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ヤマザクラ:あなたに微笑む

一年ほど前にアルファポリス様に投稿させていただいた小説を、読み返しながら投稿しています。

少し昔の話。

どこかの国にある、名も無き小さな小さな村の話。



その村は百数十人ほどしか住んでいない為、建物が殆ど見受けられない。

幾十種類の花が咲く花畑が広がっており、村は花畑に囲まれていた。

そしてこの村で一番目立つ建物は、高い高い屋根のある教会のみだった。



村の寂れた一軒家がチラホラある中、綺麗で比較的新しい建物が一軒ある。

その家に住むのは教会の牧師と、その家族たちだ。



その家の一室で目覚める女性。

艶のある金髪を持ち、世にも美しい瞳を持った女性だった。

瞳は空を映し出すガラスの様に、青く綺麗だ。


彼女はベッドの上に寝転がっていて、隣には結婚して四年目になる夫が寝ていた。


(朝ご飯作らなきゃ…)


彼女は起き上がると、突然隣に寝ていた夫に腕を掴まれる。

彼女はふと夫の顔を見つめた。

夫は穏やかな表情を浮かべ、目をゆっくり開く。

大空の濃い青色をした瞳が顔を出すと、彼女に優しく微笑んだ。


「おはようございます、【ガリーナ】。」


表情に劣らず、宥めるような低い声。

夫の言葉に、ガリーナは頬を少し赤くすると言う。


「もう…【ワレリー】さんったら…。お、起きているのなら早く教会に行ったらどうですか?」


するとワレリーはすぐに穏やかな表情を変え、つまらなそうにする。


「毎日同じ事の繰り返しで飽きてしまいましたよ。もう少しゆっくり…せっかくガリーナと共にいるのですから。」


ガリーナの手を握り、ワレリーは再び微笑むとガリーナは困った。


「でも私、朝ご飯作らないと…」


「ご飯なんて後でもいいです、今は一緒に…」


ワレリーはガリーナの手を握ったまま、もう片方の手でガリーナの背中を支えて抱き寄せる。

急接近する体、相手の吐息が聞こえる。

ガリーナは強くなる鼓動を抑え、視線を泳がせて言った。


「でも…【ニコライ】がお腹空かせちゃうわ…」


それを聞いた途端、ワレリーの表情が冷める。

ワレリーの表情を見たガリーナの強い鼓動は収まった。


「あんな【悪魔】に気を使わなくていいんですよ?」


氷の様に冷たくなるワレリーの声。


ガリーナはワレリーから離れ、悲しい表情を見せた。

それから目に涙を溜めると、ガリーナは言う。


「でも…!ニコライは私達の大事な子供で…!」


ガリーナが泣いてしまうと、ワレリーは焦った。


「ガ、ガリーナ?なんで泣くんですか?

あなたが泣いてしまったら、この村に不祝儀が…!」


その言葉で更に大粒の涙を流してしまうと、ワレリーは息を飲んだ。


すると遠くからカキーンと、まるで野球の球をバットで殴る音が聞こえる。

音が止むと、部屋の窓へ野球ボールが向かってきていた。

ワレリーは窓に背を向けていたので気付かなかったものの、ガリーナは見ていた。


「あ。」


ガリーナは涙を止めると、ワレリーはその顔に違和感を覚える。

そのままボールは開いた窓から侵入し、猛スピードでワレリーの後頭部に直撃した。

ワレリーは目が飛び出そうなのを、ぐっと堪えてそのままノックアウト。

ガリーナは再び目に涙を溜めた。


「うぅっ…また私が泣いたせいでワレリーさんが不幸に…!」


そう、ガリーナは泣いてしまうと、なぜか不幸を呼んでしまう。

不幸の犠牲者の多くが身内である。

ガリーナの夫であるワレリーも、いつも不幸に巻き込まれる。



数分後。



家にはワレリーそっくりの青年がやってきていた。

その青年は常時目を閉じていて、穏やかな笑みを浮かべている。

青年は布団に寝かされたワレリーを診ると、ガリーナに微笑む。


「大丈夫ですよ、軽く頭を打っただけです。

すぐに良くなります。」


青年の耳のピアスが陽の光で煌く。

彼の言葉に、ガリーナは目を輝かせた。


「本当…!?ありがとう、【パーヴェル】くん!」


このパーヴェルと呼ばれた青年は、ワレリーの弟。


「どういたしまして。

ガリーナ、ワレリー兄様が起きる前に朝食を作った方がいいですよ。」


「そうね…!きっとニコライもお腹を空かせているわ!」


ガリーナは張り切った様子で部屋を立ち去ると、パーヴェルはスイッチが抜けたように溜息をついた。

パーヴェルはワレリーを見つめると、口をへの字に曲げる。


(普通の人ならば死んでるはずの重症ですが…丈夫な彼なら大丈夫でしょう…

ガリーナに真実を言って泣き喚かれたら、今度はこっちにとばっちりが来ます。)


パーヴェルはどうやら嘘をついた様子。

にしても、パーヴェルは兄弟の一大事に何一つ焦る様子も見せていない。

暫くすると、ワレリーの指は動く。

パーヴェルはその変化に気づくと、ワレリーは目を覚ました。


「あ…ワレリー兄様…?」


ワレリーはなんと、自分の名前を呼ぶ。

するとパーヴェルは微笑んだ。


「おはようございます、パーヴェル。」


ワレリーは飛び起きると、パーヴェルに聞いた。


「そう言やガリーナは!?」


「朝食を作っていますよ。

そういうパーヴェルは大丈夫なのですか?」


「え?まだ痛むけど…そこまで!」


それを聞いたパーヴェルは溜息をついた。


「私とパーヴェル、入れ替わって正解でしたね。

私なら彼女が呼び起こす不祝儀で一週間以内に死んでます。あなたはよく四年も続きますね。」


なんと、ワレリーとパーヴェルは入れ替わっていた様だ。

つまり今までワレリーと言っていたのがパーヴェルで、パーヴェルと言っていたのがワレリーなのだ。

パーヴェルは目を輝かせると言う。


「きっと俺は神様に守られてるんだよワレリー兄様!」


「パーヴェルが頑丈過ぎるだけですよ。」


即答するワレリーに、つい苦笑してしまうパーヴェル。


「本物の牧師様であるワレリー兄様が言うんなら、事実なんだろうなあ。」


そこに、ガリーナがやってくるのでパーヴェルとワレリーは素を隠す。


「ワレリーさん起きたのね!良かった…!」


「お陰様で…」


パーヴェルは苦笑したまま言うと、ガリーナは続けた。


「朝ご飯できましたよ、早くしないと仕事に間に合わないわ!

ほーら、パーヴェルくんもお仕事間に合わないわよ!」


「もうちょっと寝かせてください…」


パーヴェルは即座に布団に潜ると、ガリーナは言った。


「神様の声を聞く牧師様がお仕事サボっちゃダメでしょう!

もう…ワレリーさんったら意外と怠惰なのね…昔はもっと真面目な人に見えたんだけど。」


その小言を聞いて、ワレリーはゆっくりとパーヴェルに手を伸ばして言う。


「今すぐ行きますよね?ワレリー兄様?」


ワレリーは声色を暗くして言う。

その声からパーヴェルは殺気を感じ取ったのか、すぐに起き上がった。


「そうですね。そう言えば今日は大事な用がありました。」


パーヴェルは適当に嘘をついて起きる事に。

それを見たワレリーは殺気を消し去り、笑顔で頷くのであった。






挿絵(By みてみん)

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