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季節の和歌  作者: 夢のもつれ
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開花宣言の頃

 東京にも開花宣言が出たようです。いよいよ桜の季節です。百人一首とかで和歌を読んだりすると桜のことばっかりでてくるようなイメージがありますね。


 って言ってもわたしは百人一首って全然覚えてないんです。高校の時に夏休みの宿題で、覚えてこいって言われたけど、つまんないし、暗記ってできないのでさぼっちゃいました。ひょっとすると物知りみたいに思われているかもしれませんが、それは興味があるから自然と頭に入ったんで、そうじゃないものは全然ダメですね。人の名前とか全く覚えられないです。


 まあ、そんなことはどうでもいいんで、桜を詠んだ数ある名歌のうちからえりすぐりって言うか、わたしの趣味に合ったもの十二首を2回に分けて紹介しましょう。まずはお気に入りの式子内親王による開花したばかりの桜の歌です。


  いま桜咲きぬと見えて薄ぐもり

  春に霞める世のけしきかな

    式子内親王・新古今和歌集


 解説書なんかには「春に霞める」という表現が斬新であるみたいなことを書いてますけど、まあ桜に彩られた景色の隠喩と思えばいいでしょう。それよりは桜、曇り空、春、世とズームアウトしていくようなところの方が技法としてはおもしろいですね。でも、この歌ってなんとなく詠嘆調と言うか、長調のイメージのはずが短調が混じったようなところが彼女らしくていい感じです。それはたぶん「薄ぐもり」と「世のけしきかな」が響き合ってそういう感じを作り出しているんでしょう。


  臥して思ひ起きてながむる春雨に

  花の下紐いかに解くらん

    よみ人しらず・新古今和歌集


 これは今日咲くか、明日咲くかと気にしてるのに雨のやつめ、どうやって開花させるつもりなんだっていう、まるでかわいがっていた少女を寝取られたみたいに詠んだえっちな歌です。下紐を解くなんて現代語訳すれば下着を脱がせるってところです。こういうのが国家的事業たる勅撰和歌集に入ってるところがいいですね。


  霞立つ春の山辺は遠けれど

  吹きくる風は花の香ぞする

    在原元方・古今和歌集


 遠くに霞んでいる山から風が吹いてきて桜の香りがするっていうだけのものですが、遠近感を香りで表現したところがいかにも春らしいですね。古今集って技巧的な歌が多いんですが、新古今集ほど手の込んだことをしていないところが雅やかに感じられたりするわけです。


  宿りして春の山辺に寝たる夜は

  夢のうちにも花ぞ散りける

    紀貫之・古今和歌集


 これも素直な技巧って感じですね。紀貫之の歌は底の浅いというか、詩的じゃない技巧が目立つものが多いんですが、これなんかは言葉の続き具合も滑らかでウソくさくなく、夢の中で散る桜の美しさが目に浮かぶようです。なんか旅の一夜のラブロマンスでも想像したくなるような感じもあるんですが、詞書によると寺に参詣したときに詠んだものだそうです。それならそれで、お稚児さんを想像するのもありかなぁ。


  尋ね来て花に暮らせる木の間より

  待つともしもなき山の端の月

    藤原雅経・新古今和歌集


 一日中あちこち桜を眺め、日が暮れると思いがけず月光が桜の木の間から現われたというものです。「待つともしもなき」は待っていたわけでもないのだけれどといった意味です。ていねいな描写を重ねて時間的変化とあでやかな風景を見せてくれています。夜桜っていうのも昔から風情のあるものだと思われていたんでしょう。


  春ごとに花の盛りはありなめど

  あひ見んことは命なりけり

    よみ人しらず・古今和歌集


 毎年の桜を見ることができるのは寿命があってこそだって現代語訳しちゃうとこの歌の良さはまったくなくなっちゃいます。下の句の切迫した調子には、例えば西行の、


  願はくは花の下にて春死なむ

  そのきさらぎの望月の頃

    西行・続古今和歌集


 って歌と一脈通じるものがあるような気がします。


 この歌の情趣をこれ以上解説しちゃうとつまんなくなるばかりなので、今年の桜が満開になったときに想い起こしていただくのがいちばんいいと思います。



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