出会い
「こ、こんにちは。」
「うん、こんにちは。大丈夫?」
「な、何のことでしょう。」
家族以外の人と話すのは配達員以外では久しぶりだ。それに彼の言っている意味が分からない。気味が悪い。平日の昼間にここに居る高校生が珍しいのだろうか。確かにほとんどの高校生は学校に居る時間だ。それで声をかけられたのだろうか。私がこんなところに来たせいだ。死にたい。
しかしその予想は外れた。
「見ていて辛くなるような顔だったから。声かけちゃった。」
そんなに私の顔色は悪いだろうか。それより、いつの間に顔を見られていたのだろう。彼は私の後ろから来たはずなのに。ますます気味が悪い。新手のナンパか。
「そんなに警戒しないで。話し聞くよ?」
警戒するのは当然だろう。ここから逃げ出したいくらいだ。砂浜は走りにくいので逃げる自信がないだけ。
「俺は月居朝陽。よろしく。」
手が差し出される。ここで握手をしないのは失礼だろうか。ゆっくり手を伸ばし、相手の手を握る。
「名前は?」
「美川玲華です。」
思わず本名を名乗ってしまった。いや、偽名を考える余裕がなかっただけかもしれない。
「玲華!いい名前だね。」
呼び捨てにされた。こんなに馴れ馴れしい人ははじめてだ。やはり逃げたほうが良いだろうか。
「玲華、自殺とか考えたことあるでしょ?そんな顔してる。」
どんな顔だ。そんなに私の顔は陰気臭いだろうか。私は彼の手を離すとスカートの裾を握った。
「自殺は駄目だよ。自爆霊になるか地獄に行くかだから。」
宗教のお話か。これから「そんなあなたには神様の教えを…。」と続くのだろう。こんなところで活動している人もいるんだな。
「あの、私そういう話には疎いので、これで失礼…。」
「待って。そんな顔してる玲華を放っておけないよ。」
立ち去ろうとして腕をつかまれる。恐怖のあまり固まってしまった私に、月居朝陽は座ることを促した。逃げることを諦め、私はその場に腰を下ろす。月居朝陽は私の横に腰を下ろし、優しい声で問いかけた。
「何か辛いことがあったの?」
「何もないよ。」
「本当に?」
月居朝陽は真剣な顔で私の顔を注視した。その視線に、思わず俯いてしまう。青いワンピースの花柄が目に入った。
「俺は玲華の話を誰かに言いふらしたりしないよ。笑ったりしない。」
だから話して?と食い下がる月居朝陽の様子に、話をしてもいいかという気持ちが湧いてきた。話題など持っていないけれど。どうしてそんなことを思ったのかはよくわからない。早くこの追及から逃れたいという思いがあったのかもしれない。初めて来た海の波が私の心を宥めたのかもしれない。とにかく、私はこの少年と話をすることにした。