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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
7/25

1-05:『魔法少女は後悔する』

 痛いよー痛いよー。


 いっその事、痛みなんて無かったらいいのに。

 噛まれた脇腹が痛い。奥まで痛いよー。


 うーちくちょー。あの犬ぅぅ。

 身体じゃない部分の傷は治癒魔法でしか治せない。っけど、痛過ぎてそれどころじゃない。今無理ぃ。自分では無理ぃ。


 病院の精密検査では、異常なし。


 当たり前だぁぁぁっ!


 鎮痛剤を打ったって駄目なのよぅぅぅ。ベッドで安静にしてても無理っぽいんですけどぉ。


 うううっ、師匠ぅぅ。たすけてぇぇぇ。


「――ち! ――まち! 小都!」


 ああ、師匠が呼んでる。また幻聴ががが。

 もう終わる、わたし終わっちゃう。華の女子高生。もっとエンジョイしたかったなぁ。


「目を覚ませっ! おい!」


 身体を掴まれてむっちゃ揺さぶられてるぅぅ。痛い痛い。頭、頭。後頭部に何か当たってる。痛い痛い。壁、壁に当たってる。ちょっ、揺さぶんなぁぁっ!


 わたしに掴み掛かって揺さぶっていた誰かを思いっ切り突き飛ばしてやったわっ。痛いっつーの。


 突き飛ばした相手はそのまま後ろに転んで尻餅を付いた。その誰かは、ぽかんと口を開けてわたしを見つめている。師匠だった。


「師匠? 何してるんですか?」


「お前が、救急車で運ばれたって、聞いたから、来たんじゃ、ねえか、はぁはぁ」


 師匠ったらあ、息上がっちゃってぇ。わたしが心配で仕方なかったのね。そんな必死な姿見せられたわたし……。あ、まさか、師匠——わたしのことを?! ふふーん。それはそれで悪い気はしないかな。

 

「それで、どうなんだ? 大丈夫なのか?」


 師匠は立ち上がってベッドに腰掛けた。


 あっ?! そうだ! わたし今っ!


 慌てて自分の状態を確認する。今わたしは検査着を着ている。乱れは少しだけね。大丈夫大丈夫。髪は、えーと鏡、鏡。

 

「ししょー、鏡ちょーだい」


「何だいきなり? そんなもん持ってねーよ」


「いや、ちょっと身だしなみをね、整えないとね、一応女の子だし」


 まあ無いならしょうがないか。


「ししょー、こっち見ないで」


「何なんだよ」


「たぶん髪ボサボサだから」


 取り敢えず手櫛で整える。やらないよりはマシよね。それに緩くなっていたツインテールもやり直さないと。


「さっきまでむっちゃ苦しそうに藻掻いてたけど、今は平気なのか?」


 そう言われて初めて、痛みがほとんど無くなっているのに気が付いた。


「あれれ? なんか師匠が来たら治っちゃったみたい。さすが師匠ぉ! なんかしたの?」


「いや、俺は何もしてないぞ?」


 えええ?! じゃあ何が起こったの? さっきまで死ぬかと思ってたのに。


「何にせよ良かった。大丈夫そうだな。うん……。よかった」


 わたしがあっち向いてって言ったので、師匠の顔は見えない。だからその表情は解らなかった。でも師匠の声音は、凄く安堵したものだった。その事がなんだか嬉しかった。


「いったい何があったんだ?」


 師匠の質問に、朝の出来事を思い付くままに話した。智奈の様子がおかしくなったこと、犬を見て怯えた様子、犬なんか居なかったこと、保健室でわたしが見えない犬に襲われたこと。

 師匠は、わたしの一言一句漏らさない様に真剣に耳を傾けてた。わたしの言葉の中から真相を掴み取ろうとしているのかな? なんかそういう師匠の真剣な雰囲気は、やっぱりかっこいい。さすが魔術師だと思うのだ。


「そのお前の級友の智奈って子は、ここ最近ずっと調子が悪そうだったんだな?」


「うん。そうだよ。1週間。いや~2週間ぐらいだったかなぁ」


「それでその子をヒーリングしていたときに、下腹部から犬が出てきたんだな?」


「うんうん。わたしのバイオレットシャワーがバシバシって弾かれて、なにっ? って思ったらでっかい犬っぽいのが出てきた。あ、見えない奴だったけど、なんかそんな雰囲気を感じたの」


「そっか。よし大体わかった。後は俺に任せておけ。お前はもうこの件には関わるな。いいな?」


「えー、やだ。わたしアイツに仕返ししたい。逃したし。今度は逃さないのよ。こんどこそ、完全に消滅させて成仏させてやるわっ!」


 今度こそ、ちゃんとやる。次は失敗しないんだから!


「お前なあ。今回助かったのは運が良かったんだぞ! 次は死んじまうかも知れないんだぞ!」


 そんなの……そんなの!


「そんなの師匠だって危ないじゃんかっ! 魔法だって使えないくせに!」


 後悔先に立たずだ。口に出して相手に伝わってしまった言葉は無かったことに出来ない。

 「魔法が使えない」、それは師匠を一番ひどく傷付ける。師匠にとって魔法はアイデンティティーその物だったに違いない。


 師匠が封印処分されたのは昨年の夏。そのひと月程前にわたしは師匠の弟子になった。そのとき師匠は魔法が使えていた。楽しそうにわたしに魔法を披露しては、魔法は見せびらかすものじゃ無いと自戒を込めて注意してた。

 封印されたとき、師匠はわたしに済まなさそうに「もうお前に教えられない。他を当たってくれ」って言った。凄く悔しそうだった。

 わたしはそんな師匠を見て思ったんだ。この人に付いて行こうって。


「あのっ、師匠ぅっ! あのっ、そうじゃ無くて、えっと、えっと」


「わりぃ、もう帰るわ」


「師匠ぅぅっ!」


 去りゆく師匠の背に呼び掛けた。


 「あのっ、あのっ……! ご、ごめんなさいっ! 本当に……ごめんなさい……!」


 振り返ること無く病室を出て行く師匠を、追い掛ける。

 急に走ったもんだから、ずっと寝てたもんだから、脚が思い通りに動かずに師匠に追い付けず、病室を出たところで転んでしまった。


 痛い……


 犬に噛まれた傷より痛いよ——


 師匠の足音が、静かに遠ざかっていく。


 師匠……


 ごめんなさい……



 抑えよう、抑えようとして、抑えられませんでした。シリアス展開。


 もう少し、小都と師匠の間柄に立ち入ったエピソードを前に挟んだ方が良かっただろうなぁって感じながら、アクセル全開でぶっ飛ばします。


 振り向かない。


 今はまだ

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