三日 蝉の鳴き声
僕はいつものように朝は体の痛みを感じながら起きる。いや今日は何か違う感じがした。まるで誰かに抱かれているような感覚があった。僕は体の状態を確認するとお腹と胸の間ぐらいに組まれた腕が見えた。この腕は正真正銘彼女の手だ。だが彼女と寝てもう二日目。朝を迎えるのは三日目だ。はずかくないかと言えば嘘になるが、もう慣れた。彼女は本当に一週間でいなくなるのか。もしそれが本当なのであれば後四日で彼女がいなくなる。もし彼女がいなくなったら僕はどう言った感情になるのだろう。小説のような主人公みたいになるのだろうか。いや、それはあり得ない。別に僕は彼女に対してそんな感情は芽生えてないし、彼女がいなくなったところで僕にはいつもの日常が取り戻されるだけだ。
彼女の腕が僕の体を締め付ける。物理的に。
ーーペローー
何か首筋にヌルッとした感触があった。すごく生暖かいもの。誰かに舐められたような感触。そう、彼女が僕の首筋を舐めてきた。僕はとっさにベットから転げ落ちるように出る。
「うわあああああああ」
「おはよう!」
「おはようじゃない!なんだよいきなり!」
「ちょっと感じた?」
彼女は照れ臭そうに言った。いや、照れたいのはこっちだ。その表現もおかしいかもしれないがとにかく恥ずかしい。こんなこと誰にも知られたくない。朝に女の人に首筋を舐められたなんて。だから僕が朝毎回心配しているのは僕の部屋に親が来ないかだ。もしこんなところを親に見られたら僕は生きていくことがかなり困難になってしまう。なのにそんな僕には御構い無しで彼女は平気で僕にちょっかいを出してくる。だからこの三日間の朝は騒がしい。
「今日はどこいく?」
「今日はどこも行かないです」
「なーんーでー!」
「天草に行く準備しないと」
「そうだけどさー。でも、外に出て遊びたいよー」
「一人でどこかに行けばいいじゃないですか。外に出る分は別にどこで何もしても結構なので」
「嫌だ、裕太君と一緒にどこかに行きたいの!」
彼女はそう言って僕の腕を引っ張る。
「どっか行きたい!裕太君とどっかに行きたい!」
彼女は小さい子供のように駄々をこねた。頼むからやめてほしい。もしこの騒ぎを聞きつけて親が来たりでもしたらどうするんだ。僕の気持ちも少しは考えてほしい。
「行きたいよー!」
彼女はわざとうるさく声を出す。このまま騒がれたら親に聞こえてしまう。彼女の駄々に僕はまた負けた。
「じゃあ、準備ができたら一緒に高尾山にでも行きますか?」
「うん!行く行く!」
「でも、山頂まではいかないですよ。麓でブラブラするだけ」
「いいよ!」
彼女は喜んだ。そしてニコリと笑って僕に抱きついて来た。
だが、僕は特に気にしない。
「んもう」
「そういうの、あんまり良くないんじゃないんですか」
「どうして?人と触れ合うことは大切だよ」
「そうかもしれないけど、抱きつくとかは違うと思います」
「私は抱きついて人の感触を味わいたいの!」
「変態ですか?」
「違う!私は変態なんかじゃない!蝉の妖精!」
蝉の妖精って今まで特にその言葉に直接触れてなかったけど、結構痛い言葉だと思う。
僕は彼女を払いのけ僕は自分の部屋のドアを開けた。
彼女は頬を膨らまして怒っていたが僕は平然と僕は部屋を出る。
キッチンのテーブルにいつもと変わらない料理が並んでいる。
「今日はしっかりと皿を洗ってから戻れよ」
お父さんがいつものように僕に言ってくる。でも僕はそうするつもりはない。いつも通りの反抗だ。
僕は食事をしている間にお父さんやお母さんが最近の話題やらなんやら話していたが全て聞き流す。
「明日、天草に行ってくるから」
「急にどうしたの」
お母さんが神妙に聞いてきた。
「なんでそんなとこ行くんだ」
お父さんも少し不機嫌そうに言ってきた。
「友達に誘われたんだよ」
「そういうのは、相談するべきだろ」
「仕方ないだろ、僕だって急に誘われたんだ」
「誘われたその日に相談しなさい」
「お父さんは天草に行くのに反対ってこと?」
「そうじゃない」
「じゃあ何」
「お父さんはお前のことを心配して言ってるんだ」
お父さんは少し怒っているような言い方で言ってきた。僕にはそう聞こえた。
「大体そんなところ、ホイホイいけるようなところじゃないだろ。それに交通費とかはどうするんだ」
「それは全部、和正が出すから大丈夫だって」
「はぐれて迷子になった時は自分でどうにかできるのか」
「出来るって」
「本当か?」
本当に僕のお父さんはうるさい。それに迷子とか小学生じゃあるまいし。本当にイライラする。
「誰かにお世話になるってことはまず自分の身の回りのことをしっかりとできなきゃいけない。皿も洗えないようなお前が」
「うるせえな」
僕はついに思ってることが口から出てしまった。普段は出さないような言葉。僕は食べている途中でご飯も残っていたがキッチンを出る。とてもじゃ無いがこの気まずい空気にいたらどんどんと本音が出てきそうだったのとお父さんが怒り出すんじゃないかと思ったからだ。
僕は逃げ出すように自分の部屋に戻る。
「あれ、今日は早かったね」
油がいつものように部屋で待っていた。彼女はもうすでに明日の準備を終わらせていたようだ。まあ、彼女が天草に持って行くものなどほとんどないからな。
僕も天草に行く準備をする。衣服や日用品をまとめる。キャリーバックなども必要かと思えばそこまでの荷物でもなかった。以外と物はコンパクトに収まり、普段使っている大きめのリュックで十分だった。
なので意外と早く準備は終わった。
気づけばお昼になっていた。
昼ごはんはお母さんが用意してくれていたが僕は気まずくてキッチンに行かずに油と一緒に外に出る。
「いいの?ご飯を食べないで家を出て」
「いいんですよ」
「何かあったの?なんか、ちょっと不機嫌な感じだけど」
「別に何もないですよ」
彼女は僕のことを心配そうに見る。
「さっき、また『いってきます』って言わなかった」
彼女は俯いてその言葉をつぶやくと少し悲しそうな表情をしていった。そんなことを言える状況じゃなかったからだ。何で彼女が悲しそうな表情をするのかわからない。約束を破ったからか。でも、少しは僕の気持ちも考えてくれ。
彼女は僕の手を掴む。
「なんか、暗くなっちゃったね」
「それは」
「元気出していこー!」
彼女はさっきまでの表情からガラリを変えてにっこりと笑い、僕を引っ張って走り出す。
「人生一日はたった一度っきり!充実した時間を過ごさないともったえない!」
彼女はハツラツと元気に走る。僕も彼女に引っ張られながらその元気に押し負けるように走る。
そのまま僕たちは高尾山の麓を目指す。
蝉の声を聞きながら高尾山までの一本道を走った。
正直、歩いて行くには遠すぎた。ついた頃には息を切らして僕は水分を欲していた。
彼女は疲れというものを知らないのか。元気の良さは変わらずはしゃいでいた。
「裕太君!歩こう!」
「さっきまで走ってたじゃないですか。何でそんなに元気なんですか」
「何いってるの!ここからでしょ」
「え?何がですか」
「デート!」
「そういうつもりでここにきた訳じゃないんですが」
「私はそのつもりだった」
「じゃあ僕は帰ります」
「嘘嘘!ごめんって!」
彼女は手を合わせて頭を下げながら謝る。僕はため息をついて彼女に付き合う。
「楽しいね」
僕と彼女は並んで歩く
「別に僕はそこまで楽しいとは思えないですが」」
「えー!楽しいよー!」
僕は別に楽しくない。だって高尾山なんて家から電車で行けばそんなに遠くない場所だったし僕にとっては小さい頃よく来た場所であったから特にワクワクするようなことはない。ただ見慣れた風景を眺めてるだけだ。
「私ね、山が好きなんだ。山育ちなの」
「蝉の妖精ですもんね。蝉育ちだからですか?」
僕は何となく意地悪にそれっぽい質問をした。
「そうだけどさー、でもそういうんじゃなくて!人間として!」
彼女は笑いながらいった。
「びっくりた?私人間なんだよ!」
「そうですね」
彼女は何をいっているんだろう。
「何その反応」
彼女は頬を膨らませて僕を見た。
ただ、道を歩く。なんの変わりもない道を歩く。こんなに退屈なことがあるだろうか。
「もしかして私といるの不満」
「そうですね」
「えー、そんなこと言われたら私ストレスで死んじゃう」
うさぎか。彼女は自分の体を両腕で抱いて僕に寄り添う。本当にどんだけスキンシップが好きなんだ彼女は。
「何かお話ししようよ」
「何を話せばいいんですか」
「裕太くんは恋話とかないの?」
「ないですよ、基本的に僕は一匹狼なんで」
人と関わるより本を読んでその世界に入った方が楽しい。そう言った思考は他の人には寂しい人間だと言われるが、僕はその方が楽しかった。
「じゃあ、私の話をしてあげる」
彼女の話。そういえば初日は彼女のことをずっと考えていたっけ。彼女は一体何者なのか。彼女は一体なんの目的でこの世に来たのかとか。でももうどうでもいい。
「私ね、実は子供がいんだよ」
子供?いきなり彼女は何を言い出すんだろう。
「今はどうしてるんだろうな。きっと可愛い彼女と一緒にいるのかな。ショッピングモールとかでお出かけしながら幸せでいるのかなー」
本当に何をいっているのかわからない。
「私ね、死んだ人間なの」
「え?」
彼女は悲しみの表情を見せた。僕は一瞬だけ耳を疑った。彼女はまた僕をからかうためにそんなことを言ったんだろう。そう思った。だが、彼女の表情を見ているとそうは思えなくなった。
彼女は死んだ人間。そしてこの世に再び現れたと。まるで本当にライトノベルの小説や映画の中の話だ。
「なんて嘘だよ。私は蝉の妖精!」
そういって彼女はまたいつものようにニコニコとした表情になる。マジかよ。今一瞬彼女のことを信じた僕が可哀想に感じた。
「あーーーーアイス売ってる!」
もう陽気な彼女に戻った。さっきの一瞬の出来事はは一体なんだったんだ。全く、彼女のことを真剣に考えた僕はばかだった。
「買って買って!」
「お金ないです」
「嘘ついてる!私、ちゃんと裕太君がポケットの中に財布を入れていたの見てたんだからね!」
見られていたのかよ。今度からは彼女の目をしっかりと観察しながら行動しないと行けないと思った。
「しょうがないですね。やったー!」
彼女は両手を万歳して喜ぶ。
ーーカンカンカンーー
まただ、踏切の音がする。また変な感じに襲われる。
ーーカンカンカンーー
もう夕日が照りつける頃。こんな夏の日には嫌な思い出が思い出される。私は自分の部屋に飾ってあった家族写真を手に取る。そこにはお父さんとお母さんと私が写っていた。
あんな思いはもう二度としたくはない。
私のスマホに着信がくる。
「はい」
『もしもし、夏美」
「どうしたの?和正」
『いや、なんとなく電話してみたわ』
「何それ」
私は笑って返した。
『そろそろ、命日だろ』
「そうだね」
『良いのか、本当に天草に来て。あん時は考えずに誘っちゃったが別に良いんだぜ、家族といても』
「ううん、良いの」
『そっか』
「もうあれから四年がたったんだね」
『そうだな』
「私、あの時和正がいなかったら」
『おいおい、そういう話はなしだろ!湿っぽくなるからやめようぜ!』
「うん、そうだね」
『んじゃ、また明日』
「うん」
電話が切られる。
私の大切な人が亡くなってもう四年が経つ。他の人からしたら長い月日に感じるかもしれないが私にとってまだつい最近のようにしか感じれなかった。
それだけ身近にいた人が私の前から居なくなったから。
ーーガタンゴトンガタンゴトンーー
「どうしたの?」
彼女が僕の顔を覗き込んで見ていた。
「わ!」
僕は少しだけ驚く。本当に少しだけ。
「なになに!何考えてたの!」
「油さんには関係ないですよ」
「えー、何で私に関係ないの!」
「アイス買ってくるんで」
僕は足早に彼女から離れ屋台にアイスを買いに行く。
「いらっしゃいませ」
「えっと」
そういえばどの味がいいのか聞くの忘れてた。
「バニラで」
「かしこまりました」
適当に僕は選んだ。
店員さんはコーンの上にアイスをくるくるとして作る。
「お待たせいたしました。バニラ味です。
お金を払い、アイスを店員さんから受け取って彼女の元に戻る。
「わー!ありがとう!」
彼女は喜んでアイスを僕から受け取った。
僕の隣で油がアイスを舐め始める。
「んんーーーー!美味しい!」
「それは良かったです」
「裕太君は買わなくていいの?」
「節約中なんで」
「えー、デートの時ぐらいさー!節約しないで奮発しないと」
「これ、デートじゃないですよね」
疲れ気味の声で僕は突っ込んだ。
それからも彼女に色々と付き合わされる。
お店回ったりとか、景色を眺めたりだとか。
ずっと歩きっぱなしの僕は足に痛みを感じ始める。何でこんな思いして彼女に付き合わなきゃ行けないのだろう。
気づけば夕方になっていた。僕たちは結局しとことは高尾山の麓をぶらぶらと歩いていただけだった。いつの間にか空には真っ赤な夕日が僕たちを見下ろしていた。
正直、僕はもう疲れ切っていた。普段家に引きこもっている生活がほとんどだった僕に二時間以上の太陽光は僕を殺しにかかっていると感じさせるようなものでここまで耐えただけかなり自分を褒めている。
「もう、ツクツクボウシの時間だね」
またわけの分からないことを。
「ひぐらしの間違えじゃないですか?」
「そんな細かいこと気にしないの!」
「いや、全然細かくないですよ」
今日も結局彼女に振り回されっぱなし。
「はあー!今日も楽しかったね」
僕には特に楽しかった記憶はないが彼女は楽しかったようだ。
「毎日こんな幸せが続けばいいのにね」
彼女は僕の前に現れる前はどんな日々を送っていたのだろう。ちなみに僕は幸せというものを感じたことがない。何が一体幸せなのだろう。
「裕太くん、どうして蝉が成虫になると一週間して死んじゃうか知ってる?」
「確か、鳴き続けて疲れて死んじゃうんですよね。ほとんどの蝉は」
「そうだね。でも鳴くのはオスだけ」
「オスはメスの気をひくために鳴くんですよね」
「それだけじゃないよ」
彼女は地面を見ながらそう言った。
「そもそも、虫は短い期間でメスと交尾しなきゃいけないしとても繊細な生き物なんだ。だから、ただ気をひくために鳴いてるんじゃない。命を継ぐ為に鳴いてるんだよ。どれだけ自分が辛かろうがこれからを生きていく命を授ける為にオスは命がけで鳴くんだ」
こんな真面目な話をしている彼女。その言葉には何か意味があるような感じがじた。
「そしてメスは気に入ったオスと交尾をする。でもね、メスも子供の卵を産んだらすぐに死んじゃうんだ。子供の顔も見れずに。これからの成長も見れずに死んじゃうんだよ」
さっき見た彼女の悲しみの表情が再び現れる。
僕は彼女の考えていることがわからない。それは何回も思ったことだ。でもそもそも僕が彼女を理解しようとしていないのか。それとも彼女は僕には到底感じること考えることのできない何かを持っているのか。どちらにしろ、理解できないだろう。
「だから、蝉が一週間で死ぬ理由は命をつなぐ為でした!」
そう言って彼女は僕にニコッとした表情を見せて言った。
「何その反応?ちょっと困ったよ的な感じは!こういう時はジーンと来るべきだよ!」
「どこにその要素があったんですか」
「あったでしょ!いっぱい名言的なこと言ったよ!」
彼女は腰に手を当てて頬を膨らまして僕を見る。
「それに、さっきからそんな疲れ切った顔して!」
「しょうがないじゃないですか。本当に疲れてるんだから」
「時間は刻々と過ぎてるんだからもっと楽しまないと持ったえないよ!」
そう言って彼女は僕の腕を引っ張りどこかへ連れて行こうとする。
僕が連れてこられた場所。そこはひらけた場所だった。だがそんなところがこの近くにあった覚えはない。
ーージリジリジリーー
ーーミーンミーンーー
かすかに聞こえた。蝉の鳴き声
僕は蝉の鳴き声がした方の木を見る。木にとまっていた蝉の羽が夕日を反射して光り輝く。そして僕の目に入ってきた。その光眩しく、一瞬くらっとするようなめまいが襲った。僕は目を瞑る。
すると僕の耳にはうるさくいろんな蝉の音がした。
ーージリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンーー
ーーツクツクボーシーー
ーーポチャンーー
目を覚ますと何が起きたのか僕には全く理解できない。ただそこには満天の星が空に輝いていた。
「蝉の妖精の魔法だよ」
彼女の頭には地面まで伸びている蝉の羽のようなものが生えているように思えた。いや、生えていた。
これは現実ではありえない。こんなことはありえない。僕はきっと夢を見ているんだ。
「ミンミンミン」
彼女は笑ってそう鳴いた。
彼女の羽は透明で透き通っている。その透き通った羽は星空を反射してまるで万華鏡でも似ているようだった。僕は彼女に引かれた。そして僕はまたあの質問をする。
「油さん、あなたは一体何者なんですか」
それで三回目の質問をする僕。
彼女は笑ってこっちに来てと手招きする。僕は彼女の元へ行く
僕は油の前に立つと彼女は僕を引き寄せ彼女の顔と僕の顔が近づく。
「体で教えてあげる。だから、自分で感じて考えてみて」
そして彼女は目をつぶりキスをした。
抵抗できない。でも頭の中はパニック状態だ。
僕の唇に彼女の柔らかな唇が当たる。
こんな感覚は初めてだ。
この気持ちはどう表していいかわからない。
彼女と唇を交わす中、光り輝く彼女の頭から生えている蝉の羽を見た。僕はその美しさに圧倒され、心を奪われる。どう例えれば良いのだろうか。
彼女の羽の美しさは何もかもがガラスに写る宝石のようだった。
眩しく光り輝く星々は彼女の羽を通して結晶のように見える。
彼女は僕から顔を話す。
「どう、初めてのキスは」
「どうって」
「何か感じた?」
油がニヤリと笑う。
僕は急に恥ずかしくなった。
「こ、こんなことしていいんですか」
「ダメなの」
「だ、ダメっていうか」
「本当は嬉しいくせに。こんな可愛い子とキスができて!素直じゃないな」
彼女は僕を茶化す。本当に恥ずかしくなって来た僕は顔が火照って来た。
「も、もう帰ります」
「何でそんなに恥ずかしがってるの?」
「そ、それはあんたのせいだ!」
彼女があまりのもふざけているので僕は怒った。
その瞬間白い光に包まれる
ーージリジリジリーー
僕はいつの間か自分の部屋にいた。
どうやってここまで来たのかわからない。彼女は僕の前で正座をして座っていた。
僕は今まで何をやっていたのか油に聞いたところ、高尾山の麓を回った後に「僕が疲れたから帰る」と言って一緒に夜道を歩きながら家に帰ってきたと言った。
でも、そんな記憶はない。
じゃあ、さっきまでのは全て僕の中の妄想だったのだろうか。
でもそれにしては現実的な感覚があった。
「どうしたの?」
「あ、いや」
彼女の顔を直視できない。何だか、恥ずかしい。
「すごく、赤くなってるよ」
「それは、あなたのせいですよ!」
「えー!私何かした?」
「しました!」
「何もしてないよ!」
「したんですよ!」
僕は自分の恥ずかしさを否定する気持ちも込めて言った。僕の心が今、こんなにドキドキとしているのは全部彼女のせいだ。
「そんなこと言うんだったら、本当に変なことしちゃうぞ!」
「え!」
彼女は僕に正面から抱きつく。また、頭がパニックになる。
「ちょ、やめ」
「何で、いいじゃん!」
「良くないですよ!」
「もー!」
彼女が僕の頬をスリスリとする。とんでもない恥ずかしさだ。でも、この恥ずかしさは何だか子供みたいにばかにさて他気分で感じたものだ。
「何やってるんですか!」
「何ってスキンシップ」
「僕はあなたの子供じゃないですよ!」
「分かってるよ!」
そう言っても彼女はやめない。
「何でそんなに体を寄せたがるんですか!」
彼女は僕から離れる。表情は笑っているが、ちょっと真剣な顔で僕を見る。
「そんなに触られるのが嫌?」
「別に嫌じゃないですけど、限度ってものがあると思います!」
「そうかな」
「そうです!」
彼女は自分の三つ編みされた両脇の前髪を触りながら言う。
「だってもう触れ合えないかもじれないじゃない」
「いや、だから限度ってものが」
「嫌だ」
「え?」
「たくさん触りたいもん」
「何でそんなに触りたがるんですか」
「だって、もう触りたくてもさわれないから」
また僕は彼女の言ってることがわからなくなる。一体彼女は僕に何を伝えたいのだろう。本当によくわからない。それに彼女は何かを僕に隠しているような気がした。
そんなこんなで今日も彼女と夜を過ごす。
今日は彼女のわがままに付き合い変な妄想を見せられおまけに子供扱いもされた。本当に最悪な一日。でもそれは僕が思っていること。
彼女は今日一日、僕のことをどう思っていたのだろう。
少しそれが気になった。でも彼女に聞きたいとは思わない。何か変なことを言われそうな気がしたからだ。
そんなことを考えるようになった僕は今になって気づく。本当に彼女と友好的な関係になりつつある状況を。僕は彼女に心を許したわけではないが、着実に関係を持ち始めた。
恋愛とかのことではない。
人としてのなくてはならない関係を持ち始めたと言うことだ。
僕はこれからどうなってしまうのだろう。