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四話(sideグラフィウス)

私の名は、グラフィウス。


このヴァルキーラの森の、ヴァルキーラ王国の国王をしている。


国王といっても、族長であり群れのボス。


王、といえる存在ではない。


それでも国王と名乗るのは、私がかつての仲間たちと人間からの迫害から逃れ、この森を住処とすると決めたとき、人間から見つかっても、なめられることがないようにするためであった。


今、逃れてきたときの仲間たちはもうおらず、人間から逃れてきたのは数代前の話だ。


私も、もう数百年でかつての仲間たちのもとへ逝くだろう。


心配といえば娘のことだ。


娘のフィルダーゼは天真爛漫な子である。


悪意と敵意に触れることなく、群れの仲間たちにかわいがられて育った。


私と、今は亡き妻の唯一の子であるから、というのもあるだろう。


が。


あの子が女王になったとき、優遇されたい、と思っている者も少なからずいるのだ。


まったく、愚かなものである。


そのために、私と私の仲間たちは世襲制にしたわけではないというのに。


私の一族が王族になったのは、私が群れの中で一番強く、そして、私の一族が始祖様の血を濃く受け継いでいたからだ。


今、フィルは私と飛行訓練のために広場に来ていた。


フィルが、あまりにも早く翼渡をこなしてしまったので、次の体力をつける段階をすっ飛ばして、滑空訓練を行うことにした。


フィルは日ごろから、私の飛ぶ真似をして、翼を羽ばたかせていたから、体力は普通の子よりあったためだ。


それにあの子には素質がある。


群れの長となるべき素質が。


強さも然り。


優しさも然り。


冷静さも然り。


あの子には王になるべき素質がこれでもかというほど詰め込まれていた。


あの子は選ばれた子である。


あの子は卵から孵化したときから、右の耳に始祖様に認められた者の証である鈴がついていた。


あの子は気づいていないかもしれないが、フィルが私の側に来るとき、優し気なリィンリィンという鈴の音色が、響く。


私の妻も始祖様に認められた者の証である鈴が左耳に一つついていた。


なぜ、フィルが選ばれた子であるのか。


生まれた当初、私にはわからなかった。


それを知ったのは、妻であった。


妻は私に言ったのだ。


右耳に鈴が二つ付いた子は選ばれた子である、と。


妻ほど認められた者について詳しい者はいなかったので、私は無条件にそれを信じた。


今ならそれがわかる。


あの子は何に関しても、飲み込みがはやい。


まるで、もう一度生をやり直しているかのように。


そのとき。


ぐらり、と地面が揺れた。


「なッ!?こんな時に地震か!?」


驚きに私は叫んでしまう。


私が叫んだ声にフィルは驚いたようにこちらを見た。


がらがら、とフィルの足場が崩れる。


「おとうさま!!」


フィルの私を呼ぶ声が聞こえた。


私は柄にもなく、焦って崖の下を見る。


フィル。


今すぐ助けに行くから。


だから。


どうか、私の前からいなくならないでくれ。


「わたしはだいじょうぶ!!みんなのあんぜんかくにんを、ゆうせんして!!」


そのフィルの言葉に私は目を見開いた。


やはり。


あの子は王の素質がある。


私なんかよりはるかに。


揺れは収まった。


あの子の言葉の通りに私は行動しよう。


近くに舞い降りた側近に私は指示を出す。


「ほかの者にも声をかけて、行方不明者がいないか確認してくれ。」


「わかりました。」


フィル。


無事でいておくれ。


安全確認が終わったら、すぐに探しに行くからね。


しばらくして、私の側近が再び空から舞い降りてくる。


「他の者たちは無事だそうです。どこに行かれるので?」


私の側近は、いぶかしげに聞く。


安全確認を聞いて、すぐにフィルを探しに行こうとしたのがバレたかな。


私は側近の言葉に苦笑を零した。


「ちょっと行くところがあってね。」


私ははぐらかして、言う。


早くフィルを探してあげたい。


私はダメな王様だね。


自分のことしか考えることができない、弱い王。


フィルがこれを見たら、がっかりするのかな。


君の憧れた私が、こんなにも弱いのか、と。


「他の者たちが、先の地震で怖がっております。どうか皆のお傍に。」


側近の彼は私の様子に首を傾げている。


そんなに分かりやすかったかい?


じゃあ、彼にフィル探しをしてもらおうかな。


私が行けないのなら、フィルの知ってる者を向かわせたほうがいいだろうからね。


「じゃあさ、君がフィルを探しに行ってくれるかい?さっきの地震でフィルが崖から落ちちゃって。」


そう私が彼に言うと、彼は目を見開いた。


そうだったね。


彼はフィルが好きだったねぇ。


彼は、フィルへの純粋な好意を寄せていた。


フィルに伝わることはなかったけど。


「お嬢様が!?」


無口な彼には珍しい大きな叫び声。


「そう。フィルがね、自分のことよりも皆を優先して、と言ったんだ。だから、本当は私はフィルを探しに行けないんだよ。…君が独断で探しに行ったことに出来ないかな?君に全てを背負わせてしまうことになってしまうけど。」


私は彼に聞いた。


彼が私の願いを聞いてくれることも、それを受け入れてしまうことも全てがわかっていた上で、そう聞いた。


やはり私は弱い。


守るべ仲間を危険にさらしてしまうなんて。


「英断です、王。」


やはり彼は受け入れた。


そして、飛び立っていく。


無事でいておくれよ。


フィルも。


君も。


私は、君たちが帰って来たら、笑って迎えようじゃあないか。

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