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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
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1-02:『魔術師』

 ここ数日、連続通り魔殺人事件が発生している。


 被害者は全員男性である。偶然か、意図的か?


 そして、魔術協会のイレズーレからの指令はこの事件に関する魔術的要素の調査である。

 つまり、この事件に魔術が関与しているか否か? それを調べろという事だ。


 事件はすべて無関係な男性が被害者で、魔術的な痕跡もない。ただ一つ、全員が干物のように干からびていることを除いては。

 事件はいずれもこの付近一帯で起きている。被害者の死亡推定時刻から犯行は夜間に行われていると予想されている。今のところ発表されている目撃証言は無し。

 唯一存在する魔術的要素は、被害者の状態が干乾ひからびている事だ。その状態はまるで干物の様だという。

 表現が曖昧なのは、俺が直接見た訳ではなく伝え聞きだからだ。イレズーレからの指令を伝えて来た魔術師、魔法名をクユビタスという奴からの口伝えであるからだ。


 なんとも仕事熱心な事だ。魔術的な犯罪行為は現在ここ国の法律では裁けない。魔術そのものの存在が否定されているからだ。故に、魔術によって人を殺しても、それを罪として立証出来ない。魔術師のやりたい放題だ。

 そんな状態に歯止めを掛けるべく各魔術協会が共同で創った魔術犯罪の対策組織、それがイレズーレだ。


 本音を言えば、そんな組織とは関わりたく無いのだが、そうもいかない。何故ならば俺は魔術犯罪者として処罰対象となっているからだ。多くの場合、魔術犯罪者と認定されると魔術師として抹消処分となる。つまり、イレズーレの名のもとに廃棄処分だ。詳しくは知らないが、この処分が下ると多くの場合、謎の変死体になるか廃人になるからしい。

 幸いにも俺の場合は、情状酌量により魔術行使の封印と、その処分が解除される迄の間、監視下に置かれて魔術絡みの事件の調査・報告・記録を行う事となった。


 ここしばらくは、事件現場を見て廻る事にした。この前襲ってきたゴスロリ人形との共通点は無いか? 何か見つかるかも知れない。

 あの日は別に網を張っていた訳では無い。次の事件が発生しそうな時間と場所を合わせて、ヒントを探していたのだ。まさか本当に引っ掛けるとは。いや、あれが犯人かどうか不明だった。早計な結論は避けよう。

 それにゴスロリ人形を潰された奴が、大人しくしているとは思えない。こちらの正体を突き止めて、襲い掛かってくるかも知れない。小都にも言って置かないとな。あいつ独りで何とか出来るとは思えないしな。


 小都に連絡しようとスマホを手にする。スマホの画面に映る時間を見て、今が授業中だと思い出した。俺はもちろん授業に出ていない。そりゃ、外に居るからな。別にサボりたい訳じゃない。緊急事態なのだ。一刻も早くゴスロリ人形使いの正体を暴かねばならない。のんびりと授業に出ている場合では無いのだ。


 授業中なら電話は出来ないな。メールでもいいが、めんどくさいし、ちゃんと伝わらなかったらより面倒な事になりそうだ。


 スマホを制服の内ポケットに仕舞う。


 ふと、妙な視線を感じた。


 目の端に濃紺のゴスロリ幼女が入った。

 道路の先。曲がり角からひょっこりと顔を覗かせている。


 なっ……なんで今此処に?


 こんな朝っぱら出て来るとは予想外だ。


 今は小都も居ねえし、闘うとやべえかも。逃げるか? 逃げ切れるのか?


「おにぃちゃん、なんか捜し物?」


 幼女らしい可愛らしい声が近付いてくる。


 この声に反応して幼女の方を見ると、人だった。

 つまりこいつは召喚獣ではなく、れっきとした生身の人間だ。鎌も持っていない。


 じゃあ、この間のアイツとは無関係? それともこいつが召喚主か?

 こんな明るい時間に勝負する気なのか?


「何の様だ?」


 幼女に対して言う言葉ではないかも知れないが、気を使う余裕など無い。こいつが召喚主だとしたら、それなりの魔術師だ。こっちは魔法が使えない魔術師だからな。分が悪過ぎる。なんとか隙きを見て逃げるが得策だ。


「なにかさがしもの? ナニカサガシモノ? ナ ニ カ……サ ガ シ モ ノ……? ノ……ノ……ノ……ノノノノノノノノノ……」


 幼女の言葉が脳に直接響く。瞳がじっとこちらを凝視している。

 次第に彼女の瞳以外、見えなくなってくる。


 やばい。これはやばい。


「ナ カ サ シ モ ナ ニ ノ サ ガ ニ ? ナ ノ シ モ ? ガ サ ?」


 眼を合わせてはダメだ。ダメなのだが、眼が離せない。


「カ ニ カ サ ガ シ モ サ ニ ナ ? ノ ノ ニ カ サ ガ シ モ ニ カ ナ ニ ノ ナ カ サ シ モ ナ ニ ノ サ ガ ニ ? ナ ノ シ モ ? ガ サ ?」


 頭がガンガンする。

 グオングオンと耳鳴りが襲う。

 自分の身体が動かない眼だけになったかの様に感じる。


 これは……邪眼の術だ。くそっ!


 意識が……薄れて……。



 パァァァァァァァン!



 耳をつんざくような破裂音に、意識が現実へと引き戻された。


 キィイイイイイイイイイイイ


 目の前に白い車がスリップしながら突っ込んで来る。


 なにぃぃ?


 反射的に両手を前に出して防ごうとする。そんな事で防げる訳はないのだが。


 ぶつかる!


 瞑った眼を開けると、ぎりぎりのところで車は横付けで停まっていた。


「ごめんなさい! 大丈夫ですか?!」


 車から白いスーツ姿の女性が慌てて降りてきた。


「大丈夫ですか? 怪我ありませんか? 当たってないですか?」


 まくし立てる女性を宥めつつ、「大丈夫です。当たってませんから」と無事を伝える。

 彼女はほっと胸を撫で下ろし瞳を拭った。どうやら涙目になっていた様だ。


「良かったぁ。ごめんなさいね。なんか急にパンクしたみたいで……」


 あの破裂音はパンクの音だったのか。


 んっ! そういえば奴はどこだ? どこ行った?


 辺りを見回してみたが、幼女の姿はどこにも見えなかった。

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