七日 午後 塩おにぎり
七日 午後 塩おにぎり
ーーカンカンカンーー
私は裕太くんは祭会場にある休憩スペースのテーブル席の椅子に向かい合わせになって座って焼きそばを食べた。
最初抱いた彼への違和感もいつの間にか私は慣れていた。
もう、夕日が落ちようとしている。あたりは賑わいを増していた。祭にくる人たちは私たちを囲むように通り過ぎてゆく。私はそれがスローモーションのように感じた。私は焼きそばを食べながらこの時間がすぎて行くのを待っているのかもしれない。
もうすぐで一週間が終わる。
ーー「間も無く、花火の打ち上げが始まります」ーー
そんなアナウンスがこの祭会場に設置されているスピーカーから聞こえてきた。
私は彼のことを見る。彼もまた焼きそばを口に運んでいた。
彼は私に気づくと微笑んだ。私もそれに返すように笑って見せる。
「夏美は優しいね」
彼は箸を置いて私にそう言った。私は優しいのだろうか。
「そうかな」
「だって、夏美は人に寄り添ってあげることのできる人間だもの」
「私、そんな人間じゃないよ」
私はうつむきながらそう言った。別にそういう人じゃ無い。ただ自分が弱い人間だから、誰かに助けて欲しくて寄生虫のようにしがみついてまとわりついていただけだ。
「夏美!」
彼はテーブルの上で私の両手をぎゅっと握った。
彼の呼ぶ私の名前は真剣なものだった。
「お父さんはもっとお前に自分を大切にして欲しいんだ」
「裕太くん、ちょっと痛い」
「だから、死のうとなんて考えないでくれ」
「何言って」
「俺に会いたいなんて言わないでくれ」
裕太くんは、決してふざけてるわけじゃない。彼の目をみればわかる。彼はいま本気なんだ。もしかして本当に彼は私のお父さんなんじゃないか。
「私、別に死のうなんて思ってないよ」
「そうか、そうだよな」
私の手を包む彼の手の力が緩む。
「クラリネットはあれから上達したか」
ハッとする。私は彼の顔を覗き込んだ。
「なんで」
「どうしたの?」
「なんで知ってるの」
明らかに彼は私のことを知りすぎている。まるでずっとそばにいたかのように
「それはお父さんだからな」
ーーお父さんーー
彼は本当にお父さん?
「コンクールはどうだった?」
でもそんなことは無いはず。だってあり得ないもん。こんなことが起きるなんて現実じゃ無い。
「最後にちょっと聞いておきたかったなー」
だってそんな・・・・・・。
「ねえ」
「ん?」
「本当にお父さんなの?」
ーー「お父さんだよ」ーー
私は動揺して言葉が出てこない。
「やっぱり、夏美は自分を大切にしたほうがいいよ」
「どうして」
「だって忘れようとしてたでしょ」
「忘れようと・・・・・・」
「そう、全部忘れようとしてた」
「思い出も自分のことも、何かを犠牲にして夏美は消えようとしていた」
「それは」
「まだ、お父さんのところに来たいと思うかい」
私は首を横に振った。
「じゃあ、思い出さなきゃいけない」
「思い出すって何を?」
「今日が特別な日だってこと」
「特別な日」
「そう特別な日、お父さんとお母さんが一番喜んだ日」
お父さんとお母さんが一番喜んだ日って・・・・・・。
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*+*+*+「夏美、お誕生日おめでとう」+*+*+*
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その瞬間大きな花火が打ち上がった。
綺麗で大きくてまるで詰め込まれていたものが一気に飛び散るように夜の大空に結晶を散らした。
彼は確かにそう言った。彼は涙を流した。彼は本当に裕太なのだろうか。
私は忘れてしまっただけなのではないか。自分の誕生日も、自分の大切な人にも。
いや、私は和正くんにあった日から決めていたんだ。
ーー思い出は忘れようってーー
ーー「なのにずるいよ」ーー
今更になってこんな形で思い出させるなんてずるすぎる。
私は目から涙が溢れ出てきた。もうあの時に乾かしたはずの涙が私の目から流れてきた。私はずっと一人だった。和正くんといてもずっと心の中では一人だった。彼はただ心が許せるというだけで開けてはいなかった。
人の温もりを感じないように避けてきたからだ。
なのにこんな形で思い出させるなんて。
私は涙が止まらない。
まさか、ここに来て私は二回目の泣きっ面を見せることになるなんて。
「私ね、お父さんに言いたいことがあったの」
「言いたいこと?」
「うん、いなくなってからずっと言いたかったこと」
私は喉が詰まった。
いざ、言いたいことがあったとしても目の前にその現状が用意されると言い出しにくくなる。
でもこれを伝えられるのは今しかない。
きっと最後かもしれないから私は精一杯叫んだ。
ーー「おかえり」ーー
ーーガタンゴトンガタンゴトンーー
ーージリジリジリーー
僕はただ、油と和正の成り行きを見ていることしかできない。
空を見上げると日は落ち始めあたりは夕焼けから星空に変わろうとしていた。
二人は花火が見える草むらのところに座った。
油は和正に寄り添いっぱなし。でもそれは彼女が和正のことを大切に思っているからこそ出ている行動だ。
「お母さん、あんまりくっつかれると恥ずかしいよ」
「いいじゃん、今日だけ」
彼女は離れようとしない。ただ寄り添って彼女は目をつぶりながら微笑んでいる。彼女は今頭の中で何を考えているのだろうか。和正と一緒にいた短い間のことでも思い出しているのだろうか。
でも、きっと僕には想像できないようなことなんだろう。
「お母さんにして欲しいことって何かないの?」
「んー特に思いつかないな」
油さんはお母さんとして和正にしてあげられることはしてあげたいと思っているに違いない。
でも彼女自身何をしていいかわからず和正にして欲しいことを聞いている。でも彼もまた何をして欲しいとかない。
「何か欲しいものとか」
「ないな」
「じゃあ、何かして欲しいこととか」
「うーん」
和正はまた腕を組んで悩む。
「俺、もうちっちゃい子じゃないし」
彼女はゆっくりと目を開ける。そしてその目の先に和正を写した。
「別に母親に求めることなんてないよ」
和正は空を見上げながらそう言った。
和正の母親が亡くなったのはまだ和正がおさない頃のこと。だから、油のお母さんの感覚が小さい子の母親だという感覚でしかなかったのだと思う。でも和正は成長しいまはほとんど独り立ちしている。
それに小さい頃から和正は一人でいてお父さんも仕事で会社にいることがほとんどだったからほぼ自立した生活を送っていたと言っても過言ではない。そんな和正が今更親に何かを甘える考えはないのだろう。
「でも、そばにはいて欲しいと思う」
和正はそういうと油の方を見た。
「うん、いるよ」
彼女は微笑んで言った。
ーー「間も無く、花火の打ち上げが始まります」ーー
祭り会場のスピーカーから花火の打ち上げを始める知らせが流れた。
「花火楽しみだね」
「そうだね」
二人は夜空を見上げる。
「前にもここに来て見たよね」
もうすぐ花火が打ち上がる。
「ここに来て、和正と一緒に花火を見上げたよね」
和正は聞いているのか聞いていないのかただ「うん」と言ってうなづいた
「あの時は三人できたよね。家族みんな揃って。お父さんもお母さんも和正も一緒になってみんなで手を繋いでそれで一緒に空を見上げて打ち上がる花火を」
和正は油の手を掴んだ。
「もう、いい」
「ん?」
「もういいから」
和正の目に涙が浮かんでいた。僕は和正の涙は初めて見た。あいつが泣くなんて一度もなかった。いつもニコニコしていてまるでどんなことを言ってもふざけて返して笑っているような奴が今、泣いている。
彼は油のことに気づいたのだろうか。
ーー「少しの間でも俺は幸せだったからもういい」ーー
和正は震えた声で言った。今まで我慢していた悲しみが一気に溢れ出て来たのだろう。彼が思っている本当の言葉が今、口を通して流れ出て来た。
彼女はそうんな彼を見て自分ももらい泣きしそうなのをこらえる。
彼女はまた和正に寄り添った。
「幸せなら良かった」
彼女はそう言って和正の腕を抱きしめる。
和正は自分の涙を腕で拭く。
油は急に立ち上がった。
「和正見てて!」
そういって油は和正の前に立つ。そしてしゃがんで
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*+*+*+「どっかーん!お母さん花火!」+*+*+*
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彼女は花火が打ち上がると同時に和正の前で飛び跳ねる。まるで美しく彼女が打ち上がったように見えた。
彼女は笑いながらその場で舞っている。
その光景は何か切なさを感じさせた。僕は和正の方に視線がゆく。
和正の目からは涙が流れ出ていた。涙は頬を伝って地面に落ちる。
そして楽しい時間はすぐに過ぎ去っていった。
僕は気づけば自分の体に戻っていた。
目の前には泣いている夏美さんがいる。僕にはこっちの状況はわからない。
でも彼女は微笑んで泣いていた。
彼女が僕の手を包み込んで握りながら。
僕たちは祭りを最後まで楽しみ、和正の実家へと向かっていた。道中は相変わらず木々が立ち並び、まるでどこかの映画の大きな生き物が現れそうな獣道だ。
和正と油は仲良く手をつないでいる。夏美さんと僕もまた手をつないで歩いていた。
和正は今どんな気持ちなのだろう。僕はそれだけが気になっていた。
「和正、背中に蝉の幼虫ついてる」
「どこ?」
「ほらここ」
「ほんとだ、でけえ」
「この蝉さん、寂しくて和正の背中にしがみついたのかな?」
「そうなんかな。とりあえず、どっかに返してくるよ」
和正はそう言って油から蝉の幼虫を受け取り、茂みの奥に入っていこうとする
彼女はとっさに和正の腕を引っ張る。
「どうしたの?油さん」
「いや、なんでも。でも、ほら、ここら辺でもいいんじゃない?」
「そうですかね。もっと人に見つからないような草木が生い茂ってるところとかに」
「どうせ人なんて通らないんだしここら辺でいいと思うよ」
「確かにそうですね」
和正は地面に幼虫を優しく置いた。蝉の幼虫はゆっくり歩いて茂みの方へと歩いていく。
三人は幼虫がちゃんと安全なところまで行くのを見守っていたが僕はそれより気になっていたことがあった。
それは彼女が和正の腕を掴んだときに小声で『いかないで』と言ったことだ。
和正にはそれが聞こえなかったのかもしれないけれど僕にははっきりと聞こえた。彼女は和正に向かって確かにその言葉を発したのだ。
幼虫は無事に茂みの中へと入って言った。
僕たち四人はまた歩き出す。
「ねえ、和正。本当にお母さんにして欲しいことない?」
和正はまた腕を組んで考えた。
「うーん。じゃあ、おにぎりが食べたいかな。お母さんが愛情を込めてる作ってくれたおにぎり」
油は和正に笑顔で
「じゃあ、作ってあげる!」
真な彼女の言葉を聞いた和正は
ーー横に首を振ったーー
「裕太にも言ったんですけど、俺のお母さんは俺を産んだ人でしかない。だから」
彼女はハッとした顔で彼の顔を覗き込んでいた。
「それは、油さんには作れないですよ」
彼女は笑顔を我慢して作っていた。いまにも何かが敗れてしまいそうな笑顔。僕はしっかりと油が歯を食いしばるところを見ていた。
「そ、そうだよね。ごめんね」
油はそのまま俯く。多分、油が今までで一番落ち込んでいるのがこの瞬間だ。
「あ、別に油さんのおにぎりが食べたくないって訳じゃないですよ!」
和正はすぐに油を慰めるように言った。僕はそうじゃないと言いたい。でも、部外者の僕が何かを言える立場じゃないのは分かっている。だから僕は何も言わない。
いつの間にか、家についていた。
「和正、待ってて」
油は家に入って扉を閉める
「和正、入っていいよ」
和正は彼女にそう言われて扉を開ける。すると彼女が扉の前で腕を組んで満面の笑みで立っていた。
「おかえり、和正」
和正は一瞬動揺するが拳を固めて
「ただいま。お母さん」
と言った。その言葉にはどれだけの重みがあったのだろう。その後、油と和正は二人でふざけ始めた。
「もう一回やろうぜ。どっちが大きな声で言えるか勝負だ!」
「いいよ!和正なんかに負けないんだから!」
それからただいまとおかえり合戦。
「ただいま!」
「おかえり!」
「ただいまああ!」
「おかえりいいいい!」
「ただいまあああああああああ!」
「おかえりいいいいいいいいいいいい!」
和正は思いっきり息を吸う。
「ただいまあああああああああああああああああああ!」
和正は全力で大きな声で空に向かって叫んだ。
「負けたー!」
油さんはそう言って玄関の奥へと走って行く。僕はその後ろ姿を見て彼女から何かを感じた。その瞬間僕は彼女の後を追いかけていた。 彼女は玄関の角で立ちすくんでいた。
「油さん」
だから僕は彼女の名前を言った。いやこれは違う。だから僕は呼んであげなきゃいけないと思う。
本当の名前で。
「向日葵・・・・・・さん」
彼女は僕の方に振り返った。
「私ね、お母さんだから・・・・・・泣いちゃいけないんだ。悲しくて泣いちゃいけないんだ。お母さんが泣いていいのは嬉しい時。息子が成長して、それを見て嬉しくてたまらない時だけなんだよ。だから、私は泣かない」
僕は泣いてもいいと思う。和正に本当の母親だと言ってもいいと思う。なのにどうして彼女は言うことを拒むのだろう。
「どうして・・・・・・言わないんですか」
僕は出てしまった。言ってよかったのだろうかと思いながらも出てしまった一言。
「私は死んでるから。少なくとも和正の母親はもうこの世にはいないから」
「何言ってるんですか」
彼女は幽霊でもなんでもない。ちゃんと実態があってちゃんと思いを伝えられる。だからこそ伝えなきゃならない。和正に本当のことを言わなきゃいけないと思う。
僕は決心した。
これは言わなきゃいけない。
伝えなきゃいけないことだ。
僕は和正の元へ行こうとする。
だが、彼女に止められた。とても強く僕の腕を握って彼女は僕のことを止めた。
「お願い、言わないで」
「でも」
彼女は僕の腕をしっかりと握る。暗い廊下の中、月明かりだけが僕たちを照らしていた。
「でもこのまま言わなきゃ」
「いいの!」
彼女は今までにない強い口調で言った。
「お願い、やめて。これ以上苦しめないで」
僕が彼女を苦しめた?彼女にとって和正に自分が母親だと気づかれるのが苦しい?
でも冷静に考えたらそうだ。だって今日いなくなるのに今更こんなこと言ったってさみしさに胸を締め付けられるだけだ。
「すみませんでした」
僕は彼女に謝り、自分の寝る部屋に入る。自分が犯したことに罪深さを感じた。どうしてあんな余計なことを朝に言ってしまったんだろう。言わなければよかった。
僕は壁伝いにしゃがみ込む。僕は彼女のためにしてあげた事をまるで良しとしていたのかもしれない。何も考えず、僕の思いつきで安易な考えが彼女を苦しめ傷つけた。
でも僕には最善策がわからなかった。僕には彼女をどうこうしてあげる資格がそもそもないのかもしれない。彼女は今どんな顔をしているのか。ひどく落ち込み悲しみに溢れる顔をしているのか。僕は怖かった。彼女に嫌われることでもなく彼女から恨まれることでもない。ただ人を傷つけた僕の心がこれを良しとして、僕自身は何も悪くないと叫んでいるような気がして怖いのだ。そして何より彼女の心で弄んだ僕自身が許せない。
「裕太くん」
扉越しに彼女の声が聞こえた。
「ごめん、私が悪かった。だから、自分を責めないで」
たとえ彼女がなんと言おうと僕は僕がした事を許せない。
「家族ごっこをしたのはすごく楽しかった。それは本当だよ」
彼女はそう言った。
「ただ、どうしても和正にお母さんって言われると離れたくないって思いが強くなっちゃって」
僕は今更そのことに気づいたのだ。
「だから、裕太くんのしてくれたことはすごく嬉しかったよ」
彼女の嬉しかったで僕の心は少し救われた。
そしていきなり扉が開き電気がつく。
「だからご褒美あげる」
彼女は僕を押し倒し馬乗りになる。さっきの雰囲気とは違い、いつもの油に戻っていた。
「裕太くん、今日わたしの最後の日だから一緒にエッ」
僕は彼女の口を押さえた。彼女は僕の手を口から外す
「やだ!積極的!」
彼女はいつものようにニコリと笑いながらいう。僕は彼女に真剣な眼差しでいった。
「和正と寝たらどうですか」
「どうして?」
彼女は「エヘヘへ」と笑った。
「いいの!和正にはお母さんって言ってもらえたから」
本当にこれで良かったのだろうか。彼女は確かに満足そうな顔をしている。でも僕の中ではもやもやが途絶えない。僕は布団を敷いて就寝支度をする。彼女もまた自分の布団を敷く。
ちなみに和正と夏美さんはすでに寝たらしい。
「じゃあ電気消しますよ」
「うん、裕太くんが寝たら襲うね」
最後だというのに呑気なものだ。僕はもうどうにでもしろという感じで思い、電気を消す。
そして僕は眠りについた。
だが真夜中に僕は目が覚めてしまった。すると台所の明かりがついているのに気がつく。台所の方へ静かに行った。するとそこには油が一人でおにぎりを作っている。
「おーにーぎーり、にぎにぎ!」
油は一人で歌いながら楽しそうにおにぎりを作っている。
「かーずーまーさと、にぎにぎ!」
なんか変わった歌だ。
「おーかーあーさーんと、にっぎにっぎにっぎ!」
彼女の手が止まる。
彼女は一旦今持ってた塩おにぎりをお皿におく。そして顔を手で抑えた。
油の目には涙が浮かんでいた。彼女は涙を腕でふきながらおにぎりを作る。声を出して泣きそうなのをこらえて静かに塩おにぎりを作っていた。
彼女の周りが光りだす。まるで天に帰るように。そして背中に羽が生えて万華鏡のように世界が彩られる。
羽に写されたのは思い出の結晶。
+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
「見て見て!」
「わあ!すごい!大きなカブトムシ」
「俺が育ててもっと大きくするんだ!」
「あ!」
「どうしたの?お母さん」
「背中!」
「背中?」
「蝉の子供がついてる!」
「どこどこ」
「はい!取れた」
「うわーこっちもでっけー」
「蝉さん、きっとお母ちゃんが待ってるから返してきてあげなさい」
「虫ってお母さんいるの?」
「いるよ」
「でも、幼虫はみんな土の中にいるじゃん。それに蝉のお母さんは子供を産んですぐに死んじゃうんでしょ?」
「うん、でもいるよ。遠くから見守ってるの」
「遠くから?」
「うん、遠くから見てるんだよ」
「ふーん」
「だから、返してきてあげなさい」
「分かった!行ってくるね!お母ちゃん!」
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ーー泣いちゃダメ、泣いちゃダメーー
ーーだってこれ以上しょっぱくしたら美味しくなくなっちゃうよーー
ーーダメだよ泣いちゃーー
「うぅ」
ダメ、もう限界
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
ーーポチャンーー
「ぼんどうのお!ぎもぢでえ!おがえりでえ!だだいばっでえ!」
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
「ざいごに!ぼんどうのお!ぎもぢでえ!おがあぢゃんっで!いっで!ぼじがっだよおお!」
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
「だがらあ!!ぎえだぐないよお!!がずまざど!!いっじょに!!いだいよお!!」
ーージリジリジリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリジリーー
ーーミーンミーンミーンーー
ーージリジリジリジリーー
ーーミーンミーンーー
ーージリジリジリーー
ーーミーンーー
「いっしょに・・・・・・いたいよ」
ーーミンミンミンミンーー