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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
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1-04:『魔術師と華澄』

「ねぇ、あなた? パンクってどうやって治すのか知ってる?」


 目の前の白いスーツの女性は、高校生の俺――風見道真に何を訊くのか? まだ車など運転した事もねえのに、知るかよ。

 まあ、中には高校生でも知ってる奴は居るかもだが。


「そうよねぇ。知らないよねえ。困ったなぁ。私も知らないんだよねぇ」


 おぃ、まじか? 車運転してる人がそれでいいのか? とんでもねえな。


 しょうがないのでスマホで調べてやる。


「スペアタイヤに交換するみたいです。そんで、カーショップでちゃんとしたタイヤに交換してもらうのがいいみたいですよ」


「すぺあたいやってなに? それに私、タイヤ交換とか出来ないし」


 おぉう。そうなのか? ドライバーってそういうものなのか? まあ、いい。そういう場合は、えーと。


「JAFに連絡して来てもらうみたいですね」


 スマホを見せてJAFの連絡先を伝える。


「ありがとう。さっそく連絡するね」


 おろおろしてた彼女は、ぱぁっと明るい顔になって喜んだ。子供みたいな人だと思った。


「ところで君、高校生?」


 電話を終えた彼女は、まるで学校の先生のような口調で詰問してきた。


「えっ? あ、はい。そうです」


「学校はどうしたの?」


「今日は、創立記念日で休みなんです」


「じゃあ、なんで制服着てるの?」


 あっ、しまったぁ。学校には時間があれば後で行こうと思っていたので、制服で調査してたんだった。


「いやぁ〜、私服代わりに着てるんですよ」


 苦しいかな。


「ふーん。まあいいわ。早く学校行きなさいね」


 バレバレじゃねぇか。って当たり前か。というかこの人、自分のピンチはクリアしたから、俺は用済みって感じだよな。ひでえな。


「はいはい。行きますよ。もう用無しみたいですしね」


「え? あ、ごめんなさい。その、ありがとうね」


 女性はずるい。その笑顔で全部許してしまいそうになる。


 こほん


「あなたも気を付けて運転してくださいね。では」


 くるりと背を向けて歩き出す。


 去り際にいい香りがしたのは、香水のせいだろうか。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 学校に着いたのは昼休み前だった。

 まあこの時間を狙って来たのだが。

 お昼休みのチャイムを待って、食堂に入る。

 食堂は、早めに授業が終ったクラスの生徒たちがちらほらといた。


 そうだ、小都に連絡して置かないと。


 朝のアレは、恐らく俺を狙って襲ってきた。俺たちが嗅ぎ回っている事を、この前の一件で知ったのだろう。或いは、前回の単なる仕返しか。


 電話繋がらねえ。電源、切ってやがる。……アイツめ。


 まあ学校だしな。相手も襲って来るような無茶はしねぇか。


「此処いいかしら?」


 句由比華澄がトレイを持ってテーブルの向かいに立っていた。

 こいつは確か小都の級友だったな。過去に何度か話した事がある程度で、お昼休みの食事を一緒の席で摂るような間柄じゃない。それに空いている席は他にも沢山ある。


「どうぞご自由に。俺の席じゃないんでな」


「歓迎されてないようね。貴方に嫌われる憶えは無いんだけれど。もちろん、好かれる憶えもないけれど」


「余計な一言を付け加えるな。さっさと要件を云え。用が無けりゃ、わざわざ来ねぇだろ?」


 俺の言葉をさらりと聞き流して席に座り、持って来た生姜焼き定食を食べ始めた。


「俺に用ってことはつまり、小都の事だな?」


 もぐもぐと黙って食べ続けている。ガン無視してやがる。こういうところが苦手なんだよ……こいつの。


「小都がまた何かやらかしたのか?」


 俺が本物の魔術師で、小都が弟子なのは誰も知らない。イレズーレの奴ら以外は。

 華澄は、小都の古くからの親友だと小都から訊いた。このいつもツンっと澄ました優等生づらの華澄と、ガキンチョみたいな小都との接点は想像出来ない。

 しかしながらこの華澄という奴は、小都の事が絡むと普段はクールな癖に、やけに熱くなりやがる。そういう場面に過去何度か遭遇している。


 一応、俺と小都の関係は、趣味で魔術を研究している仲間という事にしている。何故なら、小都の奴が『魔法少女愛好の同士』とか言い触らし始めやがったからだ。ふざけんな、それじゃ俺が変態みたいじゃねえか。


 そんな事情があり、華澄も俺たちの事を魔術趣味の同士という認識だ。


「貴方の魔法少女愛好の同士は、救急車で搬送されたわ」


 違った。コイツはわざとだ。俺が嫌がるのを解って言ってやがる。


 ん? 待て。今コイツなんて言った?


「貴方が何をしているかは知らないし興味も無いけど、あの子に何かあったら赦さないから」


 まさか、こっちにも奴が来たのか?


「ご馳走さま」


「おい! ちょっと待て」


 食事を終えて立ち去ろうとする華澄を呼び止める。


「なに?」


 華澄の眼が熱さのある視線から、氷の様な冷たい視線に変わる。


「アイツは大丈夫なのか?」


「自分で確かめたらどう?」


 華澄の責める視線が痛い。解っているさ。俺がアイツを、小都を巻き込んだんだ。

 魔術事件の調査。それは俺が負った責務だ。本来、小都には何の関係の無い事だ。弟子である事をいいことに、そして魔法が使える事をいいことに、俺がいい様に使ってたんだ。


 ははは……


 俺は自分が犯した罪の贖罪と思ってやって来たのに、また新たな罪を犯してしまったのか。


 ふと視線を落とすと、テーブルの上に紙切れが置かれていた。そこに病院名が書かれている。華澄が書いたものに違いない。

 そっか。華澄は、これを渡す為に来たのか。


 そのメモを引っ掴んで病院へ向かおうと一歩踏み出したとき、ふとした疑問が湧いた。


 なんで華澄は俺のせいだと思っているんだ? 彼女は今起きている事を何も知らない筈だ。


「小都の事を聴いたときの貴方、顔が青褪めていたわよ。まるで自分のせいだと言わんばかりね」


 そう言い残して彼女は立ち去った。


 え? なんで華澄は一緒に来ないんだ? 小都が心配なのはアイツも同じ筈だ。おかしい。いや、今はいい。


 今は……


 一刻も早く、小都の元へ行かなければ。

 今回は少し暗めな話になりました。

 あまり暗くならないようは努めましたけどね。

 暗い話。好きなんです。

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