出会いは突然に
季節は春。気候が暖かくなり、桜の花びらが散り始めて来た頃――。
太陽の眩しい光を浴びて1人の少年が目を覚ます。ふかふかな布団、柔らかな枕……。申し分ないベットを下りて、一つ大きな欠伸をする。続けてまだ寝ていたいという気持ちを無くす為、口を開く。
「んー。よく寝たっ!」
そう言いながら少年はクローゼットから、Tシャツとジーパンを取り出す。
今日は日曜日。部活に入っていない少年にとっては、暇な一日だ。しかし、暇といっても腹が減っては戦が出来ない。なので少年はパジャマを脱ぎながら朝の献立を考える。
「今日の飯は……いつもの奴でいっか」
そう――。少年には父と母がいない。二人とも病名が分からない突然死。少年が幼い頃に突然、二人は息を引き取った。幼い頃だったせいか、余り両親の思い出が無い。だが、少年は両親が亡くなった時の気持ちだけは鮮明に覚えている。
それは、
「なんでかみさまは、ぼくにいじわるをするの?」
と、言う幼い少年が感じた率直な気持ち。
両親を早くに亡くした少年は、中学生になるまでお祖母さんの家に住んでいたが、さすがにそろそろ迷惑だと感じ、自宅で一人暮らしをして今に至る。生活費等は、両親の残した保険金や貯金があったので、苦ではなかった。
自分の事は自分でする、という行為を現在まで繰り返して来た。だから少年は、たいていの家事は全てこなすことが出来る。
そんな少年の名前は日高大介。この街、星ヶ丘【ほしがおか】に住む、ごく普通な中学生である。都会と言うより、田舎寄りな星ヶ丘は基本、辺りが静かだ。勿論、今も辺りは静寂に包まれて清々しい朝を迎えている。
大介はそんな朝を優雅に過ごす為にテキパキと行動する。少々、几帳面な大介は布団を綺麗に畳み、シーツのシワをのばす。中学生。と、いう今は、思春期の時期と重なっている。なので、怒りっぽさが普段より増しているのは仕方がない事。だが、ただでさえストレスが溜まりやすいのにも関わらず、几帳面な所は意外である。
部屋中が綺麗になったところで、1階にある(大介の部屋は2階)台所に向かう為、ドアノブに手をかける。ゆっくりと扉を開け、部屋から出る。
そして台所へと続く階段に足をかける。
下りる毎に響く音。それは階段の古さを感じさせる、と、同時に(この家、大丈夫なのか?)という不安に襲われる。
そんな階段を下り、1階に着いた大介。大きい欠伸をしながら台所へと進んでいく。
台所にたどり着いた大介は、まず冷蔵庫を開き材料を確認する。
「えーと…… 卵、卵……」
冷蔵庫の中を懸命に探す、が、不幸にもお目当ての卵が見つからない。
「……。 卵が無かったら目玉焼き作れねーじゃん……」
その場で溜め息をつきながら、ゆっくりと冷蔵庫のドアを閉める。
「買い出しに行くか……」
大介は仕方がない、と、言わんばかりの表情で台所から立ち去る。ぶつぶつと愚痴を零しながら、玄関へと向かう。少しずつ、ストレスが溜まって来ている事が一目で分かるような顔をしながら下駄箱から一足、スニーカーを取り出す。今時、と、言えば分かるほどの中学生が履きそうなスニーカー。そんなスニーカーを大介は急いで履き、家を飛び出す。
すると、気持ちの良い風が大介を吹き抜ける。
それは今まで溜まっていたストレスが吹き飛ぶ程。
「よし、行くか!」
人間という物はころころと感情を変えてしまう生き物。特に大介は思春期真っ只中なので、感情変化が激しい。今はいらつきから、爽やかに変わった。
苛々していた気持ちがおさまった所で、走り始めた。
大介曰く、
「走れば走るほど、ストレスが発散する」らしい。
先ほど感じた風を走ることによって、さらに感じるそれにより気持ちが良くなり、表情に変化が生まれている。気持ちの良い風の中を走り抜ける大介。中学生とは思えないほどの走りを見せる。
だが、その刹那――。
風から不思議な音が聞こえた。
音――。
それは大介の身体の中を駆け巡るような不思議な感覚を生む。
大介はその場に立ち止まり、辺りを見回す。が、辺りはどんなに見回しても先ほどとは全く変わりはない。不安になり、身体の向きを反対にして、家に戻ろうとする。
すると、またもや音が聞こえ始めた。その音を頑張って聞こうと、耳を澄ます。少しずつ、少しずつ音がはっきりとしてきたそして大介は聞こえてくる音を口に出し始める。
「闇が近づく気配がする…… 助けが必要だ…… この声が聞こえた者…… どうか力を……」
頭を傾げながら、その場に立ち止まる大介。
「なんだ……?」
まるで未知の生物を発見した時のような驚き顔。再び、首を傾げようとしたその時――。
耳に激しい爆音が響き渡る。と、同時に青白い光が視界に入り込む。不思議な音、突然の爆音、視界を遮る青白い光――。
奇妙な事の連続で、戸惑う大介。視界が回復した所で、爆音がした方向を見る。が、その瞬間、目を疑った。
「ちょっと待て…… 爆心地は俺ん家の近くじゃないか!?」
急いで、自宅まで走り始める。先ほど現れた青白い光……。大介にとって、なぜか懐かしいという感情が少しだけ出てきた。少し疑問に思ったが、まずは家の事で考えている暇が無い。
やっとのことで家にたどり着いた大介。急いで玄関のドアを開き、家の中を見渡す。が、何も変わった変化はない……
不思議に思いながら、2階も一応確かめに行く大介。古ぼけた階段を駆け上がり、直ぐさま自分の部屋を開ける。
「変わった様子は……ないな……」
先ほど聞こえた音を思い出す。
(助けを求む……か……)
小さく溜め息をつきながら、床に座り込む。
「まっ、気のせいだろ」
と開き直り始めた大介に再び音が襲い掛かる。突然の出来事に不安になり、周りを見回す。さっきまで使っていたベッド、使い込んでいる勉強机、クローゼット……普通の人に比べれば比較的綺麗な部屋。それをどんなに見ても見えるのはいつもの光景……。変わった所など、一つも無い。
「うん、やっぱり気のせいだな。気にしないで行こう!」
何も無かったかのように済ませようとしたまでは良かった……。だがその瞬間、聞き慣れた音が部屋中に響き渡る、と同時に背後から声が聞こえた。
「気のせいじゃねーよっ!」
後ろから怒鳴る声が耳に響く。
「!?」
再び声が聞こえ、驚き一瞬びくっとした。恐る恐る後ろを振り向くと、少年らしき人物が先程大介が眠っていたベットに座り込んでいた。
その姿は、何処にでも居そうな小学生。半袖短パンというスタンダード、身長は大体……145センチ位。
大介の身長は175センチというやや長身なので、少年との差が歴然だ。いきなり現れた少年に大介は
「お前誰だよ? てか何処から入った?」
目の前で偉そうに座っている少年に問いただす。
突然、現れたというのに偉そうにしている少年を見て腹が立った。また、勝手に人の家に入って来た事により、とてもいらついている。だが、そんな事は知った事か、と言わんばかりの表情をしながら少年は
「俺? 俺の名はアークッ!」
と言い、ニヤリッと歯をむき出しにして、微笑む。
「……で? どうやって侵入したんだ?」
アークに近寄りながら、不法侵入者である馬鹿者にデコピンをする。それと同時に良い音が鳴る。ジャストミート。大介のデコピンがアークのデコに入る。意外と痛いデコピンがきれいに当たったので、相当痛いだろう。
「ガハッ……! てめえ……何すんだよっ……!」
アークは、その場で頭を押さえながら悶え苦しんでいる。
「俺の貴重な時間を削っている罰だ!」
アークに指を指しながら言う。
「で、どうやって入った?不法侵入者?」
続けてアークの顔を睨み付けながら話す。
「不法侵入じゃねえっ! れっきとした合法だ!」
アークはまだ、両手で頭を押さえ、痛みを我慢し、よろよろと歩きながら言い訳を始めた。予想以上に痛かったらしい。
(見苦しいぞ。ガキ。)
「ほう、じゃあ言い訳を聞こうか?」
すると、アークは自慢げに
「テレポーt『嘘つけぃ!』
大介はアークがテレポートなど、有り得ない言い訳を言う前に再びデコピンを入れた。




