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003


扉を開けた先は鬱蒼とした木々が生い茂った森の中であった。

木は緑の葉を携えながら少しでも陽の光を浴びようと枝々を空へと伸ばし、太陽を遮って周囲は薄暗くなっている。

鳥などの小動物といった感じのさえずりが森の奥の方から聞こえてくるが、それと同時に獣の唸り声といった声もこちらに届いてくる。


「うわー…。部屋を出た先が暗い森の中ってこれある意味詰んでないか?」

『大丈夫ですマスター。貴方の戦闘能力から言ってそこらの獣程度が襲ってきた所でかすり傷も負いません。』

「いやそれもそうなんだけどさぁ。」


そう言った所で今出てきた部屋の方へ振り返る。


そこにあったのは何十年、何百年と放置されて風化している石造りの四角い家のようなものだった。

テトが外壁を触るとパラパラと風化した砂が落ちてくる。

流石にこれ以上弄るのはヤバイと感じてすぐにその手を引っ込めた。


「触ったら崩れそうな所に居たって流石に怖すぎるだろ。」

『最早遺跡といってもいい感じです。中に居る間に崩れなくて良かったですねマスター。』


本当にそれは洒落になっていない。

腰に装備されている[サテライト]を軽く指で小突きながらこれからどう動くべきか検討することにした。


「そういえばここは惑わしの森だったな…。北に行けば取り敢えずアルカスには着くだろう。」

『そうですね、データにはここから北へ歩いて2、3時間程で辿り着けると書かれています。

モンスターが襲ってきてもゴブリンかウルフ程度でしょう。』

「そんなに掛かるのか?ゲームだったら反対側まで抜けれる距離だぞそれ。うーん、やっぱり縮尺とか違うのかね…。」

『考えても仕方無いでしょう。取り敢えずアルカスに向かって行動しましょう。』

「ん、そうだな。」


話を一応決着させてテトは森の中をかき分けて進むことにした。

普通の人間が通るような道は無く、方々へ伸びた草木などが邪魔をしてとにかく歩きにくい。

獣道といったようなものも特に見つからずそのままリザに示された方向へ進む。

鉈なんかがあれば楽だったのになぁと思っていたりはするがそんなものは持っていないのだからしょうがない。


ーーーー


2時間程苦労しながらも特にモンスターなどに襲われることなく、無事に森を抜けれるかといった所でそれは起こるのだった。


「ーーーー………いやぁぁっ!た、助けてぇぇ!」


そんな女の子らしき悲鳴が突如として森の中に響き渡る。

こんな所で救助を求めることなど十中八九何ものかに襲われていることしか無いだろうとテトは判断し、すぐにリザへとその場所を尋ねる。


「…!?悲鳴?リザ、方角は!?」

『北東方向に約100m先です。私が先に向かいますか?』

「ああ、頼む!」

『了解しました。マスターの御心のままに。』


リザが搭載されている魔導具[サテライト]4機の内3機がテトのベルトから離れ悲鳴の元へと飛んでいった。


支援兵装[サテライト]


これはゲーム時代に知り合いの職人と悪乗りして造り上げた傑作魔導具である。

当時、ある理由から魔法を使う事は出来るがそれを迂闊には使えないという矛盾した状況に陥っていた。

そこで自分が使えないなら外部の物が使えばいいじゃないかアホな考えを披露し、(戦闘で操作に煩わされる事の無いように独自に判断して魔法を適宜(てきぎ)使う)というコンセプトで造ったのだ。

最初は普通に自分で命令して魔法を魔導具が使うという一般的な物だった。

それがその話を聞いた前述した知り合いの職人が、「そんな面倒なことする位なら魔導具自身に判断させればいいじゃん」という事を言い出し、それにテトが悪乗りしてあーでもばいこーでもないとその職人と論争・試行錯誤を繰り返して出来たのが擬似人格リザを搭載したサテライトである。


性能はテトが使える魔法を全て使える上に、防御用バリアを発生させたり、索敵などもこなせる万能機だ。

正直ここまでの物を作るつもりは無かったのだが、いつの間にか芸術を爆発させていたら出来上がっていたという代物なので、サテライトの数を増やす事は出来ても一から同じ物を作る事は出来ないだろうとテトは思っている。


そしてそれはテトが装備している幾何学模様が刻まれている手袋型のもう一つの魔導具にも同じ事が言える。


光子兵装[アーセナル]


これもその職人との合作であり、サテライトを傑作と呼ぶならこれはその技術の集大成とでも言うべきものだろう。

フォトンと呼ばれるものを使用し周囲に自分の使いたい形で力場を発生させることが出来るという物である。

形は剣に始まり、刀、槍、弓、銃弾、盾など様々な形にして操作することが出来、剣等の操作範囲は半径5mだが、矢や銃弾などを放つ場合は着弾まで形が維持される。

そしてそれを使う為に超小型の便宜上、光子炉(フォトンリアクター)と呼んでいる物を搭載している。

魔力をフォトンに変換出来るのだが、効率が魔力1に対して光子100という謎の超高効率であり周囲に漂う魔力を吸収して変換する事も出来るために、装備者のMPを消費せず使うことが可能なのだ。

もしこれを売ろうとしても値段が付けられないような代物なので、1級という最高位のレア度が付けられているのである。



テトはアーセナルを起動すると、少し遅れて追随するようにサテライトの後を追った。

周囲に無数の白い透明な剣を展開させて、草木をなぎ払いながら進む。

それに関して先程まで苦労して掻き分けながら進んだ苦労はなんだったのだろうという思いと同時に、何故アーセナルを使わなかったのだろうという事を考えていた。

どうせ自分が忘れているのを分かっていたからリザは何も言わなかったんだろうなとあの真っ黒の事を思っている内に現場へと辿り着いた。


そこは死屍累々といったような状況で10体程のモンスター達が居たようだが、その内8体は既に事切れていて残ったものももはや虫の息といった状況であった。

リザは1機をうずくまって震えている女の子にバリアを張って守り、他の2機が周囲を殲滅したようだ。


テトは虫の息のモンスターにトドメを刺し他に襲ってきそうなモンスターが居ないか周囲を探る。

木々に邪魔されて奥の方は確認する事が出来ないのだが、特に脅威は無さそうだと判断して女の子の方へと近づこうとした所でリザから声が上がる。


『マスター!5時の方向から高速でこちらに向かってくる大きな反応があります!注意してください!」

「マジか!分かった!そのままリザは女の子を守っててくれ!」


そちらの方へ振り向くとすぐに大きな音が聞こえてきて、こちらに近づいてくる程それは大きくなる。

テトは先程展開した剣達を周りに維持して音が響いてくる方向を睨んで構える。

それ程時間が経たない内にテト達の目の前に現れたのは3m程の身体が赤黒く染まった巨大な熊であった。


ーーーー

・[ブラッドベア]

・Lv.116


・スキル

[鉤爪:4][俊足:3][咆哮:3][再生:2]


・状態異常

[狂化:2]

ーーーー


テトは熊が視界に入ったと同時に装備スキルの[解析]を発動させる。

モンスターや人などの生物と罠の情報を取得する事が出来るもので、下位スキルに当たる[観察]では名前とレベル位しか見る事が出来ないが、これは相手の持つスキルなども見る事が出来る。

ただし、逆に隠蔽系のスキルには改ざん能力があり、ステータスを誤魔化すことが出来る点には注意が必要ではあるが。


「おいおい[狂化:2]って…惑わしの森で出てくるもんじゃないだろ。…っと!」


すぐにブラッドベアがこちらへと接近して上げた右腕をしならせながら振り下ろしてくる。

テトは一旦左に避けるとブラッドベアの右腕は近くにあった木に直撃するが、そのまま何もなかったかのようになぎ倒していく。


「こりゃここで戦ってたら後ろがヤバイな。【ガード・プレッシャー】!」


テトは盾系スキルを取得していると使える、敵の注目を集めると同時に自分の防御力も上昇させるアーツを使った。

そのままリザ達に被害が出ないようにこの場所から離脱する為、テトの腰にあるサテライトの残っている1機を他の3機の所へ飛ばす。

本来ならリザとの連携で敵と戦うが、弱いとはいえモンスターがうようよしている森の中で戦闘力のない女の子を放置しない為だ。


「リザ!俺はここを離れるからな!」

『承知しました。こちらは気にせず頑張ってください。…!』


最後、何かリザの様子がおかしかった気がするがそれも敵の前では一旦置いておく。

途中ブラッドベアの爪や咆哮といった攻撃をアーセナルのバリアで防ぎながら徐々にリザ達の場所から離れていく。

そしてたまに剣を生成してはブラッドベアに飛ばし、自分への注意を逸らさないようにする。

しかしブラッドベアはその俊敏さと本能のようなもので何とか躱し、多少傷ついた所は[再生]の能力が勝手に治癒していく。

厄介だな、と感じながら十分に離れたところでテトは改めてブラッドベアと対峙した。


「さってと。それじゃさっさと片付けますか!」


細長い槍を10本程生成してその巨体を生かして体当たりをかましてくるブラッドベアを迎撃するように全ての槍で串刺しにする。

体当たりの為に上げた速度に比例するかのように槍は身体のあちこちにめり込む様に刺さっていく。


「ーーーがあぁぁぁあぁ!!?」

「終わりだよ。」


苦悶の声をあげるブラッドベアだったが、その脳天に一本の剣が突き刺さると繋がっていた糸が切れるかの様にその巨体を沈ませる。

テトは再び動きださないかと構えを解かず警戒をしていたが、特に動く気配も無いようなのでその場でメニューを開き、その巨体をアイテムボックスの中へと仕舞うのだった。



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