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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
18/25

1-14:『魔法少女の闘い(後編)』

 アイツ、いつの間に。

 さっきまで窓の外にいたのに、速すぎない?


 廊下に膝を付きながら、ゴスロリ幼女に睨みを利かす。


「おーい、大丈夫かぁ? 盛大に転けたみたいだが」


 隣の教室で授業をしていた白衣の巨漢で丸々した先生が、廊下まで見に来た。

 そりゃまあそうか。この教室の前で転んだからなあ。そんなに盛大に転んだとは思わなかったんだけどなぁ。


「大丈夫です。お構いなく。授業にお戻りくださーい」


 精一杯の笑顔で立ち上がり、巨漢丸々先生を教室に押し込める。

 先生は何か言いたげに口をもごもごしていたけど、黙殺して扉を強引に閉めた。ごめんなさい、先生。心配してくれてありがとうっ!

 

 さてさて、ここで闘うわけにはいかないしなぁ。グラウンドは目立つし、屋上は立ち入り禁止だし。学校の外へは出られないし。門のところで先生が監視してるからなぁ。


 ゴスロリ幼女は鎌を構えて無表情で近づいて来る。


 怖いよぅ。無表情は怖いよぅ。あ、でも笑ってても怖い気がする。つまりは、どんな顔してても怖いものは怖いんだよぉっ!


 よし! ここは三十六計逃げるにしかず。逃げるが勝ちよっ!


 全力で廊下を疾走し、階段へ向かう。

 立ち入り禁止でも何とか入れるかも知れないし、やっぱここは屋上がベストよね。


 階段を登ろうとしたとき、上の踊り場からゴスロリ幼女が降って来た。


 なんで?! 後ろにいたんじゃないの?!


 ザクッ


 鈍い衝撃が左肩にあった。


 登りかけていた階段から、廊下へと突き落とされる。

 背中から落ちて、ごろごろと転がり壁に激突した。


「かはぁっ! 痛い。痛いよぉ」


 後頭部を壁に強打した。ううぅ。目から火が出たわ。


 鎌で刺されたであろう左肩を触って見たが、外傷はない。

 外傷はないのだけど、凄く痛い。まじでヤバい痛みだ。本能レベルで『終わり』を告げている。


 階段の上からアイツはゆっくりと降りてくる。幼女らしい辿々(たどたど)しい足取りだけど、それが一層コイツの得体知れなさを強めてて、いっそう怖い!


 わたし、ホラー映画とか苦手なんだよね。ましてやリアルでこんなホラーチックな状況とかあり得ない。コイツの見た目が無表情なのもすっげー怖いんですけどぉ!


 ステッキを握り直して覚悟を決める。


 ここで勝負を決める。


 さっき喰らった一撃が致命傷過ぎて、全身の震えが止まらない。

 このまま逃げ切れるビジョンが浮かばない。なら、まだ元気なうちにここでアイツを潰すっ!


 ステッキに仕込んだショートカットで結界の魔法陣を出す。


 アイツにぶち込む物をイメージして召喚する。

 何をぶち込んでやろうか? 鎌でやられたからお返しに鎌?

 うーん。いまいちピンと来ない。

 聖剣エクスカリバーとか?

 あんまりよく知らないんだよねぇ。

 まあいいや。取り敢えず聖剣エクスカリバー的な何かで。それっぽいモノをイメージして、アイツにぶちかますっ!


 大き目の剣で、なんか尖ってて、柄の部分が金ピカな感じで。


 イメージした剣が、右横に出現する。肩の辺りに浮いて、切っ先がゴスロリ幼女に向いている。


 アイツは意に介さず歩みを止めない。


 勢いよく剣を飛ばすため、念を集中する。

 弓の弦をめいいっぱい引いて、剣を矢のようにイメージしながら、アイツを睨みつける。


「いっけぇぇぇっ!」


 放たれたエクスカリバーもどきが、矢のようにゴスロリ幼女を襲う。


 ガンッ


 あれ? おかしいな? わたしのお腹から鎌の刃が出てるよよよ?


 目の前のゴスロリ幼女に眼をやると、エクスカリバーもどきで串刺しになって倒れているし、鎌も持ったままだ。


 じゃあこの鎌はなに?


 がくんと膝から崩れ折れて、その場に倒れた。

 身体に力が入んない。


 何とか動かそうと藻掻いていると、傍らにゴスロリ幼女の姿が見えた。

 え? なんでそこにいるの?

 階段の上を見ると、そこにもゴスロリ幼女が倒れている。


 何コイツら?! 二人居たの?

 ししょー、そんなこと聴いてないよぅ……

 

「うぅっ、いたっ……」


 傍らにいるゴスロリ幼女に、身体に刺さっている鎌を引き抜かれた。


 痛い……。いたいよぅ。


 そして、鎌を構え直し、もう一度振り降ろそうとしてる。

 その幼女の顔は、無表情ではなく、怒りに震えているように見えた。

 何で怒ってるんだろう? わたし、あなたに怒られるようなことした覚えないよ……


 あ、一人倒したからアイツ怒ってるのかな? そんなこと言われても……


 ああ、とどめ刺されちゃう? わたしここで死んじゃうんかなぁ。外傷無いから完全に不審死だね。


 『都内の女子高生が授業中にトイレに行ったところ、廊下で死んでいるのが発見された』、とか言われちゃう。


 やだ、トイレに行く途中死とか、ないわ。

 せめて保健室にしとくべきだったわ。

 後悔先に立たず。

 というか、師匠何してるん? 

 可愛い一番弟子のピンチなのに! 

 ゆるさん! 

 死んだら、四六時中顔の横に化けて出てやるんだわ!


 でも、わたし一体倒したよ?

 師匠褒めてくれるかなぁ……褒めてくれたら……嬉しいなぁ……


 眼を開けているのが辛くなってきた。


 このまま眼を閉じちゃうと、もう二度と開けられなくなる。

 そんな気がして、懸命に開けようとしたけど、開けようとする意識そのものが段々と薄くなっていくのを感じた。


 遠のく意識の片隅に、幼女の叫び声がこだました。

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