バタフライ
「あれ、どこに行ったんだっけ」
ふと目覚め、ふとその事を思い出し、それを探し出す。誰よりも早起きをしなければいけない私にとっては、重要なのだ。生きる上で欠かせないアイテムであり、必要不可欠であるものと言っても過言ではないだろう。
かといって、そこまで悪いと言う訳でもない。仕方ないと諦めて私は仕度を始める。料理の仕方はかつて愛し合った者から習った。今はどうしているのだろうとだけ考える事はあるが、それ以上は深く考えないようにしている。所詮いまや他人の人生だ。他人の人生を考えるほど、私の人生に余裕はないのだ。
ふと窓の外を見る。天気は晴天。自宅の庭にある花に蝶が止まっていた。ひらひらと舞うその姿は、まるで人生のよう。無関係ではあるけれど、バタフライエフェクトとは良く言ったものである。
すると階段から足音が聞こえてきた。私は急いで視線を台所に戻す。
相手から「お父さん」と声掛けてきて、そのまま無言で私の隣に立って手伝ってくれた。
ひと段落して「もう大丈夫だよ」と言った時にふと思い出し、
「そういえば、私の眼鏡を探し出してきてくれないか?」と続けて尋ねてみた。
すると何を思ったのかいきなり笑い出し、「ここにあるよ」と私自身の額から眼鏡を取って渡してくれた。
私も思わず笑って「こんな所にあったのか、ありがとう」と答えた。私はこの時間を大切にしたいと考えている。
さり気なく横目で窓の外を見ると、もう蝶はいなくなっていた。