エピローグ 上 伝える親への思い
神様はひどすぎる。だってこれじゃあ何のために彼女を生きかえらしたんだよ。何のために彼女は生き返ったんだよ。何の、何の意味もなかったじゃねえかよ。
「ふああ」
和正が背伸びをして起き上がる。そして僕の方を見て
「お前何泣いてんだよ」
「泣いてねえよ。あくびだよ」
僕は大きく口を開けて見せて誤魔化す。和正が台所にあるおにぎりを見つける。
「お、油さん。本当におにぎり作ってくれたんだ!」
ーーちげえよーー
「いやあ、しかし昨日の家族ごっこは面白かったな」
ーーちげえよ、ちげえよーー
「おっ、おにぎりの下に置手紙が」
和正が置き手紙を開く。
「『残さず食べてね! お母さんより』だって。油さん!めっちゃなりきってたやん!」
「ちげえって!!!!!!」
僕は大きな声で怒鳴り散らした。その声で夏美さんが起きる。
「ちげえんだよ!お母さんなんだよ!」
僕は和正の胸ぐらを掴む。
「ちょっと、どうしたんだよ裕太」
「バカだよ!お前も!僕も!彼女も!」
「何言ってんだよ」
「お母さんなんだよ!お母さんだったんだよ!」
「だから何言って」
「お前がただいまって言ったのも、お前がお母さんって言ったのもみんな」
「やめろよ」
「お前のお母さんだっ」
僕は思いっきり和正に殴られる。僕は吹っ飛び、反対側の壁に背中をぶつける。
「俺の母ちゃんはな!!もういねえんだよ!!」
和正は顔を赤くしながら僕に怒鳴りつけた。
「何も知らねえくせにこれ以上俺の母ちゃんのこと語るなよ」
僕は何も言えない。そうだ何も知らなかったから。
ーー大切なものがあることが当たり前すぎて気づかなかったからーー
「ごめん。知らなくて。ごめん」
和正は何も言わなかった。夏美も訳がわからず呆然としているだけ
「ごめん。本当にごめん。僕が知っていれば」
僕は謝ることしかできない
「ごめん」
沈黙が訪れる。
静けさは落ち着きと主に悲しみを運んできた。
そして三人で向日葵さんが作った塩おおにぎりを手に取り、食べた。
ーーそして鳴いたーー
僕達は東京に帰った。
八王子に着く。
こんな気持ちは初めてだ。
早く帰りたい。
とにかく今すぐ帰りたい。
僕は走る。
とにかく走る。
走って
走って
走って
早く、お母さんに、お父さんに、会いたい。
早く会いたい!
一秒でも早く!
会いたい!
そして家の前に着く。
今まで気持ちを込めて言って来なかった分、恥ずかしさがある。でも伝えなきゃ後悔する
だから僕は一歩、また一歩と玄関に近づく。
そして扉の前に立つ。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける
そこには大切なものが
お父さん、お母さん
僕は当たり前のことを言った
「ただいま」