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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
9/25

1-07:『魔法少女の大切なもの』

「小都、いい加減泣き止みなさい」


 お母さんが病院に着いたとき、わたしは廊下で号泣していた。

 お母さんは慌てて先生呼びにいったり、看護師さんが来てあーだこーだ言ったりなんやかんやと大騒動になった。

 みんなから心配されて、身体の異常で何かあったのではと、緊急検査まで始めようとする始末。わたしのせいなんだけど。いや、やっぱ師匠のせいだ。


 泣き過ぎて咽て声が出せなかったので、余計に事態が悪化していった。

 ようやく声が出せたのが、検査室に向かう担架に乗せられようとした時だった。

 ほんと恥ずかしいったらありゃしない。


 そして今、病室に戻りベッドの上で鼻をかんでいる。お母さんが買ってくれたティッシュの箱がもう空になりそうだった。


「だっでぇ、出るもんばじょうがなぃじゃない」


 かんだ鼻がヒリヒリと痛む。

 涙が勝手にぼろぼろと流れ落ちていく。


 身体の中の涙が全部流れたら止まるのだろう。そんなどーでもいい事を考えて現実逃避だ。


「身体の方は、もう大丈夫なのね?」


 こくりと頷き返す。身体はね。大丈夫なのよ。身体は。


 ちくちょー、師匠めぇ。今度会ったら噛み付いてやるっ。


 そりゃーわたしが言っちゃーいけないこと、言ったけどさぁ? 何でそれでわたしがこんな風にならなきゃいけないわけ? おかしいよ。絶対。


 でも次に会ったら、わたしたちどうなるんだろう。

 嫌われちゃったかな……。もう会ってくれないのかな……。何か怖い。よく解らないけど、怖い。


「お母さん、お仕事は?」


「今日は、もうお休みを貰って来た。」


 お母さんは会社員をしている。OLってやつ? オフィスレディー? まあそんな感じ。

 わたしの急を聞いて飛んで帰って来てくれたみたい。

 有り難いやら、申し訳ないやら。


「そろそろ落ち着いた?」


 お母さんが背中を擦ってくれる。気持ちいい。

 幸福ってこういうモノだったんだぁーって実感しちゃう系。


「小都のあんな大泣き、久しぶりね」


「わたしこんなに泣いたことあったっけ?」


 まったく記憶にないよ。わたしはそんなに泣き虫じゃないし。普通だし。


「あった、あったわよう。いつだったか、あなたが大切にしていた、大事なモノをなくしたとき」


 ズキンッと心が傷んだ。それは過去の記憶を思い出したからなのか、それとも今わたしが大事なモノをなくしたと思っているからなのか……。


「あれは、そうそう、あんたが大事にしていた大っきなクマのぬいぐるみが、燃やされたときだったかしら」


 そうだ、思い出した。ほんとに幼い頃にお父さんから貰った、わたしの背丈近くもあった大っきなクマのぬいぐるみだ。

 すっごく気にいっちゃって、毎日一緒に過ごしたんだ。家の中にいる時はいつも抱き抱えて移動しては側に置いてた。寝る時は抱いて寝てた。

 その子をチミーちゃんと名付けて、本当に生きているかのように可愛がった。名前の由来はその子が首からぶら下げていた麻紐でこしらえたポーチに英語でそんな風に書かれていたからそれを名前にした。名札みたいに見えたから。


 お正月のお参りに神社に行く時、一緒に連れて行った。この子にもちゃんとお参りさせてあげないと可哀想。そう思ったんだ。

 近所の知り合いの子供たちもお参りに来ていたので、チミーちゃんを紹介して自慢してたら、悪ガキがチミーちゃんを引っ掴んで、ぽいっと焚き火に焼べちゃったんだ。


 そのとき、人間ってパニックになると頭が真っ白になるって初めて知った。


 しばらく誰も動けなかった。


 その後のことは、わたしは記憶がない。お母さんから聞いた話では、半狂乱になって焚き火に突っ込もうとするわたしを、側にいた華澄が必死に抑え付けていたとのこと。

 事情を知った周りの大人たちか焚き火を消したけど、チミーちゃんの姿は、もうほとんど何も残ってなかったそうだ。


 そんな記憶。


 ずっと忘れてたなぁ。


 今思い出しても涙が出て来ちゃった。


「って、智奈? 何で入り口から覗き込んでるの? 入っておいでよ」


「いやぁ、何かあんたが泣いてたし入り辛くて」


「大鳥さん、こんにちは。いつも小都がご迷惑ばかり掛けて、ごめんなさいねぇ」


「あ、いえいえ、そんなそんな。あはは」


「智奈ぁ、そーいう時はぁ、そんなことないです、いつも私の方がお世話になりっ放しで感謝仕切れません、とか言うのが礼儀でしょーがー」


「あんたにする感謝なんてないわっ! あっ……、ごめんなさい、お母様。えっと、少しは感謝するところも、いえいえ、普通に感謝するところもちゃんとあってですねぇ」


「うふふ。そんなに気を使わなくてもいいですよ。この子が多くの方々に迷惑掛けっぱなしなのは私が一番よくわかってますから」


 んーん? 何かやっぱりわたしがおかしいって結論になってる? ひどいなぁ。


「心配してたけど、元気そうね。良かったわ」


 智奈が側に寄って来たとき、憶えの有る獣臭がした。


 まさか?! まだアイツがっ?! 犬がいるの?


「智奈、身体は問題ないの? どっか変だったり、痛かったりしない?」


「うん、もう大丈夫。元気元気よ」


 そう言う彼女は、朝のような強がっている様子には見えない。

 でもこの臭いは間違いようがない。アイツが、犬っころが智奈の中にまだいる!


 魔法のステッキを手にしようとして、検査着姿だったことに気付いた。


「えーっと、わたしのステッキ、知らない?」


 いつもは制服のスカートの内ポケットに入れてるけど、保健室で闘った後わたしどうしたっけ? ひょっとして、保健室で落とした?


 二人共知らないと言い、制服のスカートを取って貰ってポケットを探っても見つからなかった。

 じゃあ、やっぱり保健室かぁ。ちくちょー。


 ステッキがないと気分が乗らないんだよねぇ。でもない物はしょーがない。


 今は魔法少女を休業だぁ。


 今のわたしは、そう


 魔術師『風見道真』の一番弟子、見習い魔術師の『真琴小都』だっ!


 普段は魔法少女のノリでやってるけど、一応わたしも魔術師なんだから大丈夫。ちゃんと出来る。


 ピンク魔法陣をイメージし、わたしの身体の下に大きく展開する。

 それから、その魔法陣をコピーして、もう一つ魔法陣を作り、それを上昇させる。

 ん? 少し魔法陣が小さかった。ちょっと智奈が立っているところまで届かない。


「智奈ぁ、もっとちこー寄れ」


「なに急に? 気持ち悪い」


 ぶつくさ文句言いながらも、ちゃんと近くに来てくれる素直な智奈が大好きよ。


 智奈が魔法陣の中に入ったので、一気に結界を発動する。


「我、この不浄なるものをここに浄化す」


「小都? あんた何言ってんの?」


「我が御国、峻厳にして荘厳なり。永遠に、斯く在らんことを」


 特別サービスでわたしの全力全開でぶっ飛ばして上げる。覚悟しな犬っころ! あんたなんかサクッと片付けて師匠に褒めてもらうんだから! もう負けない。師匠にお前は来るなとか言わせない。わたしがむっちゃ強くて、全然平気だってところ見せてやるんだから!


 立ち上がり、右の人差し指と中指を揃えて伸ばす。

 智奈が唖然とした顔で見てるけど、構わない。今コイツを倒す。後のことは、後で考える!


「ヨド・ヘー・ヴァウ・ヘー アードーナーイー エーヘーイーエー アーグラー」


 前後左右に四大精霊を召喚。周囲に燃える五芒星。そした頭の上に六芒星をイメージ。


 外には出さない。この結界の中で浄化してやるぅ。

 

「あっ、い、痛たたたっ」


 智奈が急にお腹を抱えて苦しみ出した。

 え? なんで? えっ? わたし、なんか間違った?

 あれ? ど、どうしよう? あわわっ


「小都っ! お前、何やってんだっ!」


「あっ? 師匠ぅぅ! あ、わたし、わたし、あわわ」


 師匠と華澄が病室に飛び込んで来た。

 その瞬間、わたしの魔法陣が閃光と共にバチンッと音を立てて弾け飛んだ。

 紙くずのように、ふわりと散る魔力の火花。


 それはわたしの心そのものだった。

 小都の過去話を少し。

 なんだろう。書いてて涙が……。

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