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「あぁ…やっと正式サービス開始か…」


そんな事言って額に浮かんだ汗を袖で拭いながら小柄な青年が呟く。


夏休みも中盤に差し掛かり眩しいくらいの日が照りつける中、所用から呼び出された大学から急いで家へと帰宅し勉強机とでも言うべきもの上にある置き時計を確認し、その横にあるベッドに横になると、備え付けられたヘッドギアを被ると今か今かと興奮が身体の内に広がるのを抑えながらゲームの開始時刻を待っていた。


今から3年前に技術革新が起こり意識没入型のバーチャル・リアリティ機器が開発される。

脳波を意図的に操り身体への電気信号を生理的なもの以外をシャットダウンし、直接信号を送る事で擬似的な感覚を与える事が出来るようになっていた。


最初はこの技術に対し否定的な声が上がることは必然であったと思う。外側から脳内信号を操れるという事に対しての犯罪や脳への影響を危惧したものだったからだ。

しかし、ゲーマーというのは業の深い存在である。そんな声は彼等にとっては何の意味もない。


折角、世界が広がるというのに何故それを手放さなければならないのか、そんな熱い思いがネット状で駆け巡りゲームを提供するメーカーには様々な形での意見具申があったのである。


そしてその思いが見事ゲームの開発に関わる企業を動かしてVRゲームの開発が行われたのだった。


初めはスポーツなどに始まり、レーシング、アクションなどと様々な広がりを見せていく。


その中には勿論MMOの開発も勿論存在しそれが今日やっと花を開かせるのである。


VRMMO「フリーダム・プラネット(通称FP)」


これがVRMMOとして初めてのタイトルである。

このゲームは所謂スキル制(スキルを育てる事でプレイヤーが強くなるタイプ)でプレイヤーは探索者となりそれぞれが自由に世界を冒険したり、物を作ったり、町を作ったりとその自由性が前面に押し出されていた。


これに対するβテストにはVR機器の無料貸出などの特典もあり、テスト人数1000人に対し、今迄VR機器を持っていなかった人もこれを機会にと応募し約300万人もの応募があった。実に倍率3000倍という他に例を見ない程の申し込みがあったのである。


今ベッドでゲームの開始を胸を弾ませて待っている大学生、立花(たちばな) 哲人(てつと)はその倍率3000倍という狭き門を潜り抜け見事βテストに参加し、仲間と共に色々な伝説を打ち立てた猛者の一人である。


哲人はβテストに参加した際感動した。VR型の一人用ゲームというのも初めは全身で体感出来る為にやり込んだものである。しかし次第に物足りなくなってくるのだ。


元々MMOをやっていた事から、時にソロでモンスターを倒したりアイテムを製作し、時に仲間とパーティを組んでボスへと挑む。そのワクワク感がとても気に入っていた。

今迄のゲームは画面に向かってキーボードやマウスを弄りながら、画面内のキャラを操ってプレイをするタイプだった。


それがヘッドギア型の端末を頭に装着し、眠るように意識をそちら側に向けるとそこには中世の様な街並みが広がり、街から一歩外へ踏み出せば草原や若々しい木々が生い茂った森が広がり五感に訴えかけてくるような刺激的な感覚が体全体に広がっていくのだ。


街の外での戦闘でモンスターが襲い掛かってくることには大多数の人間に恐怖を抱かせた。

鋭い牙や研がれてギラついている武器を振り回したりしてくるのである、それは当然の感情であるといえる。


しかしそんな中でも手にした武器で敵を屠りその身の糧として、世界を探索していく者達は存在した。

探索者達はその世界が終わるまで思い思いに存分に武器を振るい、魔法を唱え、物を作り、その足跡を確かに世界へと刻み付けたのである。


そして正式サービス開始では第1陣として、βテストに参加した1000人に加え、新たに抽選した9000人を加えた1万人がフリーダム・プラネットの世界に降り立つ。

また、βテストに参加した者達には特典として素材などの所持品に関しては無くなるが装備 武器防具、装飾品やレベルは1に戻されるが獲得して装備していたスキルが引き継がれるのである。

逆にこれが初めての参加となる人に対しては、別のきちんとした運営による支援はあるのでそこは考えられている。


ゲームの情報を改めて復習し直していた哲人はヘッドギアのディスプレイに表示されている時間でゲーム開始1分前である事を確認し、脳内で秒数のカウントダウンをする。

カウントダウンが0になったと同時に目でディスプレイを操作して目を閉じてゲームにログインした。


多少の演出が視界に広がり「Welcome to Freedom Planet」という字幕と共にゲーム内で自分となるアバターの設定画面が目の前に開く。


哲人にはFPのβテストで使用していたデータがある為、それの引き継ぎポップが展開しそれの同意するなどの作業をして元々使っていた身体が展開される。

PCネーム「テト」

自身の名前に近い事はもうご愛嬌である。

アバターは現実の身体と身長や体格は同じにしてある為、身長160cmと男性の中では小柄な黒髪黒眼の少し寝癖が入った髪型である。

元々装備していた武器や防具も同時に展開され、哲人はそれに一つ頷くと一通り確認をし直して設定を終了する。


そしてプレイヤー達の始まりの街「アルカス」へと降り立つ為に徐々に視界が暗転していくのだった。


この時はまだ待ち構えているものの衝撃と事実も全く知らずにこれから始まる冒険に心を躍らせながら。



何処かに落下した衝撃が身体に走り、テトは痛みに顔を僅かに顰めながら目を開けるとそこは薄暗い部屋の中であった。


光源はないのだが部屋全体を苦も無く認識出来る程度の暗さで身体を起こして見回してみると、壁にはヒビ割れが入っていたりと全体から遺跡のような古さが感じられる。


「…?これが正式版のスタート地点なのか?」


テトは呟きながら顔を傾げる。β時代はアルカスの中央広場で目を覚ました。正式版でも同じ場所で目覚める筈だったのだ。公式ページでもそう書いてあったのを確認している。


「運営の不手際かね?いや混線…バグだったら面倒だな。どうしようか…」


と、そんな考えを口に出し【GMコール】でもしようかと頭の隅に浮かべながらおもむろに立ち上がり振り返ると、背後に金属製の扉とその横に古そうな木製の机が有ったのを発見する。


その机の上には同じく古書とでも言うべきな本が2冊置いてあり、1冊は日本語、もう1冊は見たことの無い言語で書かれたタイトルであろう本がある。

日本語の方には簡単に【指南書】と書いてあり、説明書ではないのだろうか?と少々疑問に思うのだが、さらに疑問なのはもう1冊の意味不明な本のタイトルも【指南書】と書かれているのが本能的に分かることである。


とにかくこの疑問も中に書かれている事を読めば多少は解決するのだろうか?とタギョウは思い日本語の方を手に取り読むことにした。


『はじめまして、後輩諸君。私の名は武田和也(たけだ かずや)、こちらでは「カズナリ」と名乗っているプレイヤーだ。何故こんな本がと疑問に思っているだろうが、説明の前に申し訳ないがまずはメニューを開いてみてほしい。βテスターの人はやり方は分かっているだろうが、初めての人は[メニューオープン]と唱えれば目の前に展開されるはずだ。』


と書いてあるのでテトは[メニューオープン]と呟き、懐かしいホログラフ調の透明なメニューウィンドウが表示される。

Item(アイテム)】や【Equipment(装備)】といった欄が有り特に変わった様な所は無さそうなので再び本を読み進める。


『さて、メニューを開いてもらったところで【Option(設定)】をタッチなりして開いてほしい。新人は分からないだろうが、βテスターには違和感に感じる事があるだろう。よく見てくれ。』


本に書かれた言葉に従い、【Option】を開く。テトはβテスターである。ここの機能はβ時代でもよく使った故に確かに言葉通りに違和感を感じる。何か設定欄が少ない気がするのだ。


「ふむ。何かが足りないような。ん?…ちょっとまて。おい…まさか!?」


テトは言葉にした所で有る重大な事に気付く。そしてそれを確認する為にまさかと思いながら慌てて本の続きを読み始める。


『どうだろう。気付いてくれただろうか?まず、【GMコール】が無い。私も探してはみたがそれに該当する様なものは発見できなかった。そして何より重要なのは、【ログアウト】が存在しない。改めて言う。【ログアウト】は存在しない。この世界はゲームであってゲームではない。私は色々と経験した結果から、ここは「フリーダム・プラネット」の世界とほぼ同一な「異世界」であると結論付けた。』


「ログアウト出来ない…?ここが異世界…?おい嘘だろ…?冗談なんかじゃないのか!?」


この文言に頭を真っ白にさせながら愕然とした。そう、確かにログアウト機能が備わったタブが存在しなかったのだった。


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