぶと、レギーナはガリーナが摘んだ花を握り潰してしまった。

くしゃくしゃになった花は、雄しべと雌しべがむき出しになる。

そしてレギーナはガリーナから逃げ、ガリーナはショックを受けて目に涙を溜める。


(なんで…レギーナは私を嫌うの…?)


「ガリーナ?」


後ろから、子供の声が聞こえた。

ガリーナは振り返ると、そこにはワレリーとパーヴェルがいる。

ガリーナを呼んだのはワレリーで、ワレリーはガリーナと同じような表情を浮かべていた。


「また…レギーナから意地悪をされたのですか?」


「うん…。」


ワレリーはレギーナに視線を向けるが、レギーナは誰もいない所で一人ポツンと立っているだけ。

パーヴェルは言った。


「気にすんなって。子供ってそういうもんでしょ!」


「こらパーヴェル、子供って…私達はレギーナより年下でしょう。」


「え?そうなのお?チビだから年下かと思ってたわー。」


パーヴェルの言葉に、ワレリーは溜息をつく。

ガリーナは話を逸らすように言った。


「ワレリーくん、来年牧師様になるんでしょ?

凄いわねぇ、村では百年ぶりなんですって。」


それを聞いたパーヴェルは誇らしげに言う。


「ワレリー兄様は凄いぞ!神様の声が聞こえちゃうんだもん!

弟である俺にもいつか聞こえるかなあ!」


ワレリーは上品に笑うと言った。


「パーヴェルにも聞こえるといいですね。」


それを聞いてガリーナも笑ってしまうと、おふざけ半分で言う。


「あー。ワレリーくんから神様に聞いてくれないかなー。

どうすればレギーナは私と仲良くなってくれるのか。」


ワレリーはそれを聞くと反応、それからレギーナを見つめた。

レギーナの虚しくもなく悲しくもない表情、次にガリーナの悲しげな表情。

それらを見ると、ワレリーは言う。


「レギーナは、何か問題を抱えているのではないですか?

心を開きたくない…そう感じます。」


「問題…」


ガリーナが呟くと、ワレリーは微笑んでガリーナに言った。


「ガリーナ、あなたはもう少し強くなりなさい。

きっとレギーナも、頼りになる人間を求めているでしょうから。」


ワレリーの言葉を聞くと、ガリーナの目に光が宿る。


「頼り…!

わかったわ!ありがと、ワレリーくん!」――



ガリーナは目覚めると、もう朝だった。

隣にはもうワレリーは居ず、出かけている。

ガリーナはワレリーがいない事を確認すると、ふと思う。


(レギーナの問題って…そう言えばなんなんだろう…。)






挿絵(By みてみん)

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