ハロー アメリカ!
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俺がアメリカはアイダホの片田舎で、銃を片手にゾンビ相手にドンパチやらかす羽目になったのは、幾つかの複雑な理由がある。
一番の理由は、薩州薩摩の鹿児島育ちな俺が友人、大隅の豪農さんちの息子な奴の伝手(牧畜、黒毛和牛繋がりとか言ってた)で、俺がアメリカに遊びに来てたって事。
何でも家同士で交流の中で、若い奴を社会と畜産の勉強をさせるという話があって、で、たまたま空きがあったんで俺にも声が掛かったのだ。
持つべきものは友ってね。
高校生で夏休み辺りを利用してアメリカで過ごすって、何てムネキュンって話だ。
うん。
そう思ってた。
ただ問題は、その頃、性悪の中国人が核兵器を越える新世代戦略兵器! なんてうたい文句で開発した次元振動弾とか言う訳の分からない兵器が、ご近所な世界への大穴を開いてしまっていたって事。
正確にはその頃じゃない。
とも角、細かい事は知らないが、とも角、アメリカ大陸には異世界への穴が開いていた。
といっても、一般にどんな穴だとか、どんな世界に繋がってるかなんて知らなかった。
大統領さんが演説で、『神の恩寵、我らの新世界だ!』なんてぶち上げてたのを聞いた位しか知らない。
正直な話、遠い向こうの話だった。
それこそNASAとかが言ってた火星への移民話なんてのと同じレベルの話だ。
アメリカは当然だし、最初に穴をあけた中国だって穴の向こうの異世界に関する情報なんて一切合切公開していなかったんだから仕方がない。
それよりも俺はアメリカで食う本場モノのハンバーガーやBBQ、世界最大の火山って話のイエローストーンに興味があった。
桜島より凄いんだよな? と友達と盛り上がってた位だ。
あ、後は本物の銃に触ってみたいって気分もあった。
美人でボインボインなパッキンネーチャンと友達になりたいっても思ってた。
平和だった。
或は、何も考えていなかった。
―― AD 2020 7.14 アメリカ合衆国 中西部 アイダホ州
溝辺(鹿児島)空港から成田、そしてアメリカへ。
荷物扱いなんて言われるエコノミーな飛行機を乗り継いで、降り立ったアイダホの地は、何というか、乾いた場所だった。
というか暑い。
湿気が少ないので不快指数は高くないけど、暑い。
別に空調のある空港の中で待ってても良かったんだけど、何というか、待ちきれなくて外に出たのだ。
で、出たら暑かった訳で。
「暑いな」
「ああ」
本当に暑い。
空港の軒先で荷物と一緒に迎えを待つ。
暇。
「……コーラでも買って来るから荷物見ててな」
「あ、んじゃ俺の分も」
「おう」
日本と違って飲み物の自動販売機がそこら辺に無いアメリカじゃ、飲み物1つ買うのでも、空港内の売店に行くしかない。
という訳で、しばし独りぼっち。
暇。
本やスマホもあるけど、旅行鞄から出すのが面倒くさかったり圏外だったり。
なので呆っと空を眺める。
青くて高い。
お迎えの人、友人は顔見知りだけどまだ来てない。
実にアメリ感。
だが、こんなのんびりとした時間も悪く無い。
鳥が飛んでいる。
と、目の前に人影が。
「やあ!」
“ハ”というよりは“ア”みたいな発音だけど、割と聞き取りやすい英語。
見れば自転車に跨った女性、否、子供。
細身で小柄で、泥や油シミの着いたオーバーオールジーンに白いブラウスを着た女の子だ。
顔立ちは、強い。
金髪のソバージュと御揃いの眉と目元には力があり、キリッとした男前系だ。
その碧眼が俺を見ている。
少なくとも友好的には見えない。
「あ。あー どなた?」
拙い英語で聞いてみる。
母音を強調する日本式英語、学校で習った奴で、現地で通じるかはマジでぶっつけ本番。
というか英語ペラペラの友人、早く帰ってきて。
お願い。
自動販売機の少ないアメリカが恨めしい。
と、俺の拙い英語を聞いた女の子は、少し考える顔になった。
「貴方の名ははカミハル・ユウゴで間違い無い?」
カァールハル・ユーゴォとは俺の事かい? なんて詰まらない事を考えながら頷く。
と、表情が緩んだ。
「そっ。待たせたわね。私は迎えのアリッサ・ディアス、アリーで良いわ」
「なら、俺はユーゴで」
飛行機の中で考えていた、愛称を口にしながら差し出された手をおずおずと握る。
握手。
それが、長い付き合いになる俺とアリーの出会いだった。
さてさて。
友人が返ってくるまでまだ時間が有ったので、しばしの雑談。
俺もだがこのアリーも、アメリカ人だからか人見知りしない人っぽくて割と会話が盛り上がる。
有難い。
雑談、先ずはお迎えの件。
何でも、迎えに来る途中で車がパンクしてしまい、今はタイヤ交換をしているとの事。
で、連絡なしに待たせるのも良くないからと、車に積んでいた自転車でアリーが先に来たのだという。
「アリーって偉いな」
お手伝いで、と言ったら怒られた。
子ども扱いするな、と。
「俺は17歳だぞ!」
「え!?」
同い年だった。
170㎝とチョイの俺から頭一つと少し低いアリー。
「ごめん」
いって中学生くらいに思ってました。
というか、プンプンと、ドイツもコイツもと怒る姿は小学生並みだ。
言わないけど。
凄く怒りそうだから。
「あ、あー アリー、アメ、食べる?」
なので機嫌を取る。
正確にはアメじゃなくて、ボンタン飴だけど。
鹿児島のお菓子だ。
「んー? ん、悪く無いけどコレ、アメじゃなくてグミじゃないのか?」
「アメ、ジャパニーズ……あー、鹿児島のアメだ」
「へー。オレンジっぽい味がするな」
「ジャパニーズ・オレンジ、ボンタンの味だ」
「へー」
俺の適当な説明に関心するアリー。
微糖っぽい味のボンタン飴だが、どうやら気に入ってくれた模様。
そして怒りも忘れてくれた模様。
食べ物って、大事だね。
そして怒りを忘れているウチに、話を転がす。
ここには居ない、だが共通の知人である友人新名主・大芽の話題に。
去年の夏にも大芽はアリーの家に来ていたらしい。
何でも環太平洋パートナーシップ、所謂TPPの門戸解放に適応し生き残る為に、同じ牧畜の家として協力しているとの事。
アメリカ式に大規模化して和牛を作りたいという大芽の家と、逆に、従来のアメリカ式の牧畜から高品位化 ―― アメリカでも人気の和牛風の牛を作りたいアリーの家と。
ふむ、羨ましい。
アリー、割と美人になれる素質があるので、こんなお嬢さんと1つ屋根の下とか羨ましけしからん。
なので、更に話題を変えましょう。
「しかしアリー、何で最初、俺を睨んでたんだ?」
友好的じゃなかったよね? と聞けば、答えは1つ。
「置き引きかと思ったのよ」
「おいおい」
「だって、タイガーのバックを別人が持ってたのよ? 警戒するのも当然じゃない」
大芽はタイガーとな。
仲が良さそうで悔しい。
しかし大芽のバック、確かに余り無い上に目立つバックなので、警戒したのも仕方がないか。
だって黄色と黒の派手な虎柄なのだから。
逆に、誰も手を出さないだろ? と思えてしまうのは、俺が平和な日本の人間だからかしらん。
「お待たせ!」
あ、噂をすれば大芽が帰って来た。
「久しぶり、タイガー」
「あ、タリー! ひさsi__ 」
多分、久しぶりとでも言おうとした大芽の顔に、アリーのゲンコツが突き付けられた。
中ってない。
中ってないけど、良いパンチだ。
つか、今まで俺の横に座ってたよね!? なに、この瞬発力。
「その呼び方はするなって、言ってたよな?」
「ご、御免」
さてさて。
3人で待つことしばし、パンク修理が終わって迎えに来てくれたディアス家のお父さんの車はデカかった。
ウチの親父が乗ってるセダンが、軽自動車に見える様な感じのピックアップトラックだ。
「待たせたなっ、タイガー! 少しは大きくなったか?」
車から降りて来たのは筋骨隆々、実にアメリカンな親父さんだ。
ジーンズに白い綿シャツ、サングラスとテンガロンなハットが死ぬほどに合ってる。
「1年ぶり、親父さん。肉食べてるからね」
「そりゃ結構! で、この子が友達か?」
見られたので、少し背筋が伸びる。
アニーの親父さん、外見は全然似てない感じだ。
母ちゃんの遺伝子が勝ったんだな。
「ああ。神治・勇吾だ」
「オーケー神治、俺はトニー・ディアスだ、トニーで良いぞ。ようこそアメリカへ」
「有難うトニー、俺の事はユーゴで」
握手。
グローブみたいな手だ。
硬くて、力が漲っている手だ。
握られる。
痛い位に力が入ってる。
だが、負けるのは嫌だ。
「おぅ、ガッツがあるな、ユーゴ」
「…つぅ………」
笑って来るけど、流石に喋る余力は無い。
これが肉喰ってる力かよ。
スゲェ。
マジでスゲェ。
「お父さん、馬鹿やってないで」
アリーが止めてくれた。
女神に見える。
つか、離された手が痛い。
「悪い悪い。中々に筋が良かったからな。さて、車に乗りな」
と、見ればもう荷物は車の荷台に積んであった。
アニーの自転車も乗ってる。
手早い。
どうやら大芽とアニーは、トニーと俺の挨拶そっちのけで準備していたらしい。
「ビックリしたろ? だけどトニーの親父さん、認めてくれてたな。流石は勇吾、剣道段位持ちは違うな」
「最近はラガーマンが本業だよ」
尚、でっかい車は、車内もデカかった。
アメリカ、スゲー
後、駄弁ってたらコーラを飲み損ねた。
ヌルイコーラ。
美味しくないわー
次からは、ドンパチ突入。
ゾンビあり〼
後、ゴブリンもあり〼
ヒャッハー
戦場を支配するのは鉄火の量じゃー