エピローグ 下 蝉の合唱
あれから五年の月日が経ち僕は大学を卒業して中学校の先生になっていた。
夏が終わり、だんだんと涼しくなっていく九月。
まるでうるさかった蝉の声は泣きやみつつある。
僕は自分が担任をしているクラスに歩いてゆく。すると聞こえてくる生徒たちの歌声。もうすぐ中学校の全校生徒でやる合唱コンクールの本番が近づいていた。みんな気合が入っており、もちろん僕が担任をしているクラスメート達もみんな金賞狙いだ。
僕は教室に入った。
みんないい顔をしてきちんと練習をしていた。
みんなが歌い終わり僕は拍手しそうになったがそれは本番までとっておく
僕はみんなのことを確認し教室から出ようとする。
すると一人の女子生徒が僕に声をかける。
「先生!」
彼女は渡辺さん。この合唱コンクールで指揮を担当する子だ。どうして合唱曲で彼女が指揮者なのかというと、それは僕が言ったからだ。彼女は最近飼っていた犬が亡くなったのだ。
だから彼女には分かる。大切なものとは何かが彼女にははっきりと分かっていて僕の伝えたいことが鮮明にお客さんに伝えられると思ったからだ。
だから僕が彼女に指揮を託した。
クラスのみんなも反対はせず賛成してくれた。
だから僕は彼女に期待をしている。
「どうした?」
「私のクラスうまく歌えていますかね?」
「うまく歌えていると思うよ。私は歌の先生じゃないからあんまり分からないけど」
「私の指揮は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
僕は彼女の目を見て言った。
「ありがとうございます」
彼女はそう返事をしてみんなのところへ戻ろうとした時、僕は彼女に
「渡辺さん!頑張って!」
と大きな声で言った。
そして本番の日。
僕の生徒達の歌う番が近づいてきていた
ホールの客席は保護者などで埋まっている。
生徒はみんな緊張していた。僕は自分のクラスの子達の背中を叩く
そして円陣を組み、みんなで気合を入れて叫んだ。
合唱コンクール実行員の子達が僕のクラスの歌う曲の説明をしている。
僕は袖から客席を見た。なんだか彼女がいるような気がした。
そして実行員の紹介が終わり僕の生徒達が入場する。
渡辺さんが壇上に立ち
ーーあなたは当たり前にある大切なものに気付いていますか?ーー
「おじいちゃん」
「おばあちゃん」
「おとうさん」
「おかあさん」
「いもうと」
「おとうと」
「おねえちゃん」
「おにいちゃん」
「いとこ」
「おさななじみ」
「おっと」
「つま」
「いぬ、ねこ、」
「ともだち」
「しんゆう」
「せんせい」
《『あなたにとって大切な家族と呼べる人』》
『ただいま』
『おかえり』
『いただきます』
『ごちそうさま』
『おはよう』
『おやすみ』
『こんにちわ』
『さようなら』
《『愛してるよ!大好き!』》