三話
次にお父様が行った場所は、広場だった。
広場といっても、森の高いところにあるただ広い場所。
近所のお兄ちゃんから聞いた話だと、遊び場のほかに、飛行訓練の場所だと聞いたことがあった。
その話は本当だったらしい。
「さあ、フィル。ここの端っこに立ってご覧。」
お父様が言うので、そっとはしっこに立った。
びゅうびゅう風が吹いて、飛ばされそう。
「おとうさま、どうするの?」
こてり、と首をかしげてお父様に聞く。
「翼を羽ばたかせるんだ。大丈夫。フィルならやれるよ。」
私の不安を感じ取ったのかお父様はゆっくりと頷きながら、言った。
ええい!!
女は度胸だって、近所のお姉ちゃんが言ってたもん!!
翼を思いっきり羽ばたかせてみる。
風でバランスを崩しながらも、体勢を立て直しながら、一生懸命に翼を羽ばたかせた。
そのとき。
急に、風で体が揺れた。
いや、違う!!
これは、私の体が揺れてるんじゃない!!
地面が揺れてるんだ!!
「なッ!?こんな時に地震か!?」
お父様が叫ぶ。
お父様が叫ぶってことは、びっくりするぐらい見たことがない。
これは危険なものだと本能的に感じた。
ガラガラッ!!
足元が急に崩れた。
「おとうさま!!」
私は、声を張り上げた。
お父様の焦った顔がチラリと見える。
私はハッとした。
お父様は王様。
私のことだけを見ててはいけない。
お父様は、群れ全体の心配をしなきゃいけないんだ。
私のことは、二の次にして。
「わたしはだいじょうぶ!!みんなのあんぜんかくにんを、ゆうせんして!!」
そう気付いたら、叫んでた。
森にすごい速さで落っこちていく。
私は、翼を広げていた。
それも無意識に。
翼をひろげたら、落ちる速さがゆっくりになった気がして、翼を羽ばたかせてみる。
目に見えて落ちる速さはゆっくりになった。
これなら大丈夫かも。
おもいっきり、翼を羽ばたかせた。
ふわり、となんとも言えない浮遊感が襲う。
「とんだ!?」
私は空を飛んでいた。
空をゆるりと飛んだ。
風が気持ちいい。
お父様たちは、こんな気持ちで空を飛んでるんだね。
緊急事態だとは分かっているのに、高鳴る鼓動を押さえることが出来ない。
地面にゆっくりと近づいて、どすん、と大きな音をたてて、着地した。
ここは、どこだろう?
私は、きょろきょろと辺りを見回す。
見渡しても場所がわからない。
木に登って見たら、分かるかな?
私は、ヒョイヒョイと木に登り、辺りを見回した。
広場は崖の上の方にあって、広場自体を見ることは、もうできない。
王族の住処である大木も見えなかった。
私は、仕方がないと誰にも言ったことのない奥の手を使うことにした。
「せいれいさん!!私のよびごえにこたえたまえ!!」
私は万物に宿ると言われる精霊に呼びかけた。
『あ!!フィルダーゼだ、久しぶり~』
『ほんとだね~。いままで何で呼んでくれなかったの?』
精霊さんは、そう私に話しかけてくる。
王族の書庫で読んだものには、精霊はいかなる者でさえ精霊に選ばれなければ、話すことはおろか姿さえ見ることは出来ない、と書いてあった。
精霊さんにそのことを尋ねてみたことがある。
『それはね~秘密~!』と精霊さんが言っていたのを覚えている。
「うん、ひさしぶり。さっきのはなあに?」
私がそう聞くと、一匹?の精霊さんが進み出てきた。
『さっきのは、地震。ときどきおこるの。気にしないで。大きくなれば分かるから。……それで、なんの用かしら?』
薄いレースを纏った精霊さん、シルフィーネが聞いてくる。
「ごしんぼくに連れてってほしいの。帰り道がわからなくて。」
私が頼むと、すぐに了承の返事がかえってくる。
ちなみに私が精霊さんの前で大木をご神木というのは、この森であの木は神聖な木だと教えてもらったから。
そして、私と精霊さんの冒険は始まった。
……精霊さんには冒険にならないけど。