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砂浜の少年  作者: 春待
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出発

 ある朝、私は久々に家の外に出ることを決意した。一時的にでもこの家から離れようと思った。このままじっとしていても良いことはないだろう。行くあてはないけれど、どこか旅に出ようと思った。そう思えるだけ回復していたのだ。

 外行きのワンピースに着替え、顔を洗って髪を梳いて、お小遣いを全部財布に詰め込んで。久しぶりに靴を履き、久しぶりに玄関の鍵を手に取って、久しぶりに玄関の扉を開けた。太陽の光がまぶしい。目を細めて最寄り駅に向かう。どこか遠くに行こうと思った。この家ではないどこかへ。

四月の風が心地よい。久しぶりに外に出たからか、何もかもが新鮮だ。光も、風も、アスファルトの上を歩く感覚も。

 知り合いには会わなかった。もしもその影一つでも見ようものなら回れ右をして家に帰るところだったが、結局私は立ち止まることなく駅に着いてしまった。ICカードに一万円をチャージして、改札を抜けた。ホームに停まっていた電車に飛び乗る。電車はすぐに出発した。通勤ラッシュはすでに終わっていて、人はまばらだった。椅子に腰かけると、私はまた考え事をした。もう何度も考えた、どうして私は学校にいけないのかということ、どこに原因があったのかということを。

 私は恵まれた環境で育ったと思う。両親は優しく、私を愛してくれている。食事も満足に与えられたし、教育だって受けた。お金には困っていないと思うし、家はいつでも清潔だった。それが私にとっての普通だった。恵まれている。私にはもったいないほど恵まれている。母は、私が学校に行かなくなってから家について何か改善点はあるか訊いてくるようになったが、文句なんて一つも浮かばない。

 ならば学校か。いや、違う。いじめなんてなかったし、先生は優しかった。友達はいなかったけれど、特に不満はなかった。授業にも何とかついていけていたし、私はそれなりに学校を楽しんでいたはずだ。どこにも問題はなかった。

 原因は何だ。それがわからない限りこの問題は解決しないような気がして、私は何度も考えている。だが、どれだけ考えても答えは出なかった。これから先もずっと答えが出ることはないのかもしれない。それでは駄目なのだ。このまま両親を困らせたままでいるわけにはいかない。

 (この愚図。)

 また自分を罵倒した。わかりきったことだ。周りに原因がないのだから、原因は私自身。こんな恵まれた生活をしておいて「普通」に溶け込めないなんて、死にたいだなんて、私はなんて不出来な人間なのだろう。

 涙をぐっとこらえる。

 (寝よう。これ以上考えても不毛だ。)

 このままでは自分を責めるだけだ。そんなことでは前に進めない。目を閉じる。いつもは寝ている時間だからか、すぐに眠気はやって来た。バッグを抱え、私は夢の世界へ旅立った。

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