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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
21/25

1-17:『魔法少女は夢を見る』

 痛いです。痛いです。

 お腹がとっても痛いのです。

 もう自分がどこにいるのかもわからないのです。

 真っ暗でなんにも見えないのです。

 身体がピクリとも動かない。

 そして、とても寒いです。


 もしかしてこれが、死後の世界とかいうやつぅ?!


 わたし、死んじゃったのかなぁ。

 師匠のせいだ。きっとそうだ。化けて出てやるんだ。

 四六時中後ろから、しがみついてやるんだ。

 お風呂でもトイレでも、付いて行ってやるんだ。


「小都っ! 小都っ!」


 あれ? 華澄の声がする。

 助けに来てくれたんかなぁ?

 でももう遅いよぅ。わたしたぶん死んでるし。

 どうせならもっと早く来てよぅ。


「小都っ! 小都っ!」


 耳元で叫ばれる。

 耳が痛いよ、もう。

 一言文句を言ってやりたいけど、声も出ない。


 ぽたっ ぽたっ


 頬に雫が垂れる。


 華澄? 泣いているの?


 華澄でも泣くんだぁ。

 いつものツンっと澄ました、何事にも動揺しない華澄が泣くなんて信じられない。

 そんなレアな姿を、見られないのが悔しい。


 そっか、華澄。わたしのために泣いてくれるんだ。


 なんかちょっと安心しちゃったかな。


 嬉しいっていうか、なんというか。ちゃんと友だちって思ってくれてたっていうか、なんかそんな感じ。よくわからないけど。たぶんきっとそう。


 最後にそういうのが、わかって良かったかな。

 冥土の土産ってやつ?


 わたしずっとこのままなのかな?

 死ぬってこんな感じなのかな?

 一生ずっとこのまま?!

 やだっ! ぜったい耐えられないっ!


 華澄ぃぃっ! なんとかしてぇぇ、お願いぃぃ。


 ふわっと全身になにかが掛けられた。


 なになに?


 凄く暖かい。

 寒かった身体が暖められて、暖められて……


 とてもねむーい。

 ああ、なんか寝たら死ぬぞってなかったっけ?

 ああ、わたしとうとう死ぬんかな?

 というか、今まで死んでなかったんかい?


 ここで眠ったら、もう二度と目覚めないような気がする。

 ぜったいぜったい、寝ちゃだめだ、わたし!


 寝ちゃ……




   ※※※   



 なんか白い。


 いろいろ白い。


 というか、白しかない。


 ここはどこ?


 何もない空間。

 白い床があるだけ。

 他には何もない。建物らしき物も、道路も木も無い。山も無い。空も白い。果てしない空は、真っ白だ。

 周りをぐるっと見渡せば、果てしなく続く白い地平線しかない。


 わたしはただ独り、そこに(たたず)んでいる。

 わたし、なにしてたっけ?

 なにも思い出せない。

 頭の中がぽっかりと空洞になったかのようだ。


 冷たく、凛とした静かな世界。でも嫌いじゃない。むしろ気持ちが落ち着く。わたしは初めから此処にいたんじゃないかと思う。そういう懐かしさのようなものがあった。

 なんか久しぶりに、ゆっくりとした気分を味わっている気がする。


 ふと手を見ると、何かを握っている。棒状のなにか。

 

 ステッキ


 そんな言葉が空洞になった頭に浮かぶ。


 ああ、これ、魔法のステッキだ。

 そうだ。なんで忘れてたのだろう。

 わたしは魔法少女なんだ。


 突然、眼の前に炎があがった。

 なに? この炎。


 お正月の神社の焚き火のような炎だ。


 なんか見覚えがある。

 どこで見たっけ……


 炎の中で何かが燃えている。

 なんだろう? 熊のぬいぐるみ?

 ぬいぐるみが下げているポーチに、アルファベットで文字が書かれている。


 Chimmy


 チミー……チミーちゃんっ!


 チミーちゃんだっ! わたしが幼い頃、大好きでいつも持ち歩いていた宝物。

 あ、あ、あ、早く助けないとっ!


 み、みず、水ぅ!


 周りには白い景色しかない。

 

 だめだ、チミーちゃんが燃えちゃう!


 「みずぅぅぅぅっ!」


 とっさにステッキを振り下ろして叫ぶ。

 呪文もなにもわからない。とにかく水が出て欲しかった。

 その思いをぶつけた。


 思いが通じたのか、大量の水が焚き火に降り注いだ。

 

 あの時は、助けられなかった。

 でも今のわたしなら助けられる!


 炎は一瞬にして消火された。

 

「チミーちゃん!」


 焚き火の焼け跡へ駆け寄り、チミーちゃんを探す。


 埋もれた炭の中に、チミーちゃんの顔が在った。


「いた! 良かった!」


 あちこちが焼けて黒ずんだチミーちゃんを抱き上げる。


 ぎゅーっと抱きしめたら、チミーちゃんの胴体がぐずぐずと崩れ落ち、顔と右腕だけしか残らなかった。


 あれ……


 そのまま、残ったチミーちゃんの顔を見つめる。

 片目が溶けて、泣いているように崩れていた。


 チミーちゃんが泣いている。


「ごめん。ごめんよぉ。わたし、また助けられなかった」


 まだ届かないんだ。


 足りない。全然足りないんだ。


 こんなんじや、こんなわたしじゃダメなんだ。

 

 もっとちゃんとした、魔法少女にならないと!

 師匠に、もっともっと鍛えてもらわないと!


 そうじゃないと、わたしの大切なモノは無くなっちゃうんだっ!


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