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エンチュのくまのゆめ  作者: でうく
6/7

ねむり

ミカゲはカネリの傷口を舐め、膿や蛆虫を取り除いて甲斐甲斐しく世話をした。傷ついた脚を引き摺って祭壇にある食べ物や酒を取りカネリに食べさせる。母の変り果てた姿を見ても何も言わず、カネリが寝ついた後に独り、母の頭部の前で啜り泣いた。




(やが)て、祭壇の上にあった食べ物が無くなり、ミカゲは外へ出て餌となる物を探した。併し、傷ついて遠出できぬ脚にこの冬の季節では木の実や小さな虫を見つけるのがやっとで、とてもカネリの腹を充たせるものではなかった。食糧の殆どをカネリに食べさせ、自らは外の雪しか口にしていなかったミカゲは、歩く事さえも苦しくなっていた。




―――真冬の時期は過ぎたにも(かかわ)らず、寒さは更に厳しくなっている。深々と降り続ける雪が凡ての音を掻き消して、耳から入ってくる情報が何ら無くして仕舞う。カネリが不安になって目を開くと、ミカゲはすぐ隣でカネリに寄り添い、虚ろな眼をして微笑んでいた。

「―――なに?」

ミカゲの碧い眼は輝きを失っていた。誰よりも活発で、ちょこまかとよく動き回っていた面影はもう感じられない。

「寂しがりやだなぁ、カネリは」

だがその男みたいな話し方やガキ大将の様な面倒見の良さは全く変っていない。この様な時になっても、弱音は決して吐かなかった。

ミカゲはもう、餌を探しに外へ出る事はしなかった。自分の命の限界を(さと)ったのだ。

カネリは昔から、気が弱くて、姉が一緒に居ないといけない寂しがりやだった。反面、姉をよく慕い、従順で、自分の事よりも他者の事を先に考える優しき者であった。何を欲しがる訳でもなく、只傍に居て欲しいと想う。弟がそういう性格である事を、ミカゲはよく知っていたのである。

ミカゲは幼き頃に()っていたよう、熊に変身してカネリをふわふわした毛で包んで遣った。あの頃より随分と体長が大きくなっていたが、毛むくじゃらでも痩せているのが判る様だった。

「・・・・・・」

・・・最早(もはや)変身能力を持たないカネリには、その遊び心は魔法の様にさえ感じられた。・・・・・・暖かい。ぬいぐるみに抱かれている様で、カネリの心細かった気持ちは少しずつ和らいでゆく。

・・・ミカゲの緩慢な鼓動を、すぐ近くで感じる。自分の鼓動も、そう遠くない内に停止(とま)るだろう。

「・・・・・・ごめん・・・な、さい」

カネリの碧い眼が残る側から、澄んだ涙が流れる。彼をこの場処に閉じ込めている鉄の罠は、彼等姉弟を傷つける許で一向に外れる気配を見せない。

せめて、此処から離れる事が出来ていたら。


“何言ってるの”


―――ミカゲはペロペロとカネリを舐めた。


“ミカゲはカネリのおねえさんなんだから、ミカゲがカネリをまもるの”


・・・ミカゲの声は、とても心強かった。

カネリは気持ち良さそうに、遺された碧い眼を細める。

(姉さん――――・・・)

眠気がミカゲとカネリを誘う。岩屋戸は吹雪がひどくなっているのに、身体は温まっている。之はミカゲの御蔭だと、カネリは思った。母親の髑髏が見守る(もと)で、ふたりは安らかな眠りに就いた。

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