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封印処分の魔術師と魔法少女に憧れる弟子  作者: 杉乃 葵
Episode 1: 未成熟なるものの無意識
12/25

1-08.5-2:『魔術師の休息(その1)』

 今回も前回に続き、中休み的な話です。

 魔術師 風見道真の一夜です。

 短く刻むつもりでしたが、書き上げてみると、いつもどおりの分量でした。

 風見くん、うだうだするから結構文章量が増えるんでしょうね……

 家に帰り、独り真っ暗な部屋に明かりを灯す。

 いつもの事なのだが何だか今日は、やたら静かに感じる。

 日中帯が騒々し過ぎたからかな。だいたい小都のせいだが。


 今日は本当にいろんなことがあった。今のところ致命的な被害がなかったことが救いだな。智奈のことは、なんとかしねえと危ない感じだが。


 制服を脱ぎ、部屋着に着替える。制服の上着やスボンのポケットに何も入ってないことを確認する。これは俺の癖のようなものだ。

 中学生の時、制服の上着のポケットに手紙が入っていたことがあった。たまたまポケットに手を入れたときに、発見したのだ。それまでは普段ポケットを探るようなことはしなかったので、この手紙がいつ入れられたものか解らなかった。


 ノートを小さく千切ったものに、名前と好きですの文字だけ。


 手紙に書かれた差出人の名前には心を当たりがあった。三年間同じクラスだった女の子だ。特に親しくした憶えはない。他の同級生たちとなんら変わらない、遠からず近からずの関係だった。


 誰かのいたずらだと思って、放置していた。

 だって普通、ラブレターをノート千切って書かねえよな? しかも一言だけとか。

 しかしながら、どうやら相手は本気だったらしく、ずっと俺からのアクションがないことに心を痛めていたようだ。

 そして俺は真相を確かめることはしなかった。例え彼女が本気だったとしても、俺は付合う気がなかったし、彼女に確認したところで交際は断わるつもりだったからだ。

 別に、彼女が気に入らないとかじゃない。女の子と付合うことに興味が湧かなかったし、当時の俺は、それどころじゃなかったからだ。


 その子とは結局、卒業まで何となくぎくしゃくしたままだった。

 卒業後はそれっきりになり、彼女が今どうしているかは知らない。


 まあ、そんな出来事があって以来、毎日制服のポケットは確認するようにしているのだ。

 別にラブレターを入れられるのを、待っている訳ではないぞ。

 また誰かが秘密の連絡を俺にこっそりとしようとして、メモか何かを入れるかも知れないからだ。


 次にそんなことが有ったならば、今度こそちゃんと対応したい、そう思うのだ。


 上着のポケットを探っていた指が、何かに当たった。


 何だろうと思い、それを取り出す。

 ノートの切れ端だった。

 ドクンっと心臓が跳ね、胸が痛む。


 逸る気持ちを抑えながら、折り畳まれたそれを開く。


 中に書かれていた文字は、病院名と住所だった。


 なんだよ! ちくしょうめっ! 昼に華澄から渡されたメモじゃねーかよぉっ!


 ドキドキして損したじゃねぇか。


 あほらしい。


 さっさと晩飯でも作ろうと思って、その紙切れを捨てようとしたとき、違和感があった。

 そういえばこの紙、渡されたときはまっさらのノートっぽかった筈だが、いま手に持っているのは古びて風化したみたいになっている。


 なんだ? 俺のポケットは時間を進める機能でも付いているのか? それとも、華澄のノートは直ぐにボロボロになるような安物なのか? 華澄の家庭の事情は知らないが、まともなノートを買えないぐらい貧困なのだろうか?

 

 そんなことよりも飯だ。腹減ったしな。

 自炊の一番の問題点は、腹減ってから作ると出来る迄かなり空腹感を我慢しなければならないことだ。

 なんで俺が自炊してるのかって? それは、父親は単身赴任中で家にいないし、母親は入院中だからだ。そして、兄弟もいない一人っ子だからだ。


 今日のメニューは、小松菜と豚バラ肉の炒め物。何を隠そう、俺の得意料理だ。といっても、小松菜と豚バラ肉を適当に切って、塩コショウで炒めるだけだが、これが意外といける。

 それをいつも通りにささっと作って、予めセットして既に炊き上がっている炊飯器の白米をよそう。味噌汁が欲しいところだが、今日は何だか面倒に感じてやめた。


 晩飯をサクッと平らげて、食器を洗う。作るのに掛かる時間に比べて、食べる時間は一瞬だ。そう考えるとなんか凄く作る時間が勿体なく感じる。それに食後の後片付けとか面倒くさいことこの上ないな。


 いつもなら夜が更けてから調査に出掛けるが、今日は小都に釘を刺されているしな。今日だけは、言うことを聞いておこう。約束を破ったらアイツ、魔法少女の格好で纏わり付くとか言ってやがったし。なんて恐ろしいことを言いやがるんだ、アイツは。


 調査に行かないとなると、何か気が抜ける。


 そのときスマホが鳴った。

 俺にスマホのメッセージアプリを送る奴は、世界でただ独り。

 小都しかいねぇ。


(わたしのステッキ、保健室にあるかもなので持ってきて〜)


 取り敢えず、小都にいま何も起きていないということだな。

 よし、問題なし。ステッキのことなんか知らん。


 イレズーレへの調査報告を、いつもはその日の調査を終えてからしていたが、今日は調査に行かないのでどうしようか。

 イレズーレからは毎日報告しろとのことだから、何か報告しないといけないのだが……


 とりあえず昼間の件でも報告しておけば、文句はあるまい。


 イレズーレへの報告は、やつらから渡された専用の報告書に手書きだ。それを書き終えたら火に焼べる。それで報告完了となる。

 まあ、儀礼的なやり方だが、本当は書いている時の意識を、この紙を通じて向こうが受け取っているのだ。

 俺がそう推測しているだけだが、まず間違いはあるまい。


 朝、ゴスロリ人形ではなく、ゴス衣装の幼女に遭遇。

 そいつが邪眼を使用。

 通り魔殺人事件の犯人は、このゴスロリ人形である可能性が高く、断言は出来ないがこの幼女は召喚したモノと推察される。

 大鳥智奈に、見えない犬のようなモノが取り憑いている。そしてその犬により、彼女はエーテル体において身籠っている可能性が考えられる。早急な、より詳細な調査が必要と思われる。


 とはいったものの、智奈に対してどうやって早急なより詳細な調査をすればいいんだ? 

 まったくもって、何のアイデアも浮かばない。

 続きをっと。


 事象から推察したところ、この犬のような存在はインキュバスをモチーフとした召喚獣であると思われる。


 まあ、こんなところか。


 はいはい、書きましたよ。本日のノルマ終了っと。


 イレズーレから貰った銀の灰皿の上に、いま書いた報告書を置いて火をつける。

 ふわっと蒸発するようにそれは燃え上がり、一瞬のうちに消滅した。

 これはいつものことだ。どんな材質で造られた紙なのだろうか? そんなことをふと思った。


 スマホが、また鳴った。


 またアイツか? 何かあったのだろうか?


 慌てて、スマホを見る。


 (ひま~)


 そっか、そっか。暇なのかお前は。何事もなくて何よりだよ。

 うっかり返信したりしたら、朝まで付き合わされそうだから放置するけどな。


 最近、夜に調査ばかりしていたのでちゃんと寝れていない。今日ぐらいはゆっくり寝るとしよう。これから忙しくなりそうな予感がするからな。


 早々にベッドに入り眠りにつこうとしたが、今夜は、いつもより家が静まり返っているような気がして、なかなか寝付けなかった。


 静かなのが寂しいと、生まれて初めて感じた。

 次回からは、本編に戻ります。

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