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血が垂れた大地

作者: 水素

誰しも一度は感じるかもしれない。自身が生きていても無駄、つまり価値などないのではないかと。端的に言えば人の価値のみならず万物の価値に唯一性はない。相対的なものでしかないということだ。人も、人から価値を得るほかない。その価値を得られた状態がある基準を越えれば「名誉」ということになる。人は人に価値があると思われたいから何かに努力する。そして自身の存在をそこに示す。しかし、それを目的にしたところで「名誉」を得られる人などほんの一握りにしか過ぎない。そして「名誉」に並び、なおかつ関わってくるのが金銭である。金は鉄道の操車場と表現した人もいるが的を射ている。人に知らないところに行き、人の知らないところで人の知らないことに使われる。金に人の心はない。人に好きなように使われ、時には人を好きなように使う。先ほど述べた「名誉」も、金の輝きとともに発せられる血の鼓動を聞けば薄れてしまう。人がその鼓動を聞けば、現代ではあることが起こる。「戦争」だ。そしてその血が垂れる。

 私は大学で生徒に教えている身でもあり、研究する身でもある。今では教授職に就いている。動機は単に安定した職につきたかったからである。決して学問が好きで選んだ職ではない。その道を進むことを決めた当初は不純な動機ゆえに周囲から白眼視されると思ったが、そのようなこともなく順調に出世した。そんな私が研究しているのはアメリカについてである。この動機もやはり不純で、大学生の時にテストで他より点が取れた分野だったからである。だが、あえて言うとすればアメリカという国に対し、一抹の疑問を覚えたことがきっかけかもしれない。

 アメリカに行く機会が多く、アメリカにいる研究者の仲間や記者などの友人も数人いた。10年も前のことである。友人の一人である記者から面白いネタがあるから二人で調べないかと誘われその2日後、待ち合わせをしたアメリカのとある町にある小さなバーに向かった。看板が左側に傾いており、壁には赤錆がこびりつき、入り口は、目前の道で舞った砂で汚れている。新しく取りつけたと思われるネオンサインの黄色い灯りが猫に小判を思わせる。バーに入るとさらに不釣り合いな光景が広がる。店内は薄暗く、昼間ではあるものの酒に酔い潰れる客も見られ、花見で酔っていなくても花を踏みつけそうな人相である。そんな客が来るため、店主もそのような趣向の物を揃えているのかと思うがなぜかカウンターに隣接する壁にはゲルニカのレプリカが飾られている。店内を少しばかり歩き、友人の顔を見つけると、彼の隣に腰を下ろした。テーブルを挟んで友人の向かい側にはアラブ系と思われる、見知らぬ男が座っていた。

「で、面白いネタというのは?」

私は見知らぬ男に構わず言った。バーテンが来たため、私はコーヒーを注文した。

「そう焦るな。今、ムハマド・イブン・ミーさんと話をしていたところだ。」

「君が、彼から聞いた有名な社会学者ですか?」

「そういうことになるらしいですね。」

 運ばれてきた麦茶色のコーヒーを私は啜った。

「そうか。これでやっと。できればアメリカとは政治的に遠い国の人にこの話をしたかったんだ。」

「ミーさん。経緯を含めてどんな話かを聞かせてくれませんか。」

 私の友人が言うと、彼は深呼吸をし、淡々と一連の話をしてくれた。

 彼から聞いた話をまとめ、物語として以下に記したい。

 彼の両親は比較的裕福で、湾岸戦争直後にアメリカに亡命した。彼が5歳の時である。彼の父はイスラム法学者でイラク政府の意向に反する主張をしていたのだ。当時、国内で反イスラム感情が高まっていた。実際のところ今まで人々に流れていた不満の感情の地下水が湧き出してきただけのことであった。

 それゆえ両親ともに職に就くことができず、周辺の住民からは誹謗中傷の的となった。

「イラクの犬が何しにきたんだ?」

「テロリストの仲間が。」

「政府に取り入った金持ちが。」

 道端で彼らを蔑む者の多くは履いている靴がとても磨かれてた。

 彼の父はいつも彼にこう言っていた。

「ミー、お前は絶対に戦争に関わってはいけないぞ。そのためにもこの新天地で学ぶのだ。学問はお金も人の家柄も価値も関係なく人を堕落から救ってくれる女神から差し伸べられた唯一の手なのだ。」

 幼かったミーには父の発言の意味がよくわからなかった。ミーは学校でもいじめを受けていたが、一人黒人の友達がいた。ミーは放課後にはその友達と人目のない近くの山に向かいよく遊んだ。二人は山の頂の開けた場所で寝転がって空を見上げていた。

「ジョン、最近生活は大丈夫?警察による暴力事件が相次いでいるって聞いたけど。」

「大丈夫だよ、ちょっと怪我しちゃったけど。」

 ジョンは右手首に残る青痣を袖で隠した。

「そうだ、将来の夢ある?僕はあんまなくてさ。父からは学問が重要だとはいつも聞かされるけどいまいち関心わかなくて。」

 ミーは彼の行動を見て話を変えた。

「あるよ。」

 ジョンは深呼吸して、ミーの目を見た。

「医者になりたいと思ってるんだ。病気で動けない親父を僕の手で直したい。お金が払えなくて医療が受けられない人も一緒に。俺が住んでる町はミーも知ってると思うけどスラム街だからさ。仕事につける人もそんないないんだよ。治安もそのせいで悪いし、病気でも病院に行くお金がない人が大勢いる。だから大学に入って頑張って勉強してそんな人たちの役に立ちたい。」

 ジョンの眼差しにミーは憧れた。

「僕も君みたいに頑張れる夢を持ちたいな。」

 夜空を見上げた。ひときわ鮮明に輝く黄金色の星が見えた。

 ミーが十六歳の頃、父が反イスラムの人たちに襲われ病院で寝たきりの状態になった。襲った人はドイツ系の人と思われると警察にいわれた。治療費の額ゆえ一口も食べ物にありつけない日が増えた。2年が経ち、父は普通に生活できるまでに体力が回復したが、母は鬱状態になった。

 放課後、いつもの場所でジョンといろんな会話をしている中で

「ミー、俺ら貧乏な若者でも大学に行けるいい制度があるの知ってるか?」

 知らないとミーが答えると、話を続けた。

「軍に入隊するんだ。」

「だめだよ、戦争に徴兵されるかもしれないよ。イラクに攻めこもうとしているわけだし。」

「大丈夫だ。州兵に登録すれば、軍が学費を全額負担してくれるし、徴兵されることなんてない。徴兵されたとしても補給の任に回るから銃を持つこともないと軍の人が言ってたよ。一緒に入ろうぜ。そしたら大学で勉強できるんだぞ。」

 ジョンはボロ切れで縫われた鞄の中に入っている数冊の医学書に視線をずらした。

「でももし戦争に出ることになったらどうするんだ?」

「大丈夫だよ。」

 ジョンはミーの肩を叩いた。突然、周囲の木々が風でざわつき始める。

「僕はやめておく。」

「なんで?」

「どんな理由であれ、戦争なんかに関わるのは絶対ダメだよ。僕はそう思う。」

「ミーの親父の考えだろ。俺は何がなんでも大学に行きたい。そのために入隊する。俺の親父は死んじまったけどまだ死んでない奴が死なないための職に絶対就きたいんだよ。」

 ジョンの視線はミーの理性を業火に包み込む。だが、全ては燃えなかった。

「その気持ちはわかる。だけど僕は絶対に入隊しない。」

 木々のざわつきと重なるも森中にその言葉は響いた。

「そうか、わかったよ。学ぶことの重要性をあれほど親父から聞かされて俺に言っていたお前がそうか。もう会うこともないだろうよ。」

 ジョンは森の中へと歩き去った。

 1年が経ち、ジョンはイラクに向かわされた。銃を持って。ミーは奨学金制度の応募に合格し、晴れて大学に行けることになった。父は喜んでくれたが、母には喜ぶことはもうできなかった。

 ジョンと別れてから3年。ミーが大学に向かう途中、人混みの中見覚えのある背中を目にした。ミーは後を追い、裏の路地でジョンを見つけた。顔は蒼く手は垢だらけで、目は黒ずんでいた。

「ジョンだよな?」

「そうだよ。久しぶりだな、ミー。」

ジョンの声はかすれていた。

「まさか、何にも食べてないんじゃ。」

「そうだ…。」

 ジョンの返答を待たずにミーは手を掴むとファストフード店に駆け込み、2つバーガーを購入するとジョンに渡した。

「ありがとな、3日ぐらい飲まず食わずでよ。」

 少し元気になったようだったが、以前のジョンの活気からは程遠かった。

「いつ戻ったの。大学はどうしたの。それにホームレスの生活なんてなんで。」

「騒ぐなよ。子供じゃないんだからさ。子供……。」

 ジョンは突然言葉を止めると、頭を抱え込み突然泣き出した。

「ジョン、どうしたんだよ。何があったんだよ。」

「殺しちゃったんだよ、俺は。まだ子供だったのに。俺のこと、慕ってくれてたのに俺は。」

 ミーはそのことに関してそれ以上何も言わなかった。ミーは家に来ないかと誘うも断られ、ジョンはそのままハンバーガーありがとうと言い残し立ち去った。だが、一瞬ジョンが見せた微笑みは2度と姿を見せることはなかった。それから1週間が経ち、ジョンが何も言わず手紙を渡してミーの前から姿を消した。

 そこまでの内容をミーが話し終えると、ミーは私に一通の手紙を渡した。

 手紙にはこう書かれていた。

 

 ミー、もう俺は生きる価値がないように思えるんだ。結局学費も出ないことがわかった。そして前線には出ないと言われたが、州兵になって五ヶ月でいかされた。イラク政府軍と何のために戦うかもわからず銃を手に持ち撃った。民間人も大勢巻き添えになり、自分を慕ってくれていた七歳だった女の子を射殺した。すぐ交戦は終わったのに。

何で残党狩りのために民間人のうちに銃なんか持って押し入る必要があるんだよ。

何で何もしてない子供を命令で殺さなきゃいけないんだ。

その女の子は小さい頃から紛争のせいで家を転々としていて、ようやくある町に腰をすえることができたと言っていた。学校にも一ヶ月ほどしか通ったことがなく、家で捨ててあった教科書を読んで勉強していると。俺に言ったんだ。将来は医者になりたいんだって。俺とおんなじ夢だったんだよ。紛争から逃げる最中に路上に転がる死体をよく目にする。それに瀕死の状態の人もよく目にする。運が悪いだけでこうなるんだからかわいそうで仕方なくて。だから自分が医者になって治したいんだと。その子立派だろ。俺も感銘受けちゃって。あの子のように人を思いやれるやつになろうとな。

だけどもうこの世にはいない。俺が殺したんだよ。

純真なこの子の思いも、夢も、未来も、俺は奪ったんだ。

こんな俺に何にも出来やしないんだ。

もうこの手は血塗られたんだ。

罪滅ぼしのためにイラクに行きたいと思う。おそらくお前ともう会うこともないだろう。

じゃあな。


 その手紙の文字はとても震えていた。そして紙の下端の一部に皺ができていた。

ミーは私たちが読み終えるのを見計らって話を進めた。

「ジョンはおそらく死ぬ気でいると思います。ですが、軍でもない限り民間人がイラクに行くことは困難です。そこで私はジョンのような人がアメリカにいることを知ってもらおうと思い、この話を発信しようと考えたんです。しかし、アメリカ人に持っていったところであまり広く情報が伝わらない。そこで日本人であるあなたに、出来れば日本国内から情報を発信していただきたいのです。そうすればイラクにいるジョンにも届くのではないかと。」

 私は一通りミーの話を聞いて口を開いた。

「確率は低いと思いますが、第一情報がイラクまで届くでしょうか?私は到底届くとは思えません。それにジョンがもしその情報を知ったところで感情を動かすことができるでしょうか?」」

「その意見に私も賛成だ。」

 友人も言った。

「だけどジョンをこのまま放っておきたくないのです。私の名を実名で公開して情報を発信すれば望みはゼロではないと思うのです。」

「そうは言っても私もそんなに有名でもないですし。」

「そこをお願いします。」

 店内にあったゲルニカの絵のレプリカが若干傾いた。

 私はミーの依頼を受けることにした。初めは面白いネタを提供してくれるということで向かった先で、頼み事をされるとは全く考えていなかった。ただ、ミーの感情に誠意を感じそれに応えようと感じた次第である。

 記事を書くためにミーからさらに詳しく話を聞き、アメリカ国内にいる同様の経験を持った人物にもインタビューをし、情報を集め半年ほどで300ペジほどの本を書いた。また、この記事の要約を各新聞社の知り合いの記者に送り乗せてもらえないかどうか掛け合った。さらにインターネット上にもこの情報を掲載した。本は出版後国内で反響を呼んだ。だがもちろんの事一時期でそれは途絶え、すぐさま熱は冷めた。ジョンからの連絡はなかった。地獄の知らせを除いて。

 ある朝、私は起きてテレビをつけるとニュースがやっておりイラクのバグダットで大規模な爆発が起こり民間のアメリカ人が1人、現地人が10人犠牲になったという報告を受けた。

 私はすぐさまミーに電話をした。

「ジョンが巻き込まれたかもしれないって本当ですか。」

「君から聞いたジョン君の特徴がニュースで言っていた、テロに巻き込まれた人物の一人と特徴が一致するんだよ。だけど時間が経って問い合わせてみないと実際問題わからない。」

 私は電話を切り、すぐさま家を出た。

 数ヶ月がして私は知り合いの記者の伝でイラクのバグダットにきていた。そこでジョンの情報を集めようと考えていた。アメリカ、イラク間の緊張も沈静化し渡航の規制が解除されていた。町の建物は焼け崩れて市内の一部の地域は廃墟と化し、ゴミも捨てられ異臭が漂い蝿たちが陣取っている。別の地域では小さな子供とその母親が建物の陰で怯える姿も確認できた。また路地に一人で座っている小さな女の子もいた。

 現場も見ることにした。焼けただれた車の残骸が残り、原型を全く止めていない。爆心地から数mの地点には血がいくつも垂れていた。一部人の組織の焼けた跡のようなものもあった。法という政治組織がもたらす安泰を享受することなく、人が理性を従えずに動き出すと殺人を劇のように始めるのだろうか。私はまだ一度も殺人の現場を目撃したことはないし、これからもないだろう。記者らとともに人の秩序の崩壊を見た。

 その後2日が経ち、アメリカ軍から犠牲になったアメリカ人の遺体の身元について情報を提供して欲しいと言ってきた。記者がアメリカ軍に勤めている人の一人と知り合いで、その申し出を受けることができた。

 1週間後、アメリカ軍駐留基地に許可をもらって入った。幾つかの軍設備の部屋を通り、遺体安置所に連れてこられた。そこに2人の軍人と一人の軍医と思われる人が待っていた。挨拶をすませると私はすぐさま話を切り出した。

「犠牲になったアメリカ人はこの人ですか?」

 私はミーに渡されたジョンの写真を3人に見せた。

「とても顔からその人かどうか判別することはできません。爆心地からとても近くにいたと思われます。」

「身元を証明するものは?」

「パスポートは無事に残っていましたが写真の部分だけ焼けていて同じく判別はできません。」

 私たちは白い手袋をして黒いすすのついた焼け焦げたパスポートを見た。

「名前は、セィモール・マイリ。性別は男。年は23。これといって身元がわかりそうなものはありませんね?」

 記者がそう言う。

「ちょっと待って。人種は?」

「黒人系だと思われます。」

「黒人でその名前は何か変だ。」

 私は目を閉じ、一瞬考えた。

「そうか。」

 私は悟った。人を情報で救うことなどやはり無理だったのだと。


「あの遺体はジョン君のだったよ。」

「そんな。」

ミーは肩を落とし、顔を下に向け、あげる気配もない。

 「爆発はアメリカ軍の駐留に反対するスンニ派の過激派組織によるものと推測されている。だが少しおかしな点がある。遺体の状態からどうやらジョンは誰かを抱きかかえた状態で亡くなったようなんだ。私なりに調査して、ある人が黒人に命を助けられたと言う人を見つけた。その女の子はたまたま路地で見かけて一人で座っていたからかわいそうに思って私から声をかけた。すると一連の話をしてくれた。両親と3人で映画を見に行く予定だったその日両親がチケットを買う間、近くにあった車の中をたまたま見た。そして中に入っているのは爆弾だった。両親も彼女を連れて入ろうとした時にその存在に気付き、我が子を連れて逃げようとしたが間に合わなかった。彼女は車の近くに取り残された。その時に一人の男が盾になって爆風から彼女を守ってくれた。そう彼女は教えてくれた。今は母方の祖母の家で暮らしていると言っていた。ジョン君は一人命を救ったんだよ。」

 ミーはただ黙って聞いている。私はさらに続ける。

「彼の身分証にはセィモール・マイリと言う全く違う名前が書かれていた。ただ名前としてスペルがとても不自然に感じた。そこでちょっといじって見る。Semoer myri を並び替えると Mee I’m sorry。君に対する謝罪の言葉になる。たぶん、ジョン君にはミーが発信した情報が届いていたんだと思う。君のことをいつまでも心配していたんだよ。一人の人間として。そして友達として。」

 私はミーに目を向けることができなかった。ミーの泣く声が私を悲嘆の底に突き落としたから。

 冒頭に私はアメリカに対して一抹を覚えたことがあったと述べたと思う。先進国ながら貧困者の人口が発展途上国と変わらないアメリカがなぜ国として存在できるのか? 一部の政治家によって自由に食いつぶされる人々。そして血を流す人々。それが社会を動かす見えざる手とでも言えるだろう。決してアメリカにとどまる話ではないのは自明だろう。その人々はただ運が悪かった。私にはそういうことしかできない。だが、人はその言葉だけですべてを解決したかのように社会の表面のパレットを白色で一掃する。

 戦争と聞けば、私はピカソの書いたゲルニカを思い出す。ゲルニカはスペインの都市で、第二次世界大戦中、ドイツ軍によって人類史上初めての無差別爆撃が行われた場所である。そこに住む人々の無残な最期を、パブロ・ピカソはキャンバスに描いた。自由と独立の街がたった1日で灰と化し、虚無の世界へと変わった。人にとって、自由という名の可能性も平和とういう名の未来も空虚なものに過ぎなかったのだろうか。必死で目の前の壁を超えて生きていこうと考えても火の海には誰も抗えない。ただ、刹那的に命の灯火を消されるだけだ。私はその絵を何度見てもそう感じる。

 あれから何年もミーとは疎遠になっている。ミーが大学を卒業した、それ以上のことはわかっていない。ただ、彼には悲劇的な結末は迎えてほしくないと願うばかりだ。ジョンの最期は人にバシリスクの到来を予言するかのように感じた。我々は戦争をし、殺し合い、土地を枯らし、その土地の生き物たちを貶め、残虐の限りを尽くした。自分に価値がないと考え世界の不条理に絶望し、最後は人間の残虐の犠牲となった彼。彼の世界に対する感情を決して途絶えさせたくはない。だが、あなたたちは彼の感情に答えるだけの意思はあるだろうか?

 あなたにあるのなら人は決して争わない。血など大地に垂れない。


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