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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
25/25

1-21:『魔法少女は諦めない』

 師匠から魔法名をもらった。

 Puella Innocensプエラ・イノケンス

 それがわたしの魔法名。

 意味は、『無垢なる少女』なんだって。

 師匠ったら、少女趣味なの? って訊いたら怒られた。

 『魔法少女』っていう名前はだめなの? って訊いたら、それはいろいろと問題があるからダメだって言われた。残念。

 


 その後、師匠からいろいろ話を聞いたけど、わたしにはよくわからないことばかりだった。


 わかったことは、逃げた橘教授の捜索と、智奈の状態の監視。それとイレズーレへの復讐……


 師匠はイレズーレがわたしたちを囮に使っているって言ってた。そのせいでわたしたちは危険な目にあったんだと。


 でも……復讐なんて嫌だな。


 なんか


 魔法少女っぽくない!


 師匠には協力したい。でもそれは、魔法少女としてだ。

 華澄の容態も気になるけど、下手に触ると棘が飛んで来そうなので後回し。


 なので、わたしは智奈を助けることを先にするのだ。

 とはいえ、エーテル体の妊娠の堕胎とか、どうしたらいいのかわからない。

 そもそも堕胎していいものかどうかも……とはいえ、産ませていいのかもわからない。


 こっそりと、智奈の様子を窺う。


 学校に登校してきた智奈は、相変わらずしんどそうだった。

 顔が随分とやつれている。

 ときおり、苦しそうな息を吐いて、身体を動かしている。

 エーテル体で妊娠しているって師匠が言っていたけど、そのせいなんだろうか?


「で、さっきからなにずっと見てんのよ?」


 智奈に怒られた。

 こっそり見てたのに、なかなかやるわね。


「ん、いや、その、智奈がしんどそうだから、大丈夫かな~っと」


「ああ、大丈夫だから。心配しないで」


 「心配しないで」そのフレーズで、華澄に同じことを言われたことを思い出した。

 胸がぎゅうっと苦しくなる。

 わたしは、華澄に何もしてあげられなかった。そしてまた、智奈にも何もしてあげられなかったら?


「わたしは! わたしは……」


 智奈を助けられる。そう言いたかった。でも、魔術のことは明かしてはいけない。わたしは、師匠の弟子だから。それは絶対に破れない。


「そりゃあ……心配するよね。ごめんね」


 智奈はバツが悪そうに頭を掻いて、謝った。


「最近、どうなの?」


「んー、なんかどうも夢見が悪くってさあ。毎晩、嫌な夢みたような気がするんだけど、覚えてないんだよねえ。起きたとき、すっげえ気分悪くってさ。吐きそうになったりして。まあなんだ、それで寝不足? みたいな感じなんだよね」


「そうなんだ」


 話を訊いたところで、わたしにはなんにもできない。師匠なら、なにかできるのかなあ。

 でも、師匠には監視するだけにしろときつく言われているから、どうすれば智奈を助けられるのか訊けない。自分で魔術の勉強して調べるにも、時間が掛かり過ぎる。


 なら、師匠以外の魔術師に訊くしかないよね。



 ピンポーン、ピンポーン。


 学校を早退して、ずっと休んでいる友人の家の前にいる。

 お見舞いに来たわけじゃない。


 ピンポーン、ピンポーン。


 居留守するつもりね。


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


「うるさいわね。ゆっくり休めないじゃない」


「華澄! やっと出てきてくれた」


 正直なところ、もう少し粘られるかと思った。でも思ったより早く、玄関のドアが開いた。


「華澄、どう? 大丈夫?」


 顔色が良くない。華澄は、身体を壁にもたれながら、わたしを見ている。


「ええ。さっきまではね」


 こんな憎まれ口も久しぶりに聞けて嬉しかった。


「華澄、あのとき、わたしを助けてくれたんだよね」


 華澄がぴくっと反応したのがわかった。

 やっぱりそうだったんだ。


「わたし、なにも覚えてないけど、師匠から聞いたの。二体のゴスロリ幼女が召喚されたとき、一体はわたしが串刺しにしたやつだったけど、もう一体は黒焦げで死んでたって。それ華澄がやったんだよね? わたしを襲ってきたあいつを、華澄が倒してくれたんだよね?」


「なに言ってるのかわからないわ。小都、あなたの方が大丈夫? いや、元からだったわね。そんなくだらない話するために、わたしの安眠を妨害しに来たの?」


「華澄!」


 今ならわかる。華澄は、ちゃんとした魔術師なんだ。決してその正体を明かすことはない。


「まだあるよ。わたし、たぶん幼女の鎌で大怪我したんじゃない? お腹から鎌の刃出てたもん。でも保健室で目が覚めたとき、全然平気だった。ねえ、華澄が今そんな状態なのって、わたしの身代わりになってるんじゃないの?」


「は? なに言ってのよ、小都。そんなこと、人間にできるわけないじゃない」


「いいんだ。華澄に答えて欲しいわけじゃないの。わたしが知ってる、理解してるって、伝えたかっただけだから」


 華澄が、深く息を吐いたのがわかる。


「華澄、ありがとう」


「用は、それだけ? じゃあね」


 華澄は、ドアに手をかけて閉めようとした。

 わたしは慌てて、ドアを掴んだ。


「後、もう一つ! 智奈を助けて――じゃなくて、智奈をどうやったら助けられる?」


「はぁ? もう疲れたから、帰って」


 華澄に腕で押し返される。でも、ここで諦めたらいろいろ終わっちゃう!


「お願い、華澄! ヒント! ヒントだけでも!」


 華澄は、はぁ~っと大きなため息をついた。


「あのねえ、私が知らないことで、なんのヒントを出せるって言うの。いい加減にしてちょうだい」


 きっぱりと言われた。その声音に、もうこの話は終わりだという硬い意志があった。

 諦めて、ドアを掴んでいた手を離す。

 ドアがゆっくりと閉まっていく。

 その締り際


「小都、あなたも万全じゃないはずよ。かなり無理してるでしょ。ちゃんと休んでおかないと、いざというときに困るわよ」


 華澄の言葉が終わると同時に、扉が閉まった。


 バレバレか。

 正直かなりきつい。

 外傷はないんだけど、鎌で生体エネルギーが削られたって感じで、HPが百パーセントじゃない感じ。今のわたしは、だいたい六十パーセントぐらいかな? 師匠には言いたくないし。こんなの治療する方法知らないし。でも――


 華澄ったら、ちゃんとヒントくれたんじゃん。

 それならば、華澄の言うとおりにしっかり休んでおこう。


 いざというときが来たときのために

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