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砂浜の少年  作者: 春待
7/7

答え

 それから一週間ほど、私は家から出ることなく過ごした。その間に学校は春休みになり、私は出席日数が足りず留年することになった。その事に対しては特に何も感じなかった。

 そして今日、私はまたあの砂浜に来ている。自分と向き合うために。

 乾いた砂浜に腰を下ろして海を眺めていると、予想通りにまた声をかけられた。

 「こんにちは。また来てくれたんだ。」

 「こんにちは。」

 朝陽はにっこりと笑って私の隣に腰を下ろした。

 「今日は前よりもいい顔してるね。」

 「そうですか?」

 いい顔とは何だろう。前回も今回も、化粧なんてしていないのに。

 「うん、前回は人生に絶望してる顔してた。」

 「はあ。」

 よくわからなかった私は曖昧に返事をした。人生に絶望した顔って何だ。

 「何かいいことがあったの?」

 「いいえ、特に。」

 「強いて言えば?」

 「…。」

 軽く睨みつけると、朝陽は「違うのか。」と追及をやめた。本当に良いことなんてなかった。訊かれても困る。

 「じゃあ、意識の変化?」

 「…それはあるかもしれませんね。」

 朝陽の顔が輝いた。前回から思っていたが、このひとは他人のことに感情移入しすぎではなかろうか。他人のことを考えられない私からすれば気味が悪いくらいだ。

 「本当?」

 「まあ、一週間の間暇でしたし、色々、考えることもありまして。」

 「ふぅん。」

 この一週間、幼い頃の私と今の私を比較してみたのだ。積極的に生きていたときはあっただろうかと。結果、幼稚園児の頃までさかのぼれば、死にたいだなんて思わずに生活をしていた。そこで私は気がついた。せっかく産んだ命が小学生の時から死を望んでいるなんて、それこそ両親が可哀想だと。これまで死にたいと思っていた期間は取り消すことはできないが、これからは積極的に生きなければと思った。

 それを話すと、朝陽は複雑そうな顔をした。

 「…あの、玲華。両親以外に、生きる理由とか無いの?将来の夢とかさ。」

 「将来の夢は…無いですね。今は両親以外に関わりのある人なんていませんし、両親以外に生きる意味は見いだせないです。」

 それを聞いて、朝陽は何やら色々なものを飲み込んだ顔をした。

 「…まあ、いいか。前よりは良くなったよ。」

 「ちゃんと最後まで生きますよ。両親とも話してみます。」

 「うん、まあ、それなら良かった。」

 そう言うと朝陽は立ち上がった。その身体は透けている。

 「もう時間がないんだ。話してくれてありがとうね。」

 そう言って笑うと、朝陽は透明になってしまった。もう見えない。

 「私こそ、話を聞いてくれてありがとうございました。」

 私はそう返すと立ち上がり、バス停へと向かった。朝陽が消えたことに対して不思議と驚きはなかった。最初からそんな気はしていたのだ。

 家に帰り、両親の帰りを待って私は久しぶりに両親に話しかけた。両親は驚いた顔をしたが私の話を聞いてくれた。

 一生懸命育ててくれたのにこんな体たらくで申し訳ないということ。長い間「死にたい。」という望みを持っていたことに対しても申し訳ないということ。それでも今は生きていたいということ。

 話しているうちに涙が出てきてしまった。両親は私の話を最後まで聞いて、抱きしめてくれた。抱きしめられるのは何年ぶりだろう。

 「大丈夫。どんな玲華でも私たちは愛してるよ。」

 涙の速度が上がった。ああ、私は両親からのこの言葉が欲しかったんだ。

 それからも私の生活は変わらない。相変わらず学校には行く気になれないし、そのせいで両親を困らせていることは知っている。

 それでも、私は普通なんてものが存在しないということを知っている。朝陽が消えてから考えたのだ。何もかもが普通、完璧な人なんて存在しないのではないかと。普通というのは、様々な人の平均値なのではないかと。

 私は普通にはなれない。でも、これが私だ。

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